第16話 婚約者の父親を、呪いから解放するZO★
オレたちは、魔王の城に足を踏み入れた。
外見は、今にも崩れ落ちそうなほどにボロボロだ。なのに、内装はしっかりしている。おまけに、なんか近未来っぽい。異次元の世界って、こんな感じなのかもしれないな。
なるほど。女神がオレたち転生者に、協力を要請するわけだ。相手のほうが、技術力が高いようだし。
「ジュライ王子。敵の気配を、何も感じないぞ」
「さすが、勇者といった感じだNA★」
本当に魔王の城まで、攻め込んだんだ。
守りがいないのは、すべて勇者が倒してしまったのだろう。
「チチェロ。キミのお父上は、すごいことを成し遂げたんだ。なんと誇らしい」
「ありがとうございます」
チチェロは、父の功績を見て安堵する反面、どこにも見当たらないことを心配していた。
「でも、甘ちゃんなせいで魔王様に籠絡されちゃったんだよねえー」
チチェロが、妙なことを言い出す。
さっきまで、頼もしげだったのに。
「待てチチェロ殿、何を言い出すんだ?」
クッコ姫が、チチェロを問い詰める。
「今の発言は、わたしではありません!」
「そうそう。わ・た・し~っ」
もう一人のチチェロが、オレたちの前に現れた。
なんだ、この姿は?
ハイレグアーマーという、背徳的なプロテクターに身を包んでいた。ファスナーを下ろしきった、ライダースーツと言うべきか。チチェロ本人より露出が激しく、隠そうともしない。
「わたしはサキュバス。魔王様の忠実なるしもべ。で、こっちがねぇ。わたしのオモチャ❤」
キャハ、と、サキュバスが笑った瞬間、オレの頭上に剣戟が落ちてきた。
チチェロとクッコ姫によって、オレは後ろに突き飛ばされる。
攻撃を叩きつけてきたのは、黒い仮面を被った、騎士風の男だった。
「まさか、お父さん、なの?」
この人物が、チチェロの父親か。
しかし、分厚い仮面に覆われて、何も見えていないようだ。
「どう? わたしの洗脳術は? ホームシックになってる一児のパッパなんて、ちょっと『誘拐されて泣いている娘』を演じただけで、コロッと気を許しちゃうんだよね~」
サキュバスはチチェロの顔で、いやらしい笑みを浮かべる。
「卑劣な!」
「まっとうな作戦って、言ってほしいかな~? ささ、パッパ。やっちゃって」
勇者が、サキュバスの指示でこちらに攻撃を仕掛けてきた。
チチェロが盾になって、攻撃を受け止める。
親子だけあって、お互いに太刀筋を見切っていた。そのためか、どちらも攻めきれないでいる。
相手がチチェロの父親だからか、クッコ姫は加勢したくても手出しができない。
「目を覚まして、お父さん! わたしは、ここです!」
いくら呼びかけても、勇者はチチェロの声に入っていないようだ。
おそらく、あの兜が邪魔なのだろう。
「ムダムダ。四天王を一人倒して疲弊しているところを、丹念に洗脳してあげたから。いやあ、ラクな仕事だった~。ちょっと甘えた声で呼びかけたら、すぐに信じ切っちゃって~」
サキュバスが、背筋を伸ばす。
「洗脳は解けない。彼をわたしの呪縛から解放するには、首をはねるしか、ないかもね❤」
「貴様!」
クッコ姫が、サキュバスに突撃した。
しかし渾身の攻撃は、見えない壁に阻まれる。
ガラスのような障壁が、サキュバスの眼前に張られているのだ。
「防御結界? バカな。結界を張って、結界の向こうにいる相手に精神操作魔法を発動させるなんて」
結界越しでも、相手に洗脳魔法を継続して送り込んでいるわけか。
「魔法での防御を突き抜けて、魔法の効果を発揮するとは。そんなの、ジュライ王子と同じ……」
オレがさっき、四天王をリバースさせた方法と、同じというわけだ。
「つまり、お前も【言霊使い】ってわけDA★ サキュバス」
「そそ。要するに、わたしの洗脳は、あんたたちには絶対に解けない」
チチェロが、やや押され気味になってきた。
やはり、戦闘経験の違いからか。
今まで幹部クラスの魔物を、一人でやっつけてきたのだ。
これは、オレがやるしかないかな?
「待ちたまえ」
おもむろに、オレはチチェロ父娘の間に割って入る。
「ジュライ王子!? どいてください! これはわたしと父との問題です」
「それはオレの問題でもある」
勇者が、オレにも攻撃をしかけてきた。
オレは防御結界を限界レベルの出力で、勇者の技を受け止める。
あっぶねー。
「はじめまして、お父上。チチェロには、色んな意味でお世話になっております」
勇者に対して、紳士的に振る舞う。
「危険な目に遭おうともあなたを探すという、チチェロの勇気。ついていくといったオレを全力で守ってくれる、胆力。すべて、あなた譲りですな。その戦いぶりを見ていれば、どちらが本物の娘かわかるはず」
「なにをバカな! わたしの洗脳は、説教じゃ解けないよ!」
サキュバスが、オレに罵声を浴びせてきた。
構わず、オレは勇者に語りかける。
「勇者よ。お恐れながら、申し上げる。あなたは……サキュバスの姿を、自分の理想とする娘に当てはめているに過ぎない」
勇者の動きが止まった。
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