第18話 魔王(おばさん)と対決だZO★
「いや、ジュライ王子よ。私も同行させていただく」
勇者は、なおも食い下がる。
「危険ですぞ、お
だが、オレは勇者を引き止めた。
「王子よ。あなたから義父と呼ばれるなんて、畏れ多い」
「謙遜なさらないでくだされ」
もうオレとチチェロの将来は、確定している。これは、揺るぎない。
「それより王子よ、大事なお話が」
……スルーされちまったよ。
「魔王について、お話が」
「知れたこと。元人間なのだろう?」
オレが推理すると、勇者はコクリとうなずく。
「あの人物は、我々勇者一行とパーティを組んでいた。だが、魔王を討伐した直後に、自ら魔王となり」
「好き勝手に暴れているってわけか」
「同行していた天使と、説得にあたったのですが……」
「もうよい。自分を責めなさんな」
あとは、オレに任せていただきたいんだが。
「勝手ながら、私にも、お手伝いできることが」
「ぶっちゃけ。あなたにできることは、ないぞ」
「王子!」
そうは言っても、本当になさそうなんだよなあ。
魔王より強いって、どう考えても同じ転生者ってことじゃん。
こんな地球のテクノロジーを、平然と使うような相手だ。
勇者が敵うはずがない。
「とにかく、案内だけはしてくれ。そこから、考えよう」
勇者を先頭にして、魔王のいるフロアへ。
「現実はクソ!」
魔王のフロアに入った途端、アレな発言が飛び交った。
「あらら。四天王がみーんな、やられちゃったの? あーもう! ファンタジー世界でも、現実はクソだわ! ちっとも、うまくいかないじゃない!」
どうやら、この世界の魔王は女性らしい。
見た目こそ美しいが、オレにはわかる。根性が、黄土色だ。
言霊を操る能力持ち同士だから、わかる。
このオンナの正体は、「五〇代のババア」だ。
「お前が魔王か?」
「そうYO★ 推しの男性声優が結婚して、ショックで転生したのYO★ で、神様に『魔法使いにして』ってお願いしたんだけどね。強くはなったけど、モテなくて」
「お前の推しってのは、もしかして……では?」
オレは、心当たりのある人物の名前をあげた。
「よく知ってるじゃない? あなた、こっちの世界の住人じゃないわね?」
「そうだ。オレも、相手方の声優さんが結婚して、こっちに転生したんだ」
「因果なものNE◇ 推し同士が結婚したせいで、転生するなんTE♣」
「能力を私物化するようなやつと、一緒にするんじゃねえ」
オレはコイツみたいに、魔法を私利私欲のために使わない。
「欲望を解放することにこそ、意味があるんでしょ?」
「それでは、愛されなくて当然だ。現にお前の側には、誰もいないじゃないか」
「ええそうよ! 家庭は崩壊! 組んだパーティは全滅! 祖国の治安も悪化したわ! でも、それがどうしたってのよ! あたしは困ってないわ! あたしが魔王になればよかったから!」
祖国が滅び、彼女は猛烈な勢いで魔王を討伐した。しかし、彼女は自ら魔王になってしまったのだ。
「そんな。人間が、魔王に成り代わるなんて」
信じられないという表情を、チチェロが見せる。
「うむ。私は天使とともに、あのオンナを説得したのだ。しかし、結局は負けた。その過程で、魔王の配下として洗脳されてしまったのだ」
四天王とやらは全員、勇者の元パーティだったらしい。
しかし、魔王となった魔法使いによって、みんな魔物に姿を変えられてしまった。
「なんという卑劣な! 覚悟!」
クッコ姫が、我先にと切りかかった。
「あらら~。威勢の良いお嬢ちゃんNE◇ でも【スキル:ソニックスラッシュ】なんて、光の精霊ちゃんにごあいさつが足りてないんじゃなくて? もっと魔力を注ぎ込まなきゃ、いうことを聞いてくれないわYO❤」
「おえええええええええええ!」
攻撃が辿り着く前に、姫が急ブレーキをかける。そのまま、床をキラキラで汚す。
「まったく。鈍いわNE♤ そんな力で、よくここまで戦えたものだWA◆」
杖で、クッコ姫を殴り飛ばす。
「クッコ姫!?」
チチェロが、姫をキャッチした。
「ま、魔王が……ジュライ王子と、同じ能力を!」
「あいつの魔力は、サキュバスなんて比ではない。脳に直接不快な魔力を流し込んできている! ジュライ王子より、粘り気があるぞ。なにより、怖気がすごい」
オレより欲望の塊なせいで、不快指数がとんでもなく跳ね上がっているのか。
「違う。これは【おばさん構文】だ」
おばさん構文とは、オレの持つ【おじさん構文】と対をなす言語だ。
オレも昔、メッセアプリに構文を送ってこられたことがある。
送り主は、取引先のおばさんだ。
相手との距離感を考えずに送るので、寒気がする。
こんな身近に、同じ能力者が転生していたとは。
「これはアレだな。おおかた、自分の能力に溺れたか」
オレの前に転生して、一足先に魔王を討伐したはよかった。
が、自分のチートぶりに慢心して、世界にいうことを聞かせようと動き出したのだろう。
女神はコイツのヤバさを見抜いていたから、予防線としてオレを雇ったのかも知れない。
「二人まとめて、あの世へ送ってやる! なにより勇者の娘! こいつは推しを奪ったやつに似てるから、気に食わん!」
勝手にブチギレている魔王が、怒りに任せて火球を杖から打ち出した。
「そこまでだ。おばさん」
オレは、チチェロと姫の前に立つ。手をかざして、障壁を張った。
敵の魔法が、障壁に当たって霧散する。
これは、オレが戦うしかあるまいて。
「やはり、オレだけで戦う」
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