この母にしてこの子あり

著者のフランス革命期を巡る作品群の第五段。
いよいよ、ナポレオン皇帝です。
これまでの作品群でも要所に存在を示しはしましたが、満を持して表舞台に登場します。

と、思いきや、物語は始まりから意表を突かれます。

ナポレオンの活躍地域はパリなので、そのバックグラウンドに思いを馳せると意外性に行き当たる方もいるのではないでしょうか。

出身地はコルシカ島。

現代で言えば、フランスよりもむしろイタリアに近く、かの地をイメージする言葉を挙げるとすれば、「陽気」「人好きのする」「家族愛」「威勢」などでしょうか。

本作はナポレオンの母マリアの眼差しを通して息子ナポレオンが語られます。

肝っ玉母さんと皇帝。
それは絶好の組み合わせとはいかないかもしれません。
母は息子をいつまでも、お腹をすかせた子供と見て、息子は度量の広い母に頭を抑えられる不満があったり、と。

やがて皇帝がその地位を追われ、主役の座から転落した時、母は息子に二つのものを差し出します。

一つは、息子が立派に己の身を立てた証として母に示したもの。
そして、今の彼を現実的に助けるための手段です。

そしてもう一つは、決して息子が母には敵わないと、その魂のレベルで刻まれた唯一のものでした。

コルシカっ子の気風が物語に一貫して通底し、かつ、結論でもある力強いモティーフを備えたお話です。
読めば爽快になること、また、これまでのナポレオン像を裏切られることは間違ありません。
そして、母の愛と強さに胸が熱くなることは必至でしょう。

素晴らしい物語です。
ぜひご一読ください。

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