ダウナー系ヴァンパイア様は溺愛(狂愛)属性が覚醒したようです。
nika
プロローグは監禁から
『紀元前 ◯月×日』
玉座を獲るため、国中の貴族が戦争をしていたある日のこと。
過疎地域に小さな屋敷を一つ構えるだけの弱小貴族ゴールド家は、突如として天下を取った。
手段は単純だった。
『一族で一番美しい娘の生き血を、末代まで捧げる』という契りを交わし、彼らは悪魔を使役したのだ。
そうしてこの国の王となったゴールド家は、悪魔がこの世に降り立った日を紀元とし暦をブラッド歴と定めた。
その”悪魔”とは、人の生き血を養分とし並外れた身体能力を発揮する闇の帝王ーー。
人々はそれを後に”ヴァンパイア”と呼んだ。
***
『ブラッド歴1900年。12月1日』
誰かがこれを読むのか? なんて、私には検討がつかないけれどとりあえず今日の出来事を端的に説明するわ。
どうやら私は外出中に気を失ったらしい。
そして、目が覚めると檻の中にいたの。
もう一度言うわ。
なぜか檻の中にいたの。
その檻とは、真っ黒のアーム製で鳥籠のような形をしている。
大きさは直径二、三メートルくらいだろうか?
底には黒のすべらかなクッションが敷き詰められていて座り心地はかなり良い。
枕も膝掛けも置いてあるし、謎にユーザー(?)へのホスピタリティが行き届いている。
そして最も注目すべきなのは、その檻と私の右手首が鎖で繋がっているということだ。
この状況、もしかしなくても監禁?
軽く頭を叩いてみる。
痛い。夢じゃない。
「こんにちは! 私はティナ・ゴールド、十九歳。家族構成は父、母、兄。由緒正しいゴールド家の令嬢。最近結婚が決まってマリッジブルーに襲われているわ」
私は壁に向かって自己紹介をしてみた。
頭は冴えているから、幻覚を見ている訳でもないようだ。
犯人の目的は一体なに?
怨恨関係?
正直、我がゴールド家の世間からのイメージは悪い。
古代にヴァンパイアを使役し、チートモードで国を牛耳っていたから。
「だからといって私、誘拐されるほど恨みを買ったっけ?」
それなら身代金?
「いや、うちはもうとっくに王族じゃないし貧乏だし……」
なぜなら寿命が長く身体能力も高いヴァンパイア一族と徐々に主従関係が逆転していったから。
あとはなんだろう?
特に理由が思い浮かばない。
どうしよう……何とかして早く逃げないと。
私は自分を落ち着かせるように深呼吸をした後、辺りに目を走らせた。
部屋はなんというか全体的に真っ黒でゴシック調。
天井のシャンデリアも中央にあるテーブルも、壁際のベッドも。
おまけに絨毯と壁紙まで。
って、あれ……?
「ここ、レオンの部屋じゃない?」
内装が前と違うから最初は分からなかったけれど、部屋の細部や間取りを確認して確信した。
レオン・ガーネット。
今もなお存在するヴァンパイア一族、ガーネット家の嫡男で私の”元”婚約者の部屋だ。
でも、レオンは一年前から病院に入院している。
両親を目の前で殺されるという凄惨な事件が起きて、ショックで昏睡状態になってしまったから。
だから、彼が私を誘拐することはあり得ない。
今日だってレオンのお見舞いに行ってきて、別の人と結婚すると報告してきたところだ。
……そうだ。思い返せばその後から記憶がない。
つまり私は帰り道に誘拐された?
そして犯人は、レオンの部屋をアジトにしている誰か?
あり得なくはない。
レオンがいなくなってからこの屋敷は放棄されているから。
ガチャッと、扉の開く音がした。
弾かれたように振り向く。
扉から、黒いローブのフードを深く被った男が部屋に入って来る。
「……!」
悲鳴が出そうになって、でも声にならなかった。
男は私が恐怖に固まっている間に、檻の扉にかけられた何重もの南京錠を手際良く取り外す。
扉が開けば中に入ってきてーー。
どうしよう、殺される……!?
と身を固くしたら、何故か私は折れるかと思うほど強く抱きしめられていた。
「ティナ! 起きたの?」
「……え?」
目を開けると、深紅の瞳が間近にあった。
真っ黒のフードと男の銀髪のコントラストが美しい。
銀髪紅眼はヴァンパイアの遺伝子を持つ証。
つまり目の前のこの青年は、眠っているはずの……。
「れ、レオン……? うそ、目が覚めたの?」
私が信じられない気持ちで名前を呼ぶと、彼は嬉しそうに微笑んだ。
「うん。今日ティナが見舞いに来てくれた後にね」
それは感動の再会と言うのに相応しい。
色んな感情が湧き上がってきて、えっと、えっと!! この気持ちをなんて表現したらいいの!?
「そんな、ほんとに? 良かった……良かったぁ!! 本物なんだよね、夢じゃないよね!? 私、レオンが起きるのをずっと待ってたんだよ!」
「ティナ、声がでかいよ」
レオンに困ったように笑われて、私は今の状況を思い出した。
そうだ。嬉しいけど、今は喜んでいる場合じゃない。
私はここに監禁されていたんだ。
ん? ていうことは、レオンが私を助けに来てくれたの?
レオンはいつも気怠げで、無口で、眠そうで、生きてるのかな? って感じだったけど……。
頼りになる所もあるんだな。
レオンの顔をじっと見る。
レオンはいつの間にか私の手を握っていて、その暖かさに涙が出そうになった。
でも一年ぶりにやっと会えたんだ。
笑顔でいたかったから、私は泣くまいと我慢した。
「…………ふふ」
レオンが急に笑う。
恍惚そうに目を細める表情は見たことがなくて、私は少し驚いた。
レオンは熱いため息を漏らしながら私の目元をゆっくりと親指でなぞる。
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