***

「ティナのその顔、だーい好き。涙が溢れそうなのに我慢してて可愛いね? 守ってあげたくなっちゃうな」


 ……ん?

レオンってこんな事言う人だったっけ?


 困惑しながら見つめ返すと、彼はもう一度私をぎゅっと抱きしめた。


「はー……可愛い。その金色の髪も水色の瞳も、お人形さんみたい」

「え? あ、うん、それはどうも?」


 待って、何かがおかしい。

なんで私はこんなに褒められているんだろう?


「ティナ……好き。好き。大好き。いい匂いがする。食べてもいい?」


 なんて事を口走りながら、本当にとって食べそうな勢いでレオンが絡み付いてくる。

私は焦ってその腕を引き剥がした。


「ちょ、ちょ、ちょ! 待ちなさーい!?」

「なんで? やだ」

「やだじゃない!!」


 語気が荒くなってしまったからか、レオンは捨てられた子犬のような表情で私を見てきた。


 え、何その顔?

か、かわいい……。

じゃなくて!

なんか私の知ってるレオンとだいぶ違う気がするんだけど?


 レオンとは五歳の頃に婚約したから、付き合いは十四年になる。

私の中の彼といえばいつも血圧の低そうな感じで、私が話していると「……うん」と「へえ……」

しか返って来ないような口数の少なさで……。


 いや、この人誰だ?

もしかしてレオンのふりをしている別の人!?


「ねぇティナ、キスしたい」

「は、はい!? 何言ってるの!? ダメに決まってるでしょ!!」

「目瞑って」

「人の話聞いてる!?」

「聞いてるよ、ティナの話はいつでも。一生懸命話すのが可愛いから」

「え……」


 それが可愛い? のかは一旦置いといて。

確かにレオンはいつも私の長話を黙って聞いてくれていた。

相槌は少ないけれど、目はじっと私を見ていたからそう感じていたんだ。


 じゃあ、目の前のこの人は本物のレオンなの……?


 それが正しい認識なのかは考えても分かるはずはなく……。

そうね、本人に聞いてしまえ!


「あのさ……レオン、なんか性格違くない?」

「んー。なんか分かんないけど、今ものすごく元気なんだよね。だからかな?」

「いや、元気の一言で片付く感じじゃないよ。え? もしかして転生者?」

「転生……?」

「隠さなくて良いよ、私そういうの詳しいから」


 ・・・。


 と三点リーダーがその場を支配する。

二人で首を傾げたけれど、先に口を開いたのはレオンだった。


「あぁ、なんか昔ティナにもらった恋愛小説にそんなのがあったけ? 主人公が事故死して生まれ変わるみたいなやつ?」

「そうそう。転生者なの? それか死に戻り?」

「あはは、なんかまた訳の分かんない事いってる」


 何がおかしいのかレオンはケラケラ笑った。

その様子を見ると転生者や死に戻りではないようだ。


 なんだ、それなら全部辻褄が合うと思ったのに。

じゃあ本当に元気だから……?

いや、そんな訳ないよね?


「って、そうだよ!? こうしてる場合じゃないよレオン! 早くここから逃げようよ!」

「なんで?」

「え? だって……ってちょっとぉ!? 何してるの!?」


 話の途中で立ち上がったレオンは、檻から出ると鼻歌まじりに南京錠をかけ始めた。

唖然としているうちに最後の鍵がカチンと音を立てて、私は焦って檻にしがみつく。

レオンは目の前にしゃがんでそれを満足そうに見つめていた。


 何この状況!?


「なんでまた鍵閉めたの!?」

「だって逃げるなんて言うから。ダメだよ? ティナはずーっと俺のそばにいなくちゃ」


 そう言ってレオンがニコニコと笑った時、私は背筋が冷たくなった。


 そうか。

私を誘拐して監禁したのは……。

このレオン・ガーネットなのだ。

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