***
「さぁ、メイドを呼ぶので着替えてください」
「嫌です。私は黒が好きじゃないので」
「でも、よくお似合いですよ? 黒はヴァンパイアを模した色、つまり私。あなたはゴールド家の娘ですから似合わないはずがない」
「……」
いやいや、何言ってんだこの人。
エミリオ卿ってヴァンパイア信者なの?
まぁでも、自分の家に誇りを持つことは悪いことではないわよね……。
えっ、もしかして私も側から見たらこんな感じなの?
気付きたくないことに気づいてしまった瞬間、部屋の扉がノックされて数人のメイドが入ってきた。
もう抵抗する気力も残っていない。
それに、エミリオ卿の趣味に付き合って満足させた方が早く帰れるかも。
そう思った私は、メイドに連れられてお望み通りドレスに着替えることにしたのだった。
「そのドレス、よくお似合いですよ」
レストランの個室で待っていたエミリオ卿は私を見て満足げに微笑んだ。
ドレスはゴシック調のレースとフリルがふんだんに使われたもの。
色もデザインもエミリオ卿と対になっているみたいでなんだか嫌だ。
私が席につくと、エミリオ卿は突然私に向かって頭を下げた。
「ティナ嬢、先日は突然の訪問失礼しました。私も気持ちが早まっていたのです。無礼な態度をお許しください」
「……いえ。もう済んだことですし」
「今日はただ、親睦を深めようと思ってここにお連れしたのです」
エミリオ卿がパチンと指を鳴らす。
それを待っていたかのように扉が開かれて、黒ずくめの執事たちが豪華な料理を運んできた。
これ、変な薬とか入ってないよね?
カトラリーに触れようともしない私を、エミリオ卿は楽しそうに見ている。
「それで、ティナ嬢はレオンのどんなところが好きでしたか?」
「きゅ……急ですね」
どういう意図で聞いてるの?
まさか、なにかのトラップ!?
「警戒しなくて良いですよ。素直に教えてください」
穏やかな態度でふふふ、と上品に笑うエミリオ卿は嘘を言っているようには見えない。
なので、私は当たり障りのない回答をすることにした。
「えっと、レオンはいつもぼーっとしてるじゃないですか」
「そうですね」
「人の話聞いてるのかな? って思う時もありますけど、目はよく合うんです。そういうところが好きですかね」
私が喋り終わると、エミリオ卿はその言葉を噛み締めるかのように目を閉じて無言になった。
一秒一秒が長く感じる。
何か失敗したのかと気が気でない気持ちでいると、エミリオ卿は急にカッと目を見開いた。
「分かりますッッッ!!」
「ひぇっ!?」
「レオンの眼差しは私も大好きです。特にあの瞳の色、あれは国宝級です。それから気怠げな表情は他者の支配を許さない自己の世界を持っているようで痺れます」
エミリオ卿はそこまで一息で話した。
「え、エミリオ卿……」
やばい、この人やっぱり変な人だ!!
だ、だけど……。
「それ、も、ものすごく分かります!!」
「そうでしょう! それからレオンはハンバーガーを食べる時に結構豪快に口を開けるのですが、その瞬間に見える犬歯がたまらないです」
「それも分かりますー!! 犬歯が尖ってて犬みたいで可愛いなって思います。あっ、犬みたいっていうか祖先がヴァンパイアだからですかね?」
「ええ、そうですね。レオンはヴァンパイアの遺伝子が強く出た子だと思います」
「え? そんな事が分かるんですか?」
私の質問に、エミリオ卿はひと段落するようにワインを飲んだ。
そして微笑みながら血のような赤い瞳で私を見る。
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