第9話 捗る私と落ち込む彼
「おーまいがー………」
私は教科書をカバンに入れる前にしている確認作業の途中で、嫌なことを思い出して机に突っ伏した。
「ど、どうした?」
私の言葉に大野くんが反応する。
「再来週に期末テストあるじゃん?」
「ああ。」
大野くんが教室にあるカレンダーを見つつ頷く。
「もーむり分がんない………」
高二の授業、ムズすぎるよ…………
「…………ふ。」
「なんで笑うのさぁー!
それよりも、大野くんはどうなのよぉー!」
笑われた悔しさでつい大声が出る。
「俺は授業で聞けば覚えれるから。」
あっけらかんと、悪びれることなく言い放たれたセリフは私の胸に突き刺さった。
「グハァ!?
あぁー!そうだったね!羨ましいわ!クソォ!」
私は必死こいて勉強してるってぇのにぃー!
「………………」
「私だって勉強すれば出来るよ!そりゃぁね!でも今回はムズすぎるよ!これから先もっと難しくなるとか鬼ー!」
「なぁ。」
「悪魔ー!…へ?」
大野くんの声に意識を向ける。
「図書館で勉強ってのはどうだ?所謂、勉強デートさ。」
私の脳はその言葉を瞬時に理解できてしまった。
恐ろしい脳………!!!
「なるほど、大野くんがそんなこと言うなんて…!」
私はカバンに入れるものを全て詰め込んだ。
「行くのか?」
「当たり前よ!」
これを断る人はいないでしょう!
歩いてる途中、本来ならこの現場を見られたら恥ずかしいけど、図書館ならたまたま会ったで誤魔化せるし、丁度良いと二人で意見が一致した。
こういう風に意見が合うとなんとなく嬉しい気持ちになる。それに、私服も良いけど制服デート…………良いですねぇ。
おっと、よだれ拭かなきゃ。ちゃんと袖じゃなくてハンカチでね。優等生、ですから!
「おぉー本がいっぱい。」
「はは、まぁ勉強に飽きたら本でも読めば?」
「おぉ、良いアイデア。」
よく思い付くなぁ。
そう感心しつつ、私達はテーブルイスに向かった。
「ねぇ。」
「んー?」
「勉強デートって、言ったよねぇ?」
「おう。」
「………なんで私しか勉強してないわけぇ?」
私の向かい側で優雅に足を組んで本を読む大野くん。くそ、写真撮りてぇ。
「言ったろ?俺は覚えられるって。分かんないとこあったら教えてやるよ。」
釈然としないなぁ。
「ここは?」
「そこは、先週やった公式を使うだけだ。」
「じゃあこっちは?」
「さっきのやつにこれを使えば良い。」
私の問いに端的に分かりやすく教えてくれる。
正直助かるんだけど………デートとしてはどうなんだ………!?
「ん、んんんんー…………っはぁ。」
私は伸びをして勉強道具を片付ける。
「ん?もういいのか?」
「うん。分からなかったところ分かってスッキリしたし、一日に何教科もやって覚えられるわけないじゃん。今日は数学だけー。」
「そうか、力になれたなら良かった。」
おう、優しい微笑みいただきました!
「もう、助かりまくりよ。
さー何読もっかなぁ。」
最近はお金が足りなくて買えてなかったし、ここでちょっと開拓するのもアリだよねぇー。
お、この先生新作書いてる!
これもなかなか……
おお?見たことない人だけど、あらすじの時点で面白そう!
いやぁ、迷いますなぁ。
私は三冊程ピックアップして席に戻った。
「そういえば大野くんは何読んでるの?」
さっきから熱心に読んでいるそれについて尋ねてみた。
「ん?【追究!穴山梅雪の真意!】」
「え、え?誰?」
「穴山梅雪は武田二十四将に数えられる武田信玄、勝頼の重臣だよ。母は武田信玄の姉で正室は武田信玄の次女で、織田信長の甲州征伐開始と共に離反したんだけど、何故離反するに至ったかを記していて、内容は………」
「ごめん、ストップ。」
「ん?」
「聞いといてあれだけど、もう良いよ。」
熱量がレベチ。
「そうか。」
「大野くん歴史好きなんだね?」
私と話してるときにそんな素振りなかったから驚いてしまった。
「おう。」
「男の子が歴史好きって本当だったんだね。」
お母さんが昔の話してる時はよくぼやいてた。主にお父さんを見ながら。
「あーかもな。
まぁ、俺の周りに仲間はいないんだけどね………」
「うん、この話辞めよっか。」
なんか、地雷踏んだかも?
「じゃあ、川越は?何読むんだ?」
「私は【裏切りの騎士、全てを屠る】と【マーメイド・ウォー】と【影の誕生~全てを失った俺達が国を興して復讐するまで~】だね。」
「へー。」
「興味なさそー。」
「いやいや、最初のやつは面白そうだな。」
「確かにこれは大野くん向きかもね。なんで主人公は祖国を裏切ったのかが少しずつ明かされていくんだ。」
「ほう、確かに面白そうだ。
二個目は?」
「【マーメイド・ウォー】は人魚に転生した主人公が縄張り争いや人間と群れで戦う話だよ。」
「転生か、最近よく聞くな。にしても、それも戦争系か。時間があれば読もうかな。
最後は?」
「これは主人公が二十人もいるんだよ。」
「は?」
求めてた反応ありがとう!最初は皆そうなるんだよねぇ。
「最初にその二十人がどうして全てを失ったのかを丁寧に描写してて、その後は群像劇って感じだよ。」
「なんか、戦争系が多いな。」
「そうなんだよねぇ。私は恋愛ものより、その人の生き様とか、育まれる友情が好きなんだよねぇ。」
「ほう?ならば歴史に……」
「間に合ってます。」
「そっか………」
うっ!そんな表情されたら揺らいじゃう!
……でも、歴史にハマるとお父さんの魔の手が迫るんだ!だからごめんね、大野くん!
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