第8話 残念な私と仕組んだ彼

 今日は祝日。ということで、またあの大型ショッピングモールにデートに来た。

 ふっふっふ、私も成長した。ついに!ついについに!大野くんの隣に歩いても緊張しなくなった!!!

 これは快挙ですよ!今までは気が気じゃなかったけど、これからは大野くんにじっくり癒されることが出来る!……控えめに言って最高では?


「何も決めずに来たけど……どうする?」

「あぁーどうしよ。」

グゥ…

「…………」

「…………聞こえた?」

「おん、バッチリ。」

「ちょっとやめてよ!HEY!優しさカモン!」

「今昼時だから混んでるよなぁ。」

 す、スルーだとぉ!?酷いや………

「とりあえずフードコート行くぞ。」

「あ、はい。」


ガヤガヤ…………


「混んでるなぁ。」

「ね。」

 しばらく歩いてみたけど、テーブルにはほとんど人が座ってたり、荷物が置かれていた。見くびってたぜ、祝日。

「どうするか………」

 大野くんがポツリと呟く。

 私のために探してくれてるのは嬉しいけど、迷惑かけちゃってるよね!?これ!

「こ、混んでるねぇ。どうしよう?別に我慢は出来るけど……」

「…………いや、確か一階にもフードコートみたいなのあったから、そこ行こう。」

「え、そうだっけ?全然見てなかった。」

「あったはず。ひとまず行ってみよう。」

 大野くんがそういうと、私の手を掴んで歩き出した。

 あっぎゃ!?!?

 ……………………落ち着きなさい、私。

「………スゥー。」

「あ、嫌だったか?はぐれないよ…」

「全然!」

「そうか。」

 フゥー、危なかった。これが訓練の賜物か。






「わ、ホントだ。色々あるし、人もそんなだね。」

「あぁ、でも高いな………」

 大野くんが外にあるメニューを目を凝らして見ながら喋る。

 多分、店の近くに行くのが恥ずかしいんだろうな。

「そう?外食ならそんなもんな気がするよ?」

 外食しないから分かんないけど。

「……一周して、その後に決めよう。」

「うん。」

 お腹?大野くんと歩けるだけでプライスレス!



「お。あれどうだ?」

 大野くんが良さげだと言って見てみると、焼きたてパンを売っている所で、店の中でも食べられるみたい。

「あ、良いね。私は大丈夫だよ。」

「よし、じゃああそこにしよう。」

 私と大野くんはトレーとトングを持って、良い匂いを放ちながら並ぶパンを選ぶ。

「ここクロワッサンが売りなんだな。」

「あ、ホントだ。………え?一個99円?」

「………安いな。」

「だね。」

 お金は大事だからね!





 店内飲食を店員さんに伝えて、空いてる席に座る。

 私はクロワッサンとブルーベリーベーグルとメロンパン。

 大野くんはクロワッサンが二個とカレーパンとフランクロールとあんパン。

 どっちもお会計五~六百円ちょい。お財布に優しいね!


「いただきます。」

「お、大野くんちゃんと言ってる。」

「え?あぁクセだ気にすんな。」

 大野くんは少し照れ臭そうに頬をかいた。

「じゃあ私も、いただきます。」

 いざ実食!

「ん、美味しい!」

「あぁ、旨いな。」

 焼きたてってのもあるんだろうけど、これで99円…恐るべし。

「にしても大野くんいっぱい食べるね。男の子って感じがするよ。」

「そういう川越も甘いの中心で飽きないか?」

「……食べてみたら分かるよ。」

「絶対何も考えないで取ったろ……」

 バ、バレてる………人って欲には抗えないんや。




 そーひょー

 まずクロワッサン。

 焼きたてだから温かかったし、サクサクで美味しかった。星五つ!

 続いてブルーベリーベーグル。

 生地はモチモチで、ブルーベリーの酸味と甘味を感じられた。硬さもちょうどよくてかなり当たり。

 星五つ!

 最後にメロンパン。

 いつもコンビニのパン食べてるから知らなかったけど、パン屋さんのメロンパンめっちゃうめぇ。しつこくない甘さだし、あの端っこの所が結構ザクザクしてて満足度も高かった。うん、星五つ!


 つまり最高。


「むふ、美味しかった。」

「だろうな。明らかに表情が違かったもんな。」

 大野くんが笑いながらこちらを見てきた。

「あ、アハハ。大野くんのは?美味しい?」

「ん?あぁ旨いぞ。

 ……まぁ強いて言えば……」

「言えば?」

「カレーパンの中身が偏ってることだな。」

 大野くんは真剣な表情でカレーパンの中身を見せてきた。

 確かに右に偏ってるけど、それをそんな真剣に……

「んふ、それはそうだね。」

「だろ?それよりなんで笑い堪えたんだ?」

 大野くんが小首を傾げる。

 あぁ!あぁ!可愛いよ!その表情と仕草、可愛いよ!!!

「ゴホン……だってここオシャレだし…」

「あぁ、確かにそうだな。」

 周りを見渡して頷く。

「だから、その場に合った態度を取らないとね。」

 私だって淑女としてのプライドがあるのですことわよ。

「………そういえば、そこに無料のパンゾーンがあるぞ?」

「なんだって!?」

「ほら、あそこ。」

 大野くんの指差す方向を見ると、売ってるのと遜色ないパン達が遠巻きだけど見れた。

「なんでだろ?」

「んー消費期限が近いんじゃね?あとは売り物にするほどじゃないけどーみたいな。そんな詳しくは分からんけどそんなとこだろ。」

「そ、そっかー。」

 う、見てたら小腹が……

「俺はまだ時間かかるし、店内飲食二時間いられるから、貰ってくれば?」

「そ、そこまで言うなら行こうかな。」


 私は上品に移動し、無料ゾーンを見る。

 はえーこんなにあるんだ。ほうほう、これはなんだろ?



「ふーんふふーん。」

 私が鼻歌交じりに席に戻ると、大野くんがニヤニヤしていた。

 私が不思議に思って手元を見ると、何故かそこには大量のパンが。

 いや分かってる、私が取ってきたんだ。

「……………」

「結構いっぱい取ってきたな?」

 は、嵌められた!

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