第12話 怒る私と気圧される彼

「ただいま、連れてきたよ。」

「お邪魔しま~す。」

 後ろでいつもより身体を丸めた大野くん。緊張が伝わってくる。

 そんな姿も可愛い!

「あら、初めまして。葉利菜の母です。」

 ふむ、事前に言った通り化粧はしていないみたい。

 それにかなり清楚感を醸し出してる。流石売れなかったとはいえ元女優と言うべきか………

お母さんはスッピンの方が恥ずかしいと言っていけれど、それで恥ずかしくなるのは私だと主張し続けた。マジで。ちゃんと言うこと聞いてくれてヨシ!

「あ、初めまして、大野です。」

 大野くんの余所行きボイスもなかなか良いな……

 少しショタ味を感じる。

「ゆっくりしていってね?

 あ、大野くんはいつまで泊まるのかしら?一月?」

「え……」

 お母さんの爆弾発言に固まる大野くん。

 その顔もなかなか可愛いと思ったけど、お母さんがその顔にしたってのがなんとなく嫌だ。

「そんなわけないでしょ!お母さん、大野くんを困らせないで!」

 一先ず大野くんの両肩に手を置いて、大野くんを呼び起こした後にお母さんを叱る。

 もちろん呼び起こした時に大野くんの香りを目一杯吸わせていただきましたとも。

「ごめんなさぁーい。」

 そう言って笑いながらお母さんはキッチンの方に消えた。本当に分かっているのだろうか。


「ごめんね?基本あれだから。」

 私は両手を合わせて軽く謝る。言外にずっとあんなだと伝えながら。

「そ、そうか………」

 大野くんの歯切れが悪い。

 まぁ、家の親はある意味厄介だと思うよ、うん。

「さ、行こ!私の部屋はこっちだよ。」

 案内という名目で手を繋いだけど、大野くんが何も言わずに受け入れたことに少々驚いた。

「……?どうした?」

 ちょっと疲れてる?………お母さん……………

 後ろを向いたらファイト!、と書かれた手作りうちわを持って立っているお母さん。

 さっきまでの清楚感は薄れ、アーティストの出待ちをしているファンのような顔をしていた。

「っ!っ!」

 私は顔で奥に引っ込めと表現し、目で辞めろと訴える。

「後ろになんか……」

 私の奇行に気付いた大野くんが声をかけてきた。

 恥っず………

「大野くんは気にしないで?」

「あ、あぁ?分かった。」

 首を傾げつつ、まぁ良いかと呟く大野くん。

 このままじゃいずれバレる!な、何か大野くんの興味を引けるもの………あ…これしか…ないかぁ……!

「ぇぇー…あ、これ私の子どもの時の写真なんだ。」

 私は意を決して指を指す。

 階段下にあるタンスの上にある複数の写真群。

「お、ホントだ。見ても良いのか?」

 大野くんが一瞬伺うように尋ねてきた。

「い…良いよ!」

 お母さんの痴態を見られるよりはマシ!

「そうか、ならありがたく。」

 フゥー……とりあえず大野くんは誤魔化せた。しかし、私から目線を切った瞬間にあの小悪魔のような目をしていたのはなんだったんだ…………いや気のせいだと思おう。いや、思うべきだ。私の精神のために。

 私は一安心の溜め息をついて問題の方に目を向け…

「……………」

 私は絶句した。大野くんに見せられないほど口を開けている様は、後に思い出して二度と晒したくないと思うほどだと思う。

 でもしょうがないじゃない。

 お母さんの手作りうちわ、その裏面に

 "子どもはいつ頃?"

 という文言が目に入った。

 それもさっきよりもニコニコしているお母さんが余計に際立つ。

「スゥー………大野くん、二階の右の突き当たりの部屋が私の部屋だから入ってて。」

 これはさすがの私でも怒りますと。

「え?」

「ごめん、でもちょっと、やることがあるから。」

 あの諸悪の根源を叱らないと。今の内にしとかないと更に暴走する未来しか見えないからねぇ!

「そうか?分かった。右の突き当たりだな?」

「そう。荷物とか、適当に置いちゃって。」

「オッケー。」

 そう言って大野くんは無事振り返ることなく向かっていってくれた。


 さてさて、尋問を始めようか…………

「お母さん?」

「なぁにかぁしら?」

 上機嫌ウッキウキで答えるお母さん。

 これは今の内に釘を刺さないと絶対にやらかす時のお母さんですねぇ。約十七年一緒にいるんだから分かってしまう。

「ねぇ、なにこれ!?こんなものお客様に見せないで!私があの時どんな気持ちだったか分かる!?」

 私はお母さんの手作りうちわを指差して怒鳴る。

「あら良いじゃなぁい。いずれ家族になるんだから。」

 平然と当然だと言わんばかりにそう答えた。

 あなた当人じゃないでしょーが!

「まだ決まってないから!それに、仮にそうだとしても早すぎるよ!私達何歳だと思ってるの!」

「……確かに………」

 私の言葉にやっと我に返ったのか、顎に手を当てて考え始めた。

「フゥー、分かってくれ……」

 これで平穏が………

「じゃあ避妊具買ってくるわね?」

「………は?」

 What?nazesonarunodesukaaaaaaaa!!!!!

「あ、大野くんの太さ、分かる?それともそこまでいってない?」

 これセクハラだよね?訴えて良いかな?

 100%勝訴する自信があるよ?

「…………………」

 もう何も言い返す気力がない。

「どうせ今日寝るんでしょ?」

「いい加減にして!!!!!」

 ごめん、やっぱあったわ。

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