第11話 快哉する私と腹を括る彼

「ねぇ葉利菜。」

「な、なぁに?お母さん。」

 で、デジャビュー………

 何を言われても良いように、私は茶碗と箸を机の上に置いた。

「今週三連休でしょう?」

「そうだね。」

 よかった……変なことじゃ無さそう。

「お父さん、三連休ずっと会社に泊まり込みだって。今日の朝言われたのよ。」

 お母さんも食器洗いが一段落ついたのか、手をタオルで拭きつつ椅子に座った。

「うわぁ、大変そぉ。」

 お父さんは大学の……教授?かどうかは知らないけど、学生と一緒に地質学を主に勉強してるってことしか知らないや。

「そうなのよぉー。だからー……」

 ふむ……何か嫌な予感が……

「彼氏くん、家に泊まって貰いましょ?ね?」

 ……………oh………






 いつも通りの学校、そして放課後。

「今日はいつもより元気無かったみたいだけど、どうしたんだ?」

 大野くんが少し心配そうに尋ねてくれた。

 平静を装ってたつもりだったけど、全然いつも通りじゃなかったみたい。

「いや、体調は悪くないよ?えっと…………」

 泊まりに来る?この六文字がこんなに喉でつっかえるなんて………

 くっ!一秒でも長く見ていたい大野くんの顔が見えない!!!でも一秒見ただけで恥ずかしさで即死してしまう!!!!ここまで苦しい葛藤が人生にあろうか!!!!!

「………なんかあるのか?」

 私は目線を逸らしながらコクりと頷いた。

 ぐぅ……自分の不甲斐なさに涙が出てきそうだよ…

「……そうか。」

 そう言うと、大野くんは私の前の席にある椅子に逆向きに座る。

「え?」

「待っててやる。その間、俺はお前の顔を見続けてやるからさ。」

 椅子の笠木に肘をついてこちらを見つめる小悪魔。

「っっっ!!!」

 ご、拷問だぁ………!



 この拷問から抜け出すべく、自分を奮い立たせて十分程、やっと言えるようになれた。

 というか、大野くんは十分間一度も目線を逸らさずに私のことを見てたけど、よく飽きなかったと思う。

「………………大野くん。」

「なんだ?」

 大野くんはやっとか……といった顔でこちらに笑顔で聞いてきた。

「スゥー………ハァー………………………………

ゴホゴホ!」

 息を吐きすぎて咳が出た。

「大丈夫か?」

 腰を浮かしかけた大野くんに片手で大丈夫だと伝えて息を整える。

「う、うん。………えっとね?お母さんから言われたんだけど、三連休じゃん?」

「おう。」

「……家に…………泊ま…ら……ない?」

「………………………………………………は?」

「「…………………………………………………」」

 お互いが見つめ合ってしばらく。

「あぁー…それは……どういう?」

 沈黙を破ったのは大野くん。

「そ、そのままの意味だよ…………」

「…………本当に大丈夫なのか?」

 大野くんが疑うような目で私を見てきた。

「ち、違うんだよ!お母さんが大野くんに会いたいって!お父さんも三連休中いないからって!」

「…………あぁ……」

 大野くんが片手を顔に当てている。

 悩んでるのかな?やっぱり、すぐにこんな変なこと言っちゃったから困ってるのかも!?もしかして、嫌われちゃったり!?

「ご、ごめんね!?迷惑だよね………」

「あ、いや……迷惑っていうか……逆に俺が行って良いのか?」

「………私は、大野くんのこと信用してるよ?」

 これまで好き好きアピールしても手しか繋いでくれてないからね!そこら辺は問題ないと思うんだけどなぁ。

「っ!…………それは、まぁ、素直に嬉しいよ。けどなぁ……親に会うって………」

「嫌?」

「嫌じゃないけど……ハードル、高いなぁって。」

 大野くんが少し遠い目をしている。私の親に会った時のことをシュミレーションしてるのかな?

「大丈夫だよ!お父さんは厳しいけど、いないから秘密にすればバレないし、お母さんは緩い人だからモーマンタイ!」

「……不安になってきたな…………ハァーまぁ良いなら良いか。お邪魔、してもらうよ。」

「ホント?」

「あぁ。」

「やったぁぁぁぁーーー!!!」

「うるさ。」

「あ、ごめん…………」

 喜びの雄叫びは、うるさくなってしまうものなのだよ。

「よし、じゃあ帰るか。」

「うん!そうだね!」

 大野くんごあんなぁ~い!

 あ、もちろんお互い一旦家に帰りましたとも。

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