第2話 喜ぶ私とはにかむ彼

「じゃあねー。」

「また明日ー。」

 教室の皆がバイトや部活で早々に出ていって、最後の一人がいなくなる。

 フッフッフ、待ちに待った放課後……教室には私と大野くんだけ。

「大野くん。」

 私が声をかけると座ったまま振り返る大野くん。

「な、なんだよ。」

「なに…すれば良いのかな?」

 私の発言に、椅子の背もたれに肘をのせて支えていた頭をガクッとさせる。

「分かんねぇのかよ。」

 緊張した顔が一転、苦笑混じりのいつもの顔になる。

「だ、だってしょうがないじゃん!」

 事実上付き合えるってことに嬉しくて何も考えられなかったんたから!

「んーじゃあ、手ぇ繋ぐか?」

 大野くんが手を伸ばしてきた。

「え?良いの?」

 え?え?え?それってもう私のこと好きじゃん!

「あ、勘違いすんなよ?お・た・め・しな?」

「あう。」

 あっぶなー、気を付けないと。

「ほら、しないのか?」

「す、するよ!」

 私は震える手を必死で抑えながら大野くんの手を握る。

「…あ。」

 触れた瞬間、心臓が嬉しさで跳ね上がって、脳が幸せで満たされる。

「どうした?」

「これが……危険な薬!」

「人を薬物扱いすんな!」

 大野くんが握ってないほうの手で私の腕をチョップする。

「あだ!?」

「ったく………手汗ヤバイな。」

 手を引いた大野くんは握っていた手を暫く見つめて衝撃の発言をした。

 その言葉は満たされていた私の脳天に電流のような衝撃を走らせる。

「んみゃあぁ!?!?そういうことは!思っても言わないのが普通でしょぉ!!」

 私は怒りで、大野くんの頬を両手でつねる。

「痛い痛い。」

 全然痛がっていない大野くんを見て、私はつねるのを辞めた。

「うぅぅ……何で言っちゃうかなぁ?」

「唸るなって、前から言ってたようなもんだろ?」

「でも!今はお試しでも付き合ってるからぁ……」

「別にそんなんじゃ、今更嫌いになんねぇよ。俺は恋愛ではまだしも友人としてなら……えっと、好き…な部類だから。」

 その言葉に再び私の脳がハッピーになる。

「うえっへ。もうーしょうがないなぁー。」

「その笑い方辞めろよ。」

 大野くんが悪態をついてきたけどそんなの気にならない。好きな人から好きって単語が出ただけでこんなに嬉しいなんて。これ、面と向かって本当に好きって言われたら私どうなっちゃうんだろう……

「おい、おぉーい、帰ってこい。」

「ハッ!?」

「俺もう帰るから。」

 私を一瞥してスタスタ歩く大野くん。

「んえ!?待って待って!私も一緒に行くからぁ!」

 あぁーこういう時に限ってバッグの入り口が教科書を拒んでくる!

 ……よし、全部は入った!忘れ物は…無い!

「待ってぇ!」

 私はダッシュで廊下に飛び出したけど、その先に大野くんの背中は見えなかった。

「あぁ、行っちゃった……」

 そんな、意地悪しなくても……

「バァ!」

「きゃぁ!?」

 後ろから声が聞こえたことに驚いて私は腰を抜かしてしまった。

「そんなに驚かなくても……」

 そこには大野くんが腹を抱えて笑いながら立っていた。

「あれ?帰ったんじゃ……?」

「何言ってんだよ。お試しっていっても付き合ってるって言ったのはお前だろ?川越。」

 ニカッと笑ながら手を差し伸べてきた。

「あう……えへへ、ありがとう。」

「俺だってこれくらいのことは弁えてるさ。」

 大野くんはそう言うと、私を立ち上がらせるために繋いだ手をそのままに歩き始めた。

「あれ?大野くん、これっ……うんん、なんでもない!」

 私はそれを指摘しようとしたけど辞めておいた。また耳が真っ赤になってたから、言ったら照れて辞められちゃうかもしれないからね。

「そうか。」

「うん。」

 これを続けるためにも、もっと自分を磨かなきゃ!

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