第5話 照れる私と正直な彼

 "初デート"

 それは、カップルにとってドギマギしながらも確実に距離が縮まる最高で重要なイベント。

 

 今日の私は水色のポロシャツに黒のスリットスカート。頑張って足を出してみましたとも!

 後は白いショルダーバッグに、いつも下ろしてる髪をポニーテールにした。

 それと、化粧はしない。大野くんはそういうの好きじゃないみたい。私もメンドクサイから助かるけどね。


 十二時半に公園の時計塔に集合。大野くんは何分前に来るかな?

「フンフフーン♪︎」

 私は十二時十五分に着くように向かう。 


「「あ。」」

 時間通りに着いたと思ったら、丁度反対側から大野くんが歩いてきて、時計塔の下でバッタリ出くわしてしまった。

 服装は黒いTシャツに青のジーパン。

 分かってたけど、やる気ねぇ…………

「なんで、こんな速いんだよ。」

「そっちこそ。」

「俺は自販機で飲み物買って、そのまま来たんだよ。で?」

「私は…大野くんがどれくらいで来るのか確かめてやろうと思って……」

「性格悪。」

「ぐあ!?」

 ク、クリティカル!

「まぁ、ちょっと速いが行くか。」

「そ、そうだね!」

 クリティカル?そんなものは知らんな……

 私の体力は大野くんの声と顔で満タンよォ!




 大野くんが手慣れた手付きでカラオケの部屋を取り、中に入る。

「大野くんって何歌うの?」

 早速、カラオケのパッドを操作して音量を弄り、一曲入れる。

「そ、それって………!」

「フ、俺がお前の好みを知らないとでも?」

 それは、私が昔から好きなアニメの歌だった。


 ……う、うまい……………昔から耳コピしてる私よりも……!

 めっちゃ負けた気分のまま、大野くんは満足そうに歌い終えて、勝ち誇ったように私を見て笑う。

「へ、どうよ?」

「くぅ……大野くん、勝負よ!より高い点数を取った方が、ここを奢る!全額!」

「………良いぜ?俺に勝てるならなぁ?」

 負けてたまるかぁ!






 二時間の激闘の末、私は完敗した。

 お互いのハイスコアは

 私が88.6点

 大野くんが91.8点


 ねぇ、知ってる?一般ピーポーはね?カラオケで90点越えるだけで、スゴいんだよォ?


 うぅ、バイバイ私の三千円………いらっしゃい四百円ちゃん。










 カラオケで喉を使った事もあり、予定を少し変えて、カフェに寄ることにした。

「ご注文は?」

「レモンティーとショートケーキでお願いします。」

「コーヒーを。」

「かしこまりました。」

 カフェのお姉さんが頭を下げて、離れる。


「それにしてもお前の歌い方、抑揚が無かったな。」

 くくく、と押し殺したように私を笑う。

「うぅ、ビブラートとかこぶしが無いことぐらい自覚してますぅ!」

「なら良いけど。」

「それよりも大野くんだよ!なんであんな高音出んのさ!女の私と同列だよ!?」

「抑揚無い分、俺のが上だな。」

「ぐはぁ!?」

 ち、致命傷ォ……………

「まぁ、今度教えてやるよ。」

「よろしくお願いします…………」

 フ…次のデートの言質取ったり……!


 しばらく話していると、店員さんが注文した物を持ってきた。

「お待たせしました。」

「ありがとうございます。」

 

「んんん!美味しいぃ!」

「うん、いい匂いだ。豆から挽いてるのが分かる。」

「お、大野くんはブラックじゃ無いんだねぇ。」

「流石に苦いからな。」

 そう言って、砂糖を二つ入れる。

「ふ、俺には甘さなんていらねぇ……とか言うのかと思ってたよ。」

 私は自分のレモンティーを持って、かっこつけるように喋る。

「誰だソイツは。」

 めっっっちゃ、冷めた目でこちらを見つめるハーフボイルド。

「えへ。」

「おい、今絶対失礼なこと考えただろ?」

「いやいやー。」

「はぐらかすなよ。」

 少し不満そうに私を見る大野くん。

 ぬ、ならば!

「………あーん。」

「は?何だよ………」

「最後の一口あげるよ。ほら、仲直りte☆ki☆na☆」

 くぅ、やりたかった事が出来た喜びと人前でやってしまった羞恥心で語尾が変になっちゃった……

 でも、これで合法的にあーんが出来る!

 やりたかったからやったんじゃない、仲直りのためにやったんだっ!……てね!

 ……私は誰に言い訳するつもりなんだ………?

 まぁええか。

「う……」

「私のフォークが受け取れねぇってのかぁ?」

「わ、分かった。」

 大野くんが遠慮がちに口を開け、私が差し出したフォークとショートケーキを口に入れる。

 その時、私に電流が走った!

 なんだ?この気持ちは………目の前の光景を見ていると、大野くんが私の物になった気がしてゾクゾクする。それに、大野くんの頬!若干頬を赤らめてるのが高ポイントォ!

「ハッ!私は夢を見ていたのか…………」

「現実だ、アホ。」

 気が付くと、大野くんが甘いな、と口にしながら咀嚼していた。

 ふと、フォークを見て気が付いた。

 ……これ間接キス、いけんじゃね?

「ハァハァハァ………」

 え、いや、でも、ここで、一歩!

「ハァハァハァハァハァハアッ!?!?」

 私が葛藤していると、腕を伸ばした大野くんが紙ナプキンで私のフォークの表面を拭き取る。

「させるかドアホ。」

「あ…あぁぁぁぁ…………」

 私は魂が抜けるような音を発しながら意気消沈する。燃え尽きたぜ…………

「食い終わったんなら行くぞ。」

「えぇ?」

「行くんだろ?服屋。」

「はい!」

 こちとら体力満タンよぉ!今日のメインイベント~


 服屋という言葉に浮かれていた私は、私が口を付けていたフォークを大野くんが口にしたことと、大野くんの耳が真っ赤になっている事に、気付くとはなかった。




「さぁ!お待ちかねのファッションタイム!大野くん、選んで!」

 カフェの滞在が長引いて、そんなに長い時間はいられないけど、目一杯楽しむぞぉ!

「いや、選んでって言われても………」

 そう言って見つめるのは色々な種類の洋服達。ここは大手の洋服屋で、学生の私達にも手が届くにも関わらず、数多くの商品が取り揃えられている。

 ブランド物よりも、安くて丈夫な方がお得だしね。

「まぁまぁ、直感で良いからさ!」

「むぅ、分かったよ。」



 数十分待っていると、大野くんが帰ってきた。

「とりあえず、二セット持ってきたぞ。」

「おぉー………オォ…………」

 それは、パンク寄りな洋服と、なんかの地雷系の服だった。

「これ…どこから持ってきたの?」

「なんか、あっちの方に。」

 それは、あまり人のいない区画だった。

「これ、大野くんの好み?」

「いや、川越が今着てるやつとは別の方向性で探そうかなと。」

 セ、セーーーーフ!!!危うく、お付き合いについて話し合う所だったよぉ。

「じゃ、じゃあ、大野くんの好みでは無いんだね?」

「ん?まぁ、俺はその人が着たい服を着れば良いと思うがな。」

「そ、そっかぁ……」

 心持ちは素晴らしいんだけど!こっちは困るよぉ!

「あ!」

「!なんか好みあった!?」

「露出が多いのはちょっと………」

 なんだ?この生き物は…可愛いか?

「た、例えば?」

「…谷間が見える服とか?」

「スゥー……それ、私の事煽ってる?谷間がないって、煽ってる?」

 戦争か?やるか?あ?

「例え!例えだって!」

「むぅ………言っていい事と、悪いことがあるよ!」

「ごめんて。でも、俺は今の川越の服装が好みかな。最初に見た時からすごく似合ってると思ってた。」

「な、ななな……………」

 そ、それはダメだよ、不意打ちだってぇ………

 頭が沸騰したように熱い。これは…まずい!

「きょ、今日は帰ろう!」

「え?良いのか?」

「良いの!服は、また今度!」

「そうか。」

 私は恥ずかしさを紛らわすために大野くんより先を歩く。

「楽しかった、また来よう。」

「っ!うん………」

 こんなん、好きになるやん…………

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