第2話<とある物語の結末>

テルーオ歴■■■■年■■月■■日


白色の大理石製の何処か神秘的な雰囲気のする部屋で男女がベッドの上で語らっている。そんな二人を見るのは寄り添うように置かれた白と黒の狐の縫いぐるみだけである。


男「・・・・ところでそれは何だ?」


女「あのお方に出すとある人物の報告書よ。ついさっき出来たばかりよ。」


男「どんなことを書いたか見ても良いか?」


女「クスクス。気になる?」


男「ああ。君が関心を寄せる人物がどんな奴なのか気になるんだ。」


女「女を手あたり次第口説いて飽きたらポイ捨てする物凄く素敵な殿方よ。」


男「それはなんてひどい奴なんだ。君がそんな奴に引っ掛からない様にまずは敵情視察と行こうか。」


女「クスクス。はい、どうぞ。」


女は男に書類を渡し、そのまましなだれかかった。


男「おやおや、美しい女性から抱きしめられるサービスまでついてくるとは嬉しいね。」


女「閲覧料及びサービス代金は私への愛撫という形で御支払い下さい。クスクス。」


男は女の頭を愛撫しながら書類を読むことにしたようだ。



時はテルーオ暦3107年2月3日、人類は危機に瀕していた。


???「・・・・・・。」


全身が黒く眼だけが血のように赤い一体の人型の大きな生物が無言で立っている。その背丈は成人男性の二人分ほどであり、頭部からは2本の角が生えていて右手あるいは右前足には白い大きな剣のような刃物が握らている。


ソレを人間の軍勢が取り囲んでいるが、不思議なことにその軍勢は女の兵士のみで構成されている。


赤服の兵士「「「総員、突撃いいいいい!!!!!」」」


隊長挌と思われる複数の赤い兵士達を先頭に青服の兵士達が剣や槍を持ちソレに向かい襲い掛かる。


赤服の兵士「弓兵、魔法兵、・・撃て!!!!!」


彼女らを追跡するように多数の大きな火の玉や矢がソレに向い飛んでいく。


一般には突撃の前に魔法や矢を先に撃つべきだが、何か理由があるのかもしれない。


それに呼応するようにソレは剣を斜め上に高く掲げる。一般的な上段の構えよりもさらに高く掲げていて防御をかなぐり捨てたような構えである。


青服の兵士「ヒ!!あ、あの死の斬撃が・・来る・・。」


赤服の兵士「「「怯むな!!!既に我らに退路はない!!進め!!!」」」


???「!!!!!!」


次の瞬間、ソレは剣先を地面に向けた姿勢で立っていた。その姿勢から推測するにおそらく剣を振ったものと思われる。


一瞬の静寂の後、


ギギギギギギギギギィィィィィン!!!!!


という甲高い音が多重に重なったような音というか振動があたりに鳴り響き。


さらに一瞬遅れて、ビシャ、ビシャ、ビシャ、ビシャ、ビシャ・・・


というような水音がいたるところで聞こえ、


ドシャ、ドシャ、ドシャ、ドシャ・・・・


と水風船が硬いものにあたり破裂するような音がいたるところで聞こえた。


???「・・・・・。」


大地にはソレを中心として深い溝が放射線状に無数に刻まれていて、その溝の上には原形がない元兵士達が無数に転がっていた。


兵士「も、もう、もうだめよ。おしまいよ。」


兵士「に、逃げ・・・。」


兵士「逃げるってどこへ?この地上に逃げる場所なんてどこにもないわ。」


兵士「ああ、アレク・・・貴方の元に逝くことになりそうだわ。」


???「!!!!」


兵士達に絶望の感情が広がっていると、ソレは急に剣を掲げながら周囲を見回し始めた。


兵士「あれは何をしているの?魔法の詠唱ではないわよね。」


兵士「獲物を見定めているという訳でもなさそうだけど。」


兵士「もしかして何かに怯えている?でも、災厄が怯えるような相手なんているのかしら?」


ソレは兵士達よりもやや高いところつまり宙に視線を向けている。


ふと空より一筋の黒い線が降りてきた


兵士「え?あれは?まるで加護判定の時のような・・。」


次の瞬間、そこには黒い服を着たヒトが静かに立っていた。


兵士「あの姿、まさかあの御方?」


???「・・・・!!!!!!」


黒きヒト「通常、神は地上には直接介入はしないがこれ以上は流石に看過できない。」


ソレは兵士達を完全に無視して黒きヒトにまるで特攻するように駆け寄り、剣を振り下ろす。


黒きヒトはそれに合わせるように黒剣を構えたと思うと何の変哲もない袈裟斬りを放つ


黒剣による衝撃波はソレの剣による衝撃波を一方的にかき消し、ソレをその大剣ごと斜めに両断した。


???「・・・・・リ・・・ザ・・・・ま・。」


ソレは何か言葉のような音声を発した後シューという空気が抜けるような音を出しながら、黒い靄となり消え、直径が成人3人ほどの巨大な赤い半透明の石のみがその場に残った。


地面には黒きヒトから一本の大きな溝ができていた。


黒きヒト「白い絶望に終わりを与えた魂が黒い絶望になるとはな。運命とは皮肉なものだ。死よ彼の者の悲しみを優しく拭い去り給え。」


兵士「私、生きて、故郷に、帰れるの?」


兵士達は地面にへたり込んでいる。


兵士「あの方は多分マルーモ様よね?」


ある兵士のセリフに反応するようにマルーモと呼ばれた黒いヒトは振り返る。


マルーモ「アレは元々は君達と同じ人間だった。」


兵士「え!?」


マルーモ「いつか紅眼の加護なしの男が地上に現れるだろう。だが彼は人間だ。決して迫害することなきように。「十一の絶望」を出現させたくなければな。子孫にも伝えろ。必ず伝えろ。」


兵士「加護なしの人間ですか?」


マルーモ「ああ。俺は確かに伝えたぞ。次は助けないからな。」


マルーモは音もなく地上より立ち去った。


-神が最後のとまり木を討伐しました。-


-今回は特例処置のためとまり木が持っていた善行度は0として扱われます。-


-人族への罰則はありません。-


-世界の浄化が正常終了しました。-


-今回は特例処置のため彼のとまり木の記憶が封印されます。-


マルーモ「何回警告しても人類は忘れてしまうのだろうがな。」


マルーモは空に登りながら一人言ちた。


スキンヘッドの男「さてさて、あれから2000年だが、人間は相変わらずだね。せめて一番マシな所に・・・・。」


雲一つない快晴の昼下がりスキンヘッドの男が静かな湖のほとりで水面をみながら独り言を言っている。水面には何処かの都市の光景が写っていて、そこには大勢の人々が歩いている様子が写っている。


そんな彼の背後に黒い闇が集まり人型を成す。


マルーモ「テルーオ、そろそろ彼の転生時期かな?」


その人型はスキンヘッドの男に話しかけた。


テルーオ「む?マルーモか?ああ、そろそろだ。」


マルーモ「人間たちには俺の忠告は伝わっているかな?」


テルーオ「君も良く知っているだろう。」


テルーオと呼ばれた男は苦笑いをしながら答える。そんな彼らの前に緑の光が現れ人型を成す。


緑髪緑眼の麗人「一級神と二級神が何を内緒話しているのよ?」


マルーモ「げ、ファリーオ。」


ファリーオ「「げ。」とは何よ!失礼しちゃうわね。」


テルーオ「・・・コホン。ファリーオ、巨象の説得はできたかな?」


ファリーオ「ええ。もし会えたら後輩の為に一肌脱ぐと言っていました。」


テルーオ「それはよかった。さてさて、今回はどうなるかな?」


ファリーオ「『彼』の願いが叶うといいわねえ。」

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