第135話<神>

ノベロ「え?」


テルーオ「人間の世界では神隠しと呼んでいるみたいだが、君は聞いたことあるかね?」


ノベロ「そういえば昔、そんな本を読んだことがある気がします。確か最後は何だかんだ戻って来れたようですが。」


テルーオ「人間の間では不思議な夢と思われているそうだが、あれは実際に異世界の神とこちらの神が戦って、誘拐された魂を取り返している。」


ノベロ「アレは事実だったのか。確か農家のカールさんだったか?」


テルーオ「どうやらこの世界の魂は質が良いらしく時々、異世界転生と称して誘拐され、魔王・・つまり我々の世界での災厄に相当する生物と戦わされる。」


ノベロ「それって異世界の神が誘拐するのですよね?何故直接神がその魔王とやらをどうにかしないのでしょうか?」


テルーオ「言い訳は様々だが、どうやら現地の神は直接、地上に介入しないというルールがあるらしい。」


ノベロ「だからと言って異世界から誘拐して鉄砲玉にするのは更にあくどい気がしますがね。」


テルーオ「その通りだ。だからこそそういった屑共には制裁が必要であり、その為の尖兵になって欲しいんだ。引き受けてくれるか?」


ノベロ「・・・謹んでお受けします。」


ノベロの隣でチェリザが静かに息を吐いた。


テルーオ「・・・・そうか。それは本当に良かった。な?マルーモ二級神殿?」


マルーモ「嬉しいね〜。君は鍛えがいがありそうだ。よ、また会ったな!!!ノベロ君!!」


何処からともなく黒い二級神殿が現れた。


ノベロ「お、お久しぶりです。」


彼は急に現れた二級神に驚いたようだ。


マルーモ「ハッハッハッハッ。今日は出歯亀をする気もないし重力魔法を打つ気もないから安心してくれ。」


ノベロ「ハハハ。」


マルーモ「変なイメージを持っているかもしれないが、俺や俺の部下は平時は地上で迷子になっている魂の天界への案内をするのが仕事だ。」


「ボロン師匠まで届けるということでしょうか?」


マルーモ「あ~~~、ボロンの奴は・・君専用の臨時のアルバイトみたいなものだ。」


マルーモはしまったという顔をしながら言い難そうに答えた。


ノベロ「え?」


マルーモ「アイツは普段はファリーオのところの所属なんだ。君と縁があるという事であの係を頼んだわけだな。あの川を渡れるのは神か神になる資格を持つ者だけだから普段はあそこには誰もいないんだ。」


ノベロ「そういえば象と蛇は川の手前までだったな・・・。それにしてもボロン師匠は・・」


チェリザはノベロを少し不安そうな顔で静かに観察している。


ルーミオ「ずるいわ〜〜〜!!マルーモのところなんか勿体ないでしょ!!


彼が何か考え込もうとしたときに白い二級神殿が何処からともなく現れた。


ルーミオ「ノベロ君は魔法にはあまり明るくはないでしょ?いろいろオバサンが教えてあげるわよ?貴方何処か学者気質なところがあるから、新しい魔法の開発とか向いていると思うの。それに私は貴方が好きな動物の担当でもあるの」


「動物ですか?」


ルーミオ「時々、ブレスや魔法使う生物がいるでしょ?アレは私の加護の影響よ?」


ノベロ「ドラゴンとかか?もう少し可愛らしい動物が良いかな・・狐とか。」


チェリザ「フフ。」


ファリーオ「もう、二柱共!!彼は生産職希望なんでしょう?だったら私の元が良くない?そしたら私が手取り足取り腰取り・・・フフフ。お姉さん若返っちゃうかも・・。新しい加護の開発に興味ない?今、タンポポを刺身に乗せる加護を開発中なの。」


続いて緑の二級神殿も現れた。


ノベロ「タンポポを刺身?」


マルーモ「・・・・・。」


ルーミオ「・・・・・。」


マルーモとルーミオは静かに彼の様子をうかがっている。


ノベロ「何かの儀式だろうか?・・・・師匠は一体何をやらされてんだろうか?・・・・道案内の方が俺には向いてそうだな・・・うん。」


ノベロは二柱の様子に気づかないまま、己の決定に満足したようだ。


チェリザは再び静かに息を吐いた。


テルーオ「君達はなんかセクハラしそうだからやめといたんだ。だから消去法でマルーモにした。」


マルーモ「フフフ、日頃の行ないだ。さて、皆への案内は俺がやってしまって良いんだろう?皆、暇だから首を長くして待っているぞ?一部フライングした奴らもいるしな。」


チェリザは顔を赤くしてる。


テルーオ「ああ、先に行っててくれないか?僕たちは少し内緒話をしてから向かうつもりだ。」


マルーモ「了解。」


マルーモはノベロを誘導しながらとある場所に向かう。


ノベロ「えっと?マルーモ様、何処かに向かうようですが・・いずこに?」


マルーモ「硬い表現をすれば記憶の再生の為、闘技場に向かっている。」


ノベロ「記憶の再生?闘技場?」


関係があるとは思えない単語たちにノベロは戸惑っている様だ。


マルーモ「神になる魂は大抵の場合何回も転生を繰り返してきている。君も今の時点でとまり木になってからの記憶は蘇っているだろうが、その以前の記憶を蘇らせる儀式のようなものだ。」


ノベロ「むむむ?」


マルーモ「ハハハ。そう緊張しなくていい。実態としては君の全ての生の映像を見ながら皆に質問攻めされるだけだ。」


ノベロ「え?」


マルーモ「新しい記憶から順に質問されるだろう。君の場合は例えば聖女の事を本当はどう思っていたかとか、あの幼女への発言の真意とか、君が残した数々のポエム達は一体どうやって思いついたとか、後は『眼鏡をかけた友人』について今はどう思っているか等は聞かれると思う。それ以前はどうだろう?それ以上の予想はつかないな。」


ノベロ「え?え?え?」


マルーモ「チェリザはやたらと分厚いメモを用意していたな。多分質問リストだろう。」


ノベロ「俺は一体何をされてしまうんだ?」


マルーモ「あまり心配しても意味ないぞ。君は女神たちに人気だからな。どんな質問が飛んでくるかなんて予測不可能だ。思ったことをそのまま答えればいい。」


ノベロ「不安だ・・・。」


マルーモ「まあ、半分余興のようなものだ。君は善行や犯罪も両方してきているが、善行の方が割合としては多いから今、君はこの場にいる。安心したまえ。」




ルーミオ「・・・テルーオ、あんな感じで良かったの?少しわざとらしかったかしら?」


テルーオ「彼は神の発言については言葉通りに受け取るみたいだから多分大丈夫だと思う。皆ありがとう。」


ファリーオ「毎回ひやひやするわね。で、あの加護への反応を見るにやっぱり6千年前の記憶は無い感じ?」


ルーミオ「多分そう思うわ。何とか取り繕ったけど、当時と全く同じ反応するから笑いそうになってしまったわ。」


テルーオ「全く戦闘に向かない加護を持つ者が絶望を倒したりするから人間というは面白い。次に彼のような者が現れるのはいつになるだろうか?」


そう言いながらテルーオはチェリザに視線をやる。


テルーオ「さて、人払いができたので例の件について話をしようか?チェリザも色々思う所が有るだろう。」


チェリザ「はい。」


テルーオ「まず、言い忘れていたが、かの最良であり最悪でもあるとまり木の魂を漸く確保することができた。頭痛の種が1つ減った。礼を言おう。ありがとう。チェリザフローロイ殿。」


チェリザ「はい。」


テルーオ「でだ、現在行っている人類に対する罰則についてだが・・・」


チェリザ「はい。」


テルーオ「人類に自身がやってきたことを自覚させる為に彼の善行度の余剰分から計算し272年間加護を停止する。いや~、彼は頑張ったね~、この値は歴代のとまり木の中でも五指には入るんじゃないかな?」


ルーミオ「テルーオ、横から悪いけど、ということはしばらくはとまり木システムは停止?人間の加護がなくなれば相当ペースは遅くなると思うけど・・。」


テルーオ「ん~、澱みが溜まりにくくなるとは言え、流石に272年間放置すると次の災厄が強くなりすぎるだろう。澱みの様子を見ながら一回だけ、とまり木に頑張ってもらうつもりだ。」


ファリーオ「つまり人間は一回は加護なしで災厄と対峙する可能性がある訳ね。」


テルーオは小さくうなずく。


テルーオ「ちょうどいい罰になるだろう。さて、話したかったことだが彼が無事、神になった事でとまり木となる魂の枠に一つ空きができた訳だ。」


ルーミオ「当然、埋めないといけないと思うけど・・誰か目星はついているの?」


テルーオはチェリザを見る。


テルーオ「君はもしかしたら納得しないかもしれないが、『彼女』のこの後の態度次第では新たにとまり木の魂に加えようと思う。」


チェリザ「・・・・!・・・いえ、『彼』の時がそうでしたから、不満はありません。今の人類から一人を選ぶとしたら私も彼女を選ぶでしょうから。」


テルーオ「まあ、今の殊勝な態度が本心からの物か、一過性の物かはわからないが、その時が来た際に彼が導きたいと言ったら後押ししてやって欲しい。」


チェリザ「・・・はい。」


テルーオ「話はもう一つある。さっきの件だが、人類が加護なしで災厄に挑む際に、もし人類の旗色が悪くなった時に君『達』には見込みのある人間に助言をして欲しいんだ。」


チェリザ「え?」

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