第136話<とある神の誕生をここに記す>
チェリザは無表情で疑問の声をあげた。
テルーオ「もちろん君が現在の人類に対して複雑な感情を持っているのは知っている。」
チェリザ「・・・・。はい。」
チェリザは意気消沈した様子で頷いた。
テルーオ「・・・。おや、言葉足らずだったかな?272年間限定だけども君は彼専用の教育係だ。いや、君専用の部下と言った方が良いのか?」
チェリザ「きょ・・教育係・・・。なんて甘美な響きなの・・・。」
ルーミオ「・・・・。」
ルーミオの肩が少し震えている。
テルーオ「定期的に報告書を出してくれれば細かいことは何も言うつもりはない。マルーモのところの仕事はやること自体は単純ではあるから、あまり教えることはないだろうが、平時は異常なしとだけ報告してくれればいい。まあ、6千年も我慢した君へのご褒美みたいなものだ。」
チェリザ「・・・よろしいのですか?」
テルーオ「助言の方については定期的な地上の調査も必要もあるだろうから人間以外の動物の姿ならば顕現を許可しよう。」
チェリザ「ああ・・・どうしましょ・・・ノベロと二人きり深夜の個人レッスン・・ダメよ駄目よ・・生徒と教師でそんな・・ダメよノベロ。・・・・・耳元でささやかないで・・・・・フフフ・・。フフフ。フヘヘヘヘ。」
白い子狐ちゃんは煤けた顔をしながら妄想の世界に旅立ってしまった。
テルーオ「・・・・コホン。ま、まあ、喜んでくれて何よりだ。」
ファリーオ「良かったわね。」
チェリザ「はい!!」
現実に戻ってきた子狐ちゃんは赤い顔をしながら返事をした。
ファリーオ「フフフ。」
ファリーオはテルーオを見て言ったが何故かチェリザが反応した。
ルーミオ「・・・・!・・・・・!・・・!」
ちなみにルーミオはその光景を見て女性がしてはいけないような表情で息を殺して笑っている。
テルーオ「ルーミオ、笑いすぎだ。教育の中で人間への助言も彼がするように仕向けて欲しい。日記や指南書を読む限りは彼は人間に対して良い感情は抱いていないようだが、憎んでいるという訳でもなさそうだ。それに君の願いならば何でもやろうとするだろう。ともかくマルーモに伝えておこう。」
チェリザ「・・はい。」
ルーミオ「彼はそもそも一部の存在以外に心を開いてなさそうね。『彼の桜』以外からキスされても不満気な顔するし。」
チェリザ「ルーミオ様、彼に勝手にキスしたことは許していませんよ。」
チェリザは言葉とは裏腹に顔が緩んでいる。彼の桜という表現がお気に召したのかもしれない。
ルーミオ「でも彼は容姿ではなく魂レベルで貴女を判別しているってのが分かって良かったじゃない。ね?ね?」
チェリザ「しょ、しょうがないですね。」
テルーオ「さて、チェリザには個人的に伝えたいことがある。」
テルーオは二級神達に視線をやる。
ファリーオ「私達は用は無い様ね。ルーミオ先に行きましょ?」
ルーミオ「ええ。楽しみ。」
ファリーオ「時々地上を見ていたけど、多分彼って年上の女性とか落ち着いた女性が好きよね。ソフィアさんとか結構好みだったのかもね。」
ルーミオ「そんな感じはするわよね。後は聖女さんに対しても何だかんだ敬意を払っていたし態度も比較的が柔らかかったし、もしかしたら私たちにもチャンスあるかも・・フフ。」
二級神の二柱は好き勝手なことを言いながらマルーモたちの後を追うように部屋を出て行った。
それを見届けてからテルーオは口を開いた。
テルーオ「君があの神父に干渉しノベロの名前を付けさせなかったことや歴史書を一部だけ改ざんしたり、孤児院の書棚の本を書き換えた事や必要以上に彼に人型の姿で接触した事等についてだが・・・」
チェリザ「はい。」
チェリザは緊張した様子で返事をした。
テルーオ「そう硬くなる必要はない。既に君は罰を受けているからね。」
チェリザ「はい。」
テルーオ「君がしたことは結果として人類の記憶に彼を印象深く刻みつける事に繋がった。少し謎があった方が人間は興味を持つからね。罰を極軽い物にした理由を言っていなかった気がしたので伝えておく。」
チェリザ「はい。」
テルーオ「・・コホン。ところで話は全く変わるが、君の眼から見てどうだね?彼はどこまで記憶を取り戻していそうだったかな?先程の様子を見るにとまり木化以前の記憶はないようだが・・・・どう思うかね?元絶望の白狐殿?」
テルーオは軽い調子で疑問を投げかけた。
チェリザ「3千年前のことについては思い出してるようです。それ以前についてはよくわかりません。」
チェリザは控えめながらも嬉しそうな表情で返答する。
テルーオ「となると『雪月白桜』という君の名前ほぼそのままの名を刀につけたのは記憶の封印自体が甘かったのだろうか?あの刀の材料もある意味では君であるしな。」
チェリザ「いえ、千年前の時点では記憶はないと思いますので、刀については恐らく偶然かと。テルーオ様ご指摘の可能性もゼロではありませんが。」
チェリザは少し顔を赤くしている。
テルーオ「本当に彼は君が好きなんだな。天界にたどり着いてからここに来るのに3か月もかかった魂は・・そういえば第二の絶望の時が半年だったか?まあ、ともかく結構珍しい。」
チェリザ「コホン、コホン、コホン。」
チェリザは真っ赤な顔をしている。
「楽しみだな。彼はどんな顔で皆の質問に答えるのだろうか?特にセトなんかは面白い質問をしそうだ。」
チェリザ「セルペント先輩・・フフフ。確かにそうですね。」
テルーオ「最後に前々から君に一つ聞きたいことがあったんだ。これはただの興味本位の質問だ。」
テルーオは一旦言葉を止める。自然とチェリザは背を正す。
チェリザ「何でしょうか?」
テルーオ「6千年前、なぜ彼にだけは鎖の攻撃をしなかった?」
チェリザ「・・・・それは・・・・。」
テルーオ「あの時、彼が君に尋ねた質問でもあるね。」
チェリザ「あんな哀しそうな顔しながら対峙するんですもの。多くの憎しみをぶつけられてきた獣であればあるほど攻撃は躊躇するでしょう。」
彼女は穏やかな表情をしている。
テルーオ「・・・・・。そうか。」
テルーオは顎に手をあて少し考えるそぶりを見せた後顔をあげる。
テルーオ「ま、参考になったよ。さて、時間を取らせたね。先に行っててくれないか?僕は別の用事があるんだ。」
チェリザ「少しお時間を・・忘れていましたがこれは彼の報告書です。」
テルーオ「おお、ありがとう。確認しておくよ。」
チェリザ「はい。では、失礼します。」
チェリザは一礼した後に部屋を後にした。
それを見届けてからテルーオは報告書に目を通す。
テルーオ「まさか周りの人物が彼『を』何秒間、見ていたかまで正確に記録しているとはね。」
テルーオは報告書を机の上に置いた。それに続くように虚空より白く光る四角い箱のようなものが現れ机の上に静かに置かれる。
テルーオ「本当にご苦労だった。君のお陰で後輩はかなりマシな環境に置かれるだろう。これでダメなら霊長類を他の動物に変えてみるかね。」
光の箱は『とある神の誕生をここに記す』と書かれた報告書を入れられた後、時間を巻き戻されるかのように虚空に消滅した。
テルーオ「全員向かったとは思うが、一応放送を入れておくか。」
先程の箱と同様に虚空より緑色の箱が現れる。その箱には幾つかの赤いボタンがついている。
テルーオは幾つかの物理スイッチを高速で何回か押した後、ブオンという音と共に何処かに向かって転位した。
-約500年ぶりに新人神への質問大会が始まります。-
-新人神の正式名はグランダ・デモーノ・デ・マレスペーロ五級神君です。-
-皆で質問攻めして辱めてあげましょう。-
-まだ会場にいない者がもしいれば急ぎ会場に向かってください。-
-今回の司会者はニグラ・セルペント・デ・マレスペーロ三級神君です。-
合成音声が館内に響いた。
青髪黒眼を持つ青いローブをまとった体格のいい男が草原に立っていた。草原にはさわやかな風が流れ、男のローブを揺らす。
青髪黒眼の男「ここは・・?俺は一体・・・?」
男が己の手のひらを眺めているとブオンという音共にテルーオが現れた。
テルーオ「おや、気が付いていたかい?」
青髪黒眼の男「アナタは?」
テルーオ「人間達からは主神と呼ばれている。」
青髪黒眼の男「シュシン?」
テルーオ「僕の正体は今はあまり重要ではない。それよりも君自身の状態は分かるかね?」
青髪青眼の男「多分死んだのでしょうか?」
テルーオ「ああ。その通りだ。本来ならばこのまま転生の手続きに進んでもらう訳だが、君は特殊な立場なので、その前に面会した。」
青髪黒眼の男「???」
彼は良く分かっていないようだが、テルーオは続ける。
テルーオ「生まれ変わるに際して何か希望はあるかね?」
青髪黒眼の男「ん~、オナゴにモテたいな。求婚しようとしたら相手が目の前で■されちゃったし・・。あ、ちなみにあのかわい子ちゃんはどうなったんだろう?」
テルーオ「彼女はすでに転生の手続きに進んだ。数百年後ぐらいに何処かに生まれ変わるだろう。」
青髪黒眼の男「それは良かった。」
テルーオ「転生に際して種族はどうする?何か希望はあるかい?」
青髪黒眼の男「ん~、あの二足歩行の動物になりたいかな。特に理由はないけど、死の間際に出会ったあの生き物『達』からは懐かしい気配を感じた気がする。」
テルーオ「・・・・・・。多分、そう言った直感は大切にした方が良い。ま、ともかく希望は分かった。希望に沿う条件で生まれさせよう。」
青髪黒眼の男「ありがとう。」
男は笑った。
テルーオ「転生に際して一つだけ注意点を伝えておこう。君には加護はない。」
青髪黒眼の男「カゴ?」
テルーオ「その意味は転生後に周囲から自然と教えてもらえるだろう。」
青髪黒眼の男「ん・・・?」
テルーオ「まあ、姿形は異性には人気は出ると思うよ。楽しみにしていて欲しい。」
青髪黒眼の男「ありがとう。シュシンさま」
男の姿はそのまま青い光となって溶けるように消滅した。
テルーオ「彼らが再会するとき第一声はなんと発言するのだろうか?楽しみな事だ。」
テルーオは男が消えたのを見届けた後、来た時と同様に転移した。
-------------------------------------------------------------------------------------------
ここまで読んで頂きありがとうございました。彼に関する報告はこれにて終了ですが、一話だけ後日談を用意しております。もしよろしければお付き合いください
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます