第133話<冒頭に戻る>

チェリザ「・・・・。つまるところ貴方が苦労したのは全部私が理由なのよね。」


チェリザは書きながらも独り言をつぶやく。


チェリザ「・・・。私に関わらなければ貴方は・・・。いえ、それは私が耐えられないわね。6千年前、愛情を知らぬ『第九の絶望』にうっかり優しい言葉をかけてしまった貴方がいけないのよ。うん。そうだわ。貴方の表現を借りれば・・私のせいじゃない。」


チェリザはノベロを観察する。


ノベロ「フフフ・・・・チェリザ・・・・・・・・。」


ノベロは幸せそうな顔をしている。


チェリザ「寝言に反応してはいけないとは言うけれど一体どんな夢を見ているのか気になるわね。」


ノベロ「・・・ダメだぞ~。布団の上でジャンプしちゃ・・。確かにちょっと柔らかいけど・・それは雪でも土でもない・・・抜け毛がががががが・・・・・。」


寝言とは裏腹にノベロは幸せそうな顔をしている。


チェリザ「ノベロ。」


そんな彼をチェリザは愛おしそうに愛撫している。


ノベロ「そんな悪戯子狐ちゃんには罰として全身モフモフの刑だ~・・。」


ノベロはそう言いながらチェリザに抱き着き服の上から弄る。


チェリザ「キャ♡」


ノベロ「ん~、甘くて良い匂いがする~。」


チェリザ「・・・・・。」


チェリザはノベロを抱きしめ返した。


チェリザ「・・・大好きよ。ノベロ。」


ノベロ「ん?う~ん?」


ノベロは目を開く。


チェリザ「おはよう。エッチなノベロ君♡」


ノベロは自分の姿を確認する。


ノベロ「美しいドレスを身にまとった高貴な女性に抱き着く裸の男・・・これでは俺は只の変態じゃないか!?」


珍しく彼は正しく己の状態を認識した。


チェリザ「フフフフフ。ダメ、呼吸が・・・フフフフフ。」


チェリザは何が面白かったのか体を震わせている。


ノベロ「・・・・・・コホン。失礼した。おはよう。チェリザ。君は今日も女神様の様に美しいな。」


彼は取り繕うように無駄に低い真面目な声を出す。


チェリザ「フフフフフ。もう、全く誤魔化せてないわよ。変態さん?」


ノベロ「・・あ、はい。・・ところで、服を着る魔法ってどうやるんだろうか?」


チェリザ「そうね。でも今の貴方に一番必要な魔法は体をきれいにする魔法よね。」


ノベロは己の下腹部をちらりと見る。


ノベロ「あ、はい。」


チェリザ「簡単よ。単純に体がきれいになった状態を想像して、その後に服を着た状態を想像すればいいだけよ。貴方は神なのだから詠唱すら要らないわ。」


ノベロ「む?やってみるか。・・・・・・・。」


彼は白く2回光る。


ノベロ「あれ?格好が違う?間違えたかな?」


彼の姿は黒い制服ではなく、黒いアンダーウェアの上に皮鎧をまとい更に雪月白桜を腰に差した姿になっていた。どこかの国の軍隊の歩兵のようにも見える。


チェリザ「・・・・・あ・・・・。」


チェリザは眼を見開きノベロを凝視している。


ノベロ「なんだこの格好は?こんな姿になった事はない筈だが・・あのカッコいい黒い制服はっと・・」


チェリザ「待って!!」


ノベロ「うん?」


チェリザ「少しの間だけその姿でいてくれないかしら?」


ノベロ「チェリザはこういう格好が好きなのか?」


ノベロは己の服装を改めて確認している。


チェリザ「嫌いではないけど・・そうね、貴方のその格好はとても懐かしく感じるの。」


ノベロ「・・・?ブランカネージョの兵士の格好とも違うが・・・まあ、君が良いなら、いいか。」


チェリザ「ありがとう、黒髪紅眼の兵士さん。」


ノベロ「それにしても・・チェリザは皮鎧フェチだったのか・・。覚えておこう。」


チェリザ「ち、違うわよ?」


ノベロ「・・・・。分かってるよ。俺の女神様。」


ノベロはとても優しい声を出した。


チェリザ「ねえ、絶対誤解してるよね?」


ノベロ「分かってる分かってる。貴女がどんな性癖を持っていようともどんな姿であったとしても俺は貴女を愛せる自信がある。」


チェリザ「もう!!ノベロの意地悪。」


ノベロ「君は可愛いなあ。・・・うん?」


ノベロはチェリザの手元に視線を向ける。


チェリザ「どうかしたの?ノベロ?」


彼女の手の近くに日誌とペンが置かれている。


ノベロ「・・・・ところでそれは何だ?」


チェリザ「あのお方に出すとある人物の報告書よ。ついさっき出来たばかりよ。」


ノベロ「どんなことを書いたか見ても良いか?」


チェリザ「クスクス。気になる?」


ノベロ「ああ。君が関心を寄せる人物がどんな奴なのか気になるんだ。」


チェリザ「女を手あたり次第口説いて飽きたらポイ捨てする物凄く素敵な殿方よ。」


ノベロ「それはなんてひどい奴なんだ。君がそんな奴に引っ掛からない様にまずは敵情視察と行こうか。」


チェリザ「クスクス。はい、どうぞ。」


チェリザはノベロに書類を渡し、そのまましなだれかかった。


ノベロ「おやおや、美しい女性から抱きしめられるサービスまでついてくるとは嬉しいね。」


チェリザ「閲覧料及びサービス代金は私への愛撫という形で御支払い下さい。クスクス。」


ノベロはチェリザの頭を愛撫しながら書類を読むことにしたようだ。



チェリザ「どうだった?」


チェリザは少し不安そうに上目遣いで彼に尋ねる。


ノベロ「書き手のようにとても美しく読みやすい文字だったよ。」


チェリザ「もう!そういうことじゃなくて!」


ノベロ「ごめんごめん。とても詳細まで書かれていて嬉しいよ。でも、ん~」


チェリザ「・・・どうしたの?ノベロ君?」


ノベロ「改めて2つの人生を振り返って思うけど、ポイ捨てられたのってどちらかというと俺の方じゃない?いくら加護がないからって少しひどすぎない?」


チェリザ「そうね。」


ノベロ「でも、・・・だからこそ、俺は君を裏切らずに済んだのかもな。」


チェリザ「仮に加護があったとしても貴方は一生独身だった気がするわ。」


ノベロ「え?これは褒められているのか?貶されているのか?どっちなんだ?」


チェリザ「クスクス、女は秘密が一つや二つあった方が魅力的に見えるの。だから詮索しないで、ね?」


チュッ!!


と室内に水音が鳴り響く。


ノベロ「・・・プハ。何か誤魔化されたような・・でも、可愛いからいいか。」


チェリザ「そういうところも大好きよ。」


ノベロは再び何かを確認するように報告書を確認する。


チェリザ「どうしたの?何か書き洩らしでもあった?」


「・・・・なあ、チェリザ。」

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