第4話<世界の防衛機構>

入学式から数日経ったとある休日の昼下がり、少年は自室で寝ころびながら本を読んでいた。


本の表紙には『世界のオカルト大全、神隠し編』と書かれている。


<デゼルト王国で農業を営んでいるカールさんの証言>


カール「今でも夢なのか現実なのか定かでないのですが、確か俺が見習いだった頃で季節は秋の収穫日で親父の手伝いを終えて、内輪で軽い宴をしようと帰路についていた時です。辺りは真っ暗でした。」


記者「ほうほう、それでそれで?」


カール「そしたら突然、足元に白く光る幾何学模様が発生したんです。」


記者「幾何学模様?どのような?」


カール「教会のマークのような・・あれってなんていうんでしたっけ?」


記者「もしかしてペンタゴンのことですか?」


カール「そうだそうだ、そのペンタゴンは頂点が5個ですけど、確かアレは10個ぐらいあったかな?後は見慣れない記号、もしかしたら文字なのかもしれません。それが描かれていました。」


記者「ふむふむ。その幾何学模様が現れた後どうなったんでしょうか?」


カール「光が物凄く強くなって視界が白で埋め尽くされました。そして気がついたら・・」


記者「気がついたら?」


カール「何処か石造りの建物の中に居ました。王城には入ったことはありませんが、恐らくそれに類する場所だったんだと思います。」


記者「へ~。」


カール「辺りをキョロキョロしていたら、豪華な金色のドレスをまとった美女が声をかけてくるんですよね。『勇者様、この世界をお救い下さい。マオウをどうか討伐ください。褒美に何でも差し上げます』って。」


記者「マオウ?聞きなれない単語ですね。」


カール「ええ、その女性の説明によればマオウというのは我々でいうところの災厄みたいなものらしいです。災厄と違うのは多少は理性があるそうです。」


記者「へ~。理性が多少でもあるのならば災厄よりはマシなのでしょうか?」


カール「ん~、どうなのでしょうかね。で、混乱しながらも『自分には無理です』みたいな事を言ったのですが、その人、どうやらその国の王女様だったらしいんですが、『貴方にはイセリア神の加護が付与されたはずです。』とか言ったんですよ。」


記者「イセリア?」


カール「ええ。確かにそう言っていました。聞いた事もない神の名だったので印象に残っています。」


記者「話の腰を折ってしまいましたね。その後どうなったんですか?」


カール「ええ、その後何だかんだあって加護の判定を受けることになったんです。」


記者「加護の判定って我々が毎年受けるアレのことですか?」


カール「ええ。但しその場所では水晶に触れるのではなく、黄金製の杯のようなものに血を一滴垂らして反応を見るという物でした。」


記者「我々のと大分違いますね。」


カール「はい。で、血をたらしたら、杯が虹色に輝き初めまして、宙から半透明の長い金髪で碧眼を持った半裸の美女が降りてきて自分に微笑んでくるんですね。自分はそれに見惚れていて、うろ覚えですが、王女様が『勇者様~』とか言いながら大興奮していた気がします。」


記者「へ~、で、結局カールさんはそのマオウとやらの討伐に向かったんですか?」


カール「・・・・・。結果を先に言いますが、そうはなりませんでした。」


記者「な、なにか雰囲気が変わりましたが、何があったんでしょうか?」


カール「その直後、空間に黒いヒビが現れ、硝子が割れるような大きな音がしました。バリーン!!てね。」


記者は息をのむ。


カール「そして・・・。」


記者「そして?」


カール「一瞬辺りが真っ暗になったと思うと鬼のような形相をしたマルーモ様が居たのです。」


記者「マルーモ様ってあの教会に飾られているマルーモ様?」


カール「ええ。あの神様です。」


記者「へ~。」


カール「アレは本当に恐ろしい光景でした。確かこんな感じだったと思います。」



マルーモ「!”#!!#$%!!%&#!!#!!$%&$#”!$!$%!!!!!」


マルーモは親の仇に出会ったような恐ろしい形相をしながらイセリアを怒鳴りつける。


イセリア「!%”’##$&$(&$(&%($%’?$&#(’”’&$(’”&#’&%$”’&(”’&($。”&$()”’)($’$”’(、#&%”$U"'(&)"#&!?”$’(&$”’($”!$?」


それに対するイセリアは人を小ばかにしたような態度で冷静に答える。


マルーモ「%&’#$%’(”’#)(”$!!!$#)’$)(”’)(’”!()’#)’)(’”)#’#)%’)(#$’)(’”)!!」


マルーモは般若のような表情でイセリアに詰め寄る。


イセリア「!”#$%&’&’%?#!”#$%&$#。」


イセリアは嘲笑を浮かべながら煽る。


記者「あ、ちょっと待ってください。ちょっと待ってください。えっと・・」


カール「はい。マルーモ様とイセリア様は未知の言語で話していました。もしかしたら神の言語なのかもしれません。」


記者「はあ。」


カール「で、イセリア様のセリフの後に・・」


プチーン。


カール「何か紐が切れるような音が確かに聞こえました。そして次のマルーモ様のセリフは自分にも聞き取れました。」


マルーモ「第二級神ノ権限デ以テ『ワ』茲ニ『カレギア』ニ対シテ戦ヲ宣ス。『ワ』ハ全力ヲ奮テ交戦ニ従事シ総力ヲ挙ケテ戦ノ目的ヲ達成ス。」


マルーモは能面のような無表情で静かに言葉を紡ぐ。カールはセリフが始まったあたりで近くの柱の陰に駆け込み、しゃがみながら様子をうかがう。


カール「マルーモ様はイセリア神に斬りかかり、イセリア神はマルーモ様に向かって何か魔法を放とうとしていました。その後は良く分かりません。轟音が鳴り響き、強烈な光が幾重にも発光し、自分は恐怖のあまり耳と目を塞ぎ、蹲っていました。あ、言い忘れていましたがカレギアというのがその世界の名前らしいです。」


記者「そ、それでどうなったんですか?」


カール「気がついたら、何もかもが消し飛んでいて王女様も『居なくなっていました。』地平線まで焼け野原で天気は快晴だったのを覚えています。その脇でマルーモ様がイセリア神を斬り続けていました。イセリア様の怪我は直ぐに回復するのですが、それに構わず機械のようにマルーモは攻撃し続けていました。途中でイセリア様がもう許してと言ったあたりでマルーモ様は攻撃を中止し自分を振り返りました。こんな感じです。」



マルーモ「カール君、もう大丈夫だ。この屑が悪さをする事はもうないだろう。さ、返ろう。最愛の幼馴染も君を待っているぞ。」


マルーモは別人のように優しく清々しい笑顔でカールに手を差し出す。


カール「え?あ?え?」


カールは動こうとするが何か透明な壁があるのか身動きできないようである。


マルーモ「ん?障壁を解かないと動けないか。失敬、失敬。」


カールの周りからパリンという薄氷が割れるような音がした。


マルーモ「おっと、忘れていた。現地の生き物達に罪はない。」


マルーモが白色に点滅する。


-??????????????-


マルーモを中心に白い光が広がり、消し飛んだ周囲の物体が時間が巻き戻るかのように修復されていく。


カール「建物が元に戻った・・・。」


遠くには王女が驚いた様子で辺りを見回しているのが見える。


マルーモ「マオウとやらも蘇生しておかないとな。彼も被害者だ。」


イセリア「ああ、せっかく居なくなったのに!!」


マルーモ「何か言ったか?誘拐犯?いざとなったらお前がデコピン一発撃てば済む話だろうが?他の世界の魂なんか盗むんじゃねえ。」


マルーモはイセリアを踏みつけながら低い声で吐き捨てる様に言う。


マルーモ「カール君。君は今、悪夢を見ている。俺の手を取れば目覚めるはずだ。この世界の事は忘れていい。」


カールは恐る恐る手をとった。



カール「気がついたら自宅の寝室に居ました。そして居間に行ったら泣いているお袋と幼馴染に難しい顔をした親父と自警団の皆さんが居ました。」


記者「どういうことですか?」


カール「周囲の情報をまとめると自分は一週間ぐらい行方不明になっていた様です。」


記者「いわゆる神隠しって奴ですか?」


カール「どうやらそうみたいです。」


記者「不思議なこともあるものですね。」


カール「はい。その日以降毎日マルーモ様にお祈りをしています。あ、今日もカミさんとお祈りの時間だ。」


記者「おや、お引止めするのは悪いですね。本日は貴重なお話ありがとうございました。」


カール「こちらこそ貴重な経験が出来ました。ありがとうございました。失礼します。」



「・・・不思議なこともあるものだな。とカールさんのエピソードはここで終わりか。次は何々・・ブランカネージョ?・・。」



<ブランカネージョ王国ブルーノさんの証言>


ブルーノ「あの日はこの国には珍しく暖かい日で・・・」

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