第17話 救出作戦開始

 パーシー防具専門店から疾走車で5分、発電塔の前に到着する。


 ビーバルの天空に走っていた雷は、発電塔へ向かうことなく都市に降り注ぎ、町は炎に包まれる。


 消火活動する者やパニックに陥る者、恐怖で立ち止まってしまう者で溢れ返るビーバルは、まさに地獄そのものであった。


 地獄の発端となった発電塔も、爆発により燃えている。



「あの中にホーヴィルがいるんですね」

「あぁ、発電塔の中にいる。でもどこにいるかまではわからないんだ」

「どういうことですか」

「発電塔の点検部分は3か所ある。頂上から雷供給部分、自動制御室、エネルギー貯蔵室。このどこかにいるはず」



 爆発から既に10分以上が経っており、発電塔は炎籠と化していた。


 早く救出しなければ一酸化炭素中毒で手遅れになってしまう状況だが、高層建造物のため捜索場所を誤れば、操作に手間取りホーヴィルが帰らぬ人となってしまう。


 かといって考えに時間を取られては元も子もない。


 このままでは最大最悪の状況に陥ると考えたギルダンは、周りを見渡しホーヴィルの居場所の手掛かりを探す。


 弟弟子のホーヴィルの心配と、町の悲惨な姿に心がつぶされそうになりながらも、ジークはギルダンとクレアを信じて懸命に国民の非難活動を手伝う。


 ギルダンは突入準備のため器具を身体に巻きつけていると、遠くの大通りで炎に包まれた落下物に気付く。



「ジークさん、あの落下物と陥没具合から、高所からの落下が考えられないか?」

「あの部分っ! 頂点に飾られる師匠の紋章だ!」

「ってことは、頂点部分にホーヴィルがいる可能性があるな」

 


 ギルダンが発見した落下物は、ホーヴィルとジークの師匠ジスランが建てた証として付けられた紋章部分であった。


 国の情勢を一気に変化させた歴史的大建築物の発電塔は現在見るに堪えない悲惨な姿である。


 ギルダンは簡易装備を装着し終え、腕時計でタイマーをセットする。



「ジークさん、俺は今から突入するが、10分で帰ってこない場合はここを離れてくれ。発電塔が爆散すると危険だ」

「わかった……、ホーヴィルを頼む」



 ギルダンの問いかけに応えたジークの唇からは血が流れている。


 ホーヴィルを助けたい気持ちと、ギルダンに頼るしかない自身の無能さから生まれる怒りを懸命に抑えギルダンに託す姿は、動転していたクレアに活を入れる。


 多量の汗で脱水が疑われるクレアだが、余力で立ち上がりギルダンの足もとに置かれる予備の簡易装備を取り、身体に巻きつける。


 

「私も行く」

「おい、クレアもジークと一緒にい……」

「この爆発の原因、もしかしたら残されたアーティファクターかもしれない」

「っ! それが本当ならなおさら危険だ」

「ここで……ホーヴィルを死なせてしまったら、私は私を許せなくなる」



 ギルダンでさえ綱渡りの状況であるのに、クレアが行おうとしているのは糸渡りである。


 だが、硬い覚悟を決めたクレアを止めるべきではないと判断したギルダンは、命を懸けてでもクレアを守る覚悟を決める。


 ギルダンは、再度腕時計のタイマーをセットしカウントダウンを開始する。



「行くぞ」

「えぇ」



 2人は燃え盛る炎に臆することなく進み、裏口から侵入を試みる。


 発電塔はカニック国のシンボルではあるが、観光スポットではないため正面入り口はなく、関係者以外立ち入り禁止と書かれた裏口しか存在しない。


 専用IDを入力することで自動的に開くが、ID入力端末が熱でオーバーヒートしてしまい、現在は機能していない。


 入口が1つであることから発電塔が密閉状態になっていると仮定し、バックドラフトの可能性を考慮してクレアを後ろに下げる。


 そしてギルダンは携帯用の斧を簡易装備から取り出し大きく振りかぶって扉に当てると、1度で大きなへこみができる。


 斧を振ること14回目で斧が折れると同時に扉に穴が開き、大量の酸素が中へと進入する。


 ギルダンは扉の正面を避けるため右に飛ぶと、案の定炎が扉を突き破り飛び出す。


 なんとか無事に裏口から入り、ホーヴィルのいる100階を目指し上伸びる階段を一気に昇り始めた。

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