第12話 ギャルメイク
ギルダンから猶予をもらった日から2日後。
ギルダンはグラーク拠点から黒光りする高級オープンカーを走らせ、待ち合わせ時間丁度に到着する。
路上に車を止め運転席から降りると、目的地には既にクレアが待っていた。
初対面の時に見たギャルメイクの印象が強く残っていたギルダンは、スッピンで待つクレアに驚くも、にやりと口角を上げる。
しかし、そこにはクレアだけではなく、クレアよりも少し小柄な少女の姿もあった。
この少女はクレアの親友のリーダである。
ギルダンはこの少女がクレアの見送りにでも来たのだろうと考え、敢えて触れずにクレアに挨拶する。
「おはよう、クレア」
「おはよう、ギルダン」
「早速で悪いが、聞かせてもらうよ。覚悟は決まったかい?」
「ええ、決めたわ。世界に旅立つことにする」
ギルダンの簡潔な質問に、クレアは口篭もらず自身の決意を誇る気持ちで正々堂々答える。
そんなクレアの真っ直ぐな回答と視線に、ギルダンの口元が再び緩む。
旅に出ることをはなから確信していたギルダンだが、迷い1つない快晴のような面持ちで答えるクレアを見て、嬉しい気持ちと共にサンタナにも見せてあげたかったという残念な気持ちであふれた。
複雑な感情で一杯になっていたギルダンだが、クレアの後ろにある張り紙に気付く。
「クレア、家に貼ってあるその紙は?」
「あぁ、これは売却完了札よ。この家売ることにしたの」
「えっ!? どういうこと?」
クレアの決意に歓喜していたギルダンだが、突然の「売る」というワードに度肝を抜かれる。
クレアが家を売る決断をしたのは、昨日のことである。
▲
リーダが突如現れた日の翌日、リーダは改めてクレアの自宅に訪問する。
世界に旅立つ覚悟を決めた夜、リーダはブランコから立ち上がり満面の笑みを見せてくれたクレアから、翌日も尋ねるよう要求される。
意図は教えられなかったが、断る理由もなかったリーダは1つ返事で承諾し、現在クレアの自宅前で出迎え待機中である。
到着から5分後、ようやく扉開かれる。
「おはようリーダ」
「おはよう、すごいクマね」
「旅立つ前にやることが多くて……、寝てないのよ」
「やること?」
狭苦しい玄関で靴を脱ぎ、クレアの言葉に疑問を持ちながら部屋に入ると、そこには部屋の半分を埋め尽くすほど大量の段ボールが積まれていた。
もう半分のスペースには化粧台と小さな机が置かれている。
「どうしたのこれ」
「家にあるもの全部捨てて、家を売ろうと思って」
「はぁっ!?」
部屋に積まれていた段ボールの山は、処分する物であった。
クレアは世界に旅立つ覚悟を決めると同時に自宅を売り払い、旅の資金源にしようと考えていたのだ。
クレアの大胆さに、リーダは目を丸くして立ち尽くすしかなかった。
昨日の今日で家を売るという考えに至る人間はそういない。
突然の状況に硬直するリーダに気付かず、クレアは化粧台の前に立つと引き出しから化粧ポーチを取り出す。
「今日は来てくれてありがとう」
「別にいいけど、ところで今日の用件は?」
「リーダ、私にギャルメイクしてくれない?」
「ギャルメイク?」
「旅立つ前、最後の化粧だから」
ポーチから取り出した化粧品を眺めながら、寂しそうに尋ねる。
クレアがギャルメイクを始めたのは、公園に落ちていたファッション雑誌のモデルに惹かれたことがきっかけである。
しかし、十分なお金がなかった2人はお小遣いを貯め、2人で出し合いながらなんとか化粧品を買いそろえる。
化粧の知識と経験がない2人はメイクアップアーティスト役と客役になりながら、お互い練習台にして練習していた。
残念なことに、リーダは別れを惜しむタイプではない。
淡白で冷たい人間だと自負しているリーダだが、クレアの寂しそうな顔に当てられ、望みを聞くことに決める。
リーダはクレアを化粧台の前に座らせ、下地を手に取る。
「お客さま、今日はどのようなメイクをご希望ですか?」
アーティスト役に成りきったリーダは、作り笑顔とは思えない素敵な表情で尋ねる。
鏡越しに見えるリーダの笑顔に懐かしさを感じたクレアは、リーダの目を見て注文する。
「じゃあ、私に似合うギャルメイクで」
「はい、かしこまりました」
2人は互いの持つ記憶をすり合わせながら、過去を楽しみ始めた。
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