カニック国編

第13話 旅の下準備

「何あの大きな建物!」



 リーダの見送りから早10時間、長時間移動に痺れを切らしかけていたクレアだが、目的地の国にあるシンボルに反応し思わず声が跳ねる。


 一方、ギルダンは軍隊時代に拠点を転々と移動していた経験があるため、涼しい顔をして運転していた。


 自動車を走らせ到着した目的地は、カニック国。


 世界屈指の技術大国であり、機械の製造から武具まで様々なものを製造しており、技術士を目指す人々が最終目標にするほど高い技術力を有する国である。


 そんな技術大国に足を踏み入れた目的は、防具を手に入れることだ。


 遺品レリック探しの旅に出かけるうえで必要なものは大きく分けて3つ。


 1つ目は移動手段の確保、2つ目は衣食住、3つ目は防具。


 いつ何時襲われるかわからない状況で身を守るために必要な防具が最優先であると判断し、技術力の高いカニック国で揃えるようだ。


 入国申請を済ませ、2人は都心部にあるマーケットを通る。


 マーケットには食材や衣服も置かれているが、商品の大半は電子機器や機械である。


 グラーク国とは異なるマーケットの雰囲気に心躍らせていると、突然止まったギルダンの大きな背中に顔を強く打ち付ける。


 どうやら目的地に着いたようだ。



「ちょっと、急に止まらないでよ」

「すまん、目的地に着いたから」



 到着した場所はパーシー防具専門店。


 カニック国では知る人ぞ知る名店であり、アーバー軍事国の防具も手掛けている。


 こじんまりとした外観で、とてもアーバー軍事国の防具を手掛けているとは思えないが、店の下には巨大空洞があり、空洞を工場にすることで生産量を増やしている。

 


「やぁ、いらっしゃい」

「こんにちは、パーシーさん。お久しぶりです」

「久しいねぇ、ギー君」

 


 扉を開けると、中から男性の穏やかな挨拶が聞こえ、店内を見まわし声の主を探すがなかなか見つからない。


 クレアが店内を見まわしている隣で、ギルダンはレジ方向を見ながら店主のパーシーに挨拶する。


 店主パーシーはギルダンのことをギー君という愛称で呼びながら、レジ台の裏から顔を出す。


 どうやらギルダンとパーシーには面識があるらしい。


 クレアは顔を出したパーシーを見て、あまりにも小さい姿に唖然としていた。

 


「今日は何の用かな?」

「パーシーさんに防具を作っていただきたくて」

「製造計画書はお持ちかな?」

「はい」



 スムーズに進む会話に割り込むこともできず、クレアはただギルダンの後ろでパーシーを凝視しながら話を聞くことしかできなかった。


 それもそのはず、クレアが旅立つ覚悟を決めあぐねている間に、ギルダンも旅立つに当たって必要な装備や防具の調達のためにいろいろと準備をしていたのだ。


 淡々と進みゆく会話にクレアは一度も参加できないまま店を出ることになった。


 製造待ちの間、2人は近くのカフェに足を運ぶ。



「防具が完成するのに1日かかるけど、こっからどうしようか」

「あのね、ギルダンに1つ提案があるんだけど」



 クレアはティーカップをお皿に戻し、ギルダンに提案を持ち掛ける。


 ギルダンもフォークをお皿に置き、頬にケーキの欠片を付けたまま顔を上げる。

 


「どんな提案?」

「……新しい仲間を勧誘したいの」



 唐突な提案にギルダンの目は少し見開くが、ギルダンはクレアがこの提案を持ち掛けることを予測していたのだ。


 装備品準備の傍ら、陸軍時代の有能な後輩を数名ピックアップしリスト化しており、ギルダンは鞄からリストを取り出しクレアに手渡す。



「これは何?」

「陸軍時代の後輩達で、皆優秀だぞ。どいつがお気に召すかな」

「……」



 リストに連なるメンバーそれぞれの能力を表したパラメータが書かれており、優秀な人達であることが1目で分かる。


 しかし、クレアの求める能力を持った人は載っていなかった。


 リストをファイルにしまい、ギルダンの前に置く。



「リストはありがたいけど、私が欲しい能力を持った人がいないの」

「能力? どんな能力だ?」

「それは”想像力”」

「想像力!?」



 ギルダンはクレアの回答に驚きを隠せず、香り立つコーヒーを思い切り噴き出した。


 


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