第14話 仲間勧誘
「新しい仲間の当てはあるのか?」
「当てはあるよ」
ギルダンは口周りに付いたコーヒーを指でふき取る。
カップの紅茶を全て飲み干したクレアは、入国審査の際にもらったカニック国の地図をテーブルに広げる。
ペンを取り出し現在地から数キロ離れた大都市に丸をつける。
そこはカニック国の首都「ビーバル」――クレアが入国前に見た巨大なシンボルが聳え立つ大都市である。
巨大なシンボルはただのモニュメントではなく、カニック国特有の天候を生かした発電塔になっている。
そんな大都市にクレアの当てがあるようだ。
「アポは取ってあるのか?」
「取ってないけど、会えると思う」
「突撃勧誘ってわけか。でも場所はわかるのか?」
「パーシーさんに聞いてみる」
もちろんアポイントメントを取っていないクレアだが、会おうとしている相手に会える自信が少なからずあるようだ。
確証のない行き当たりばったりの行動に少々呆れるも、クレアの真っ直ぐな瞳に負けたギルダンは、残りのケーキを1口で食べきり会計を済ませる。
2人はパーシーの元に戻り、クレアが会おうとしている相手の情報をもらった後ビーバルに向かった。
■
パーシー防具専門店を出発してから1.5時間後、燃料補給所を経由してビーバルに到着した。
ビーバル内に入ると、沢山の街灯が街を照らしていた。
ビーバルの上空には分厚い雷雲が広がっており、極夜と言われている。
さらに、轟音の鳴らない雷光が発電塔に向って走り、全ての雷光が発電塔に吸収れているようだ。
横向きに走る雷光が発電塔に吸収される様は、旅人を虜にし、世界3大絶景都市に選ばれている。
クレアは天空の雷に見とれながら、防具専門店の店主パーシーからいただいた情報を元に、会おうとしている相手のいる工業地帯まで来ていた。
カンカンと金属を叩く音が鳴り響く工業地帯を歩いていると、灰色の外壁に黒色の屋根というパーシーの情報と一致する建物を見つける。
「ここが相手の工房みたい」
「しかし作業音が聞こえないな」
ギルダンの言う通り、相手の工房から作業音が聞こえず留守にしているらしい。
クレアは留守という状況を見落としていた。
この見落としは国柄の違いであり、グラーク国の勤務制度は週休二日制であるのに対して、カニック国は自由出勤制である。
休暇の認識がずれていることで今回のようなミスが起こってしまった。
「ごめんギルダン、アポ取っておけばよかった」
「休暇は仕方がないさ、また明日尋ねるか」
「そうね」
クレアは自身の計画の無さを恥じるように顔を下げ、来た道を戻ろうと振り返った時、地面に映る人影に気付く。
「人の工房前で何やってんだ」
影を辿りながら顔を上げると、そこには鮮やかな黄緑色の長髪を靡かせる男が眉間に皺を寄せて立っていた。
作業着にスニーカーを履いた男は、警戒しながら近づく姿にクレアは声をかける。
「あんた、メカ男?」
「っ! その呼び方するやつは1人しかいねぇ。 ようニカラ」
どうやらクレアが会おうとしていた人物というのは、このメカ男という男のようだ。
靴や作業着は油やさびで汚れ、熱などによってところどころ溶けており、髪の毛も寝起きのような寝癖が付いている。
見た目から大雑把な性格であることが読み取れる。
そんな男を見たクレアの顏には落ち込んだ表情は既になく、あるのは安堵の表情であった。
「屈強な男を連れてこんなところに来る何て、どういう用件だ?」
「単刀直入に言うと、私の仲間になってほしい」
「はぁ!? 何言ってんだお前、無理に決まってんだろ」
男から用件を聞かれたクレアは、男の元を訪ねた経緯をすっ飛ばし、初っ端から仲間の勧誘をしてしまう。
訪ねた理由を聞いていない男の返事は、勿論NOであった。
「だいたいなぁお前、説明もなしにOK出せるわけないだろ」
「たっ、確かに……、今から詳細を話すわ」
「ったく、悪いが今日は予定がある。明日にしろ」
男は詳細説明を後日に回し、工房の中へと消えていった。
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