第15話 2つの使命
昨日、勧誘を軽くあしらわれたクレアとギルダンは、再度メカ男のいる工房前に来ていた。
詳細もなく勧誘されて簡単に承諾する人間はそういない。
至極真っ当な意見をもらい、この反省からクレアはホテルに到着した後すぐに話す内容を書き留め、さらにギルダンと綿密な計画を立て最大限の準備をして今に至る。
クレアとギルダンは目を合わせ、軽くうなづいてから工房の扉を開く。
ガチャッ――、少し立て付けの悪い扉を開けると、そこには見知らぬ男が立っていた。
メカ男とは異なる筋肉タイプで、凛々しい顔かつ骨太な男は素敵な笑顔で2人を迎え入れる。
「いらっしゃい、今日はどんな御用で?」
「こんにちは、私たちメカ……、ホーヴィルに用があって」
「ホーヴィルね、もうすぐ来るからそこの椅子に掛けててください」
メカ男の名はホーヴィル・アックスレイヤ。
世界を転々としていたギルダンだが、ホーヴィルに関する情報を持っておらず、世界的に有名な人間でないことは確かである。
しかし、防具専門店の店主パーシーが知っていることから、カニック国では名が知れ渡っていると推測できる。
ギルダンはクレアとホーヴィルの関係について詳しく聞こうと耳打ちしようとした時、工房の扉が軋みながら開く。
入店してきた人物は、ホーヴィルであった。
片手でぼさぼさの髪をかき、もう片方の手を口元にやり欠伸を隠しながら、挨拶もなくクレアたちの正面に腰かけ話しかける。
「それで、昨日の勧誘の詳細について聞かせてもらおうか?」
「まず、私たちはこれからの長旅の準備をしに来たの」
「長旅? お前スクールはどうしたんだよ、ギャルメイクもしてねぇし」
「スクールは退学したの。 私にはやるべき使命があるし、旅にメイクは邪魔だから」
「使命?」
ホーヴィルはクレアがスクールを辞めたこととスッピンに触れる。
ホーヴィルは、クレアがスクール2年のときに、交換留学生としてグラーク国立ピューラ学園高等学校に通っていた男子学生である。
バリバリギャルをしていたクレアは、一生機械いじりをしていたホーヴィルとよく言い争いをする関係であった。
クレアはホーヴィルの食いつきを見逃さず、前日準備していた詳細内容をなぞるように話を進める。
「その使命は、母親の過去を知ることなの……」
ここからの会話は、ギルダンにされた話を噛み砕いてホーヴィルに伝えていく。
クレアが持つ異能力、母親の過去、散りばめられた
話が終わるころには、既に正午を過ぎていた。
「お前の話はまぁだいたい理解した。現実離れしている部分ばっかだけど」
「それで、勧誘の返事は?」
「……NOだな」
2回目の勧誘も呆気なくふられる。
しかし、1度目の勧誘時のような即答ではなく、少し間が開いた返事をする。
「どうして?」
「第1に、俺がお前の旅を手伝う義理はない。第2に俺にも使命がある。第3にお前と俺はただのクラスメイトだ。以上」
「ちょっと待っ……」
「アイビー、俺の家前に工具箱持ってっといて」
「はぁい、わかりやしたぁ」
クレアが必死に準備して臨んだ詳細説明も虚しく終わる。
ホーヴィルは椅子から立ち上がり、後輩へ指示を出し工房を後にする。
口を挟まずクレアに全てを託していたギルダンも、クレアの落ち込む姿になんと声をかければいいのかわからなかった。
そんな重い空気が漂うところに、お茶を持って出迎えてくれた男が近寄る。
「お茶でもどうぞ」
「ありがとうございます」
その男はホーヴィルが座っていた椅子をしまい、その隣の椅子に腰かける。
「そういえば、自己紹介してなかったな」
「あっ、初めまして、クレアです。お邪魔しています」
「俺は、ジーク・ライゲンだ」
ジークは素敵な笑顔をクレアに向ける。
御年32歳のジークは、クレアたちが訪れている工房のマスターである。
ホーヴィルとは対照的な容姿で、大きく膨れ上がる大胸筋や上腕二頭筋が特徴的な男性である。
「ジークさん、1つ質問してもいいですか」
「おう、構わねぇよ」
「ホーヴィルが抱えている使命って何ですか?」
「それは……、俺らの師匠が作った国のシンボル”発電塔”の管理義務だよ」
ホーヴィルもクレア同様、使命を抱えた同志であった。
使命を抱える者同士である以上、クレアは何も言うことができなかった。
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