第16話 溶けた袖口

 ホーヴィルに勧誘を断られた翌日、クレアとギルダンはオーダーメイドしていた防具をパーシー防具専門店へ受け取りに訪ねていた。


 パーシーは以前来た時と同様、穏やかな声で2人を迎え入れる。


 相も変わらず背丈が低いパーシーを凝視するクレアを横に、ギルダンは財布から紫色のカードを抜き取りパーシーに手渡す。


 プレミアムヴァイオレットカード――この世界に50人ほどしか所持を許されていない特別なカードで、世界が保管する財産から支払いができる。


 旅を始める前に売却したクレアの家で得た資金は、世界の財産からしたら何億分の1であり、ほとんど足しになっていないが、クレアには隠している。


 支払いを済ませ、クレアはパーシーに連れられ試着室で防具を試す。


 パーシーの技術はかなり高く、多々ある防具店の中でも上位を争うレベルであり、ギルダンも高い信頼を置いている。


 高い技術と言われる所以は、アジャストアイと呼ばれる見ただけで身体各所のサイズ測定が可能な目を持っている所である。


 試着室から出てきたクレアの身体にはしっかりフィットした防具が装着されていた。


 しかも、防具だけでなく新しい衣服まで用意されていたのだ。



「どうギルダン! 似合ってるかな?」

「とても素敵だと思うよ」



 輝く瞳で見つめるクレアに、ギルダンは少し頬を赤らめながら素敵だと答える。



「クレア君、君はサンタナ君に似ているな」

「「!?」」



 二人はパーシーの口からでたサンタナという言葉に顔を合わせ、パーシーはレジ横にあった大きいファイルから取り出した写真を眺めていた。


 その写真に写る女性は、若かれしサンタナであった。


 隣に映る女性にもたれかかり満面の笑みで映るサンタナを見て、パーシーは懐かしさを、ギルダンは寂しさを、クレアは嬉しさをそれぞれ感じていた。



「この写真はいつの写真ですか?」

「これは21年前に撮ったものだよ。娘を救ってくれた女性二人の写真さ」

「実は、左の女性は私の母親な……」

 


 ドーンッ。

 


 クレアは興奮してサンタナが母親であることを伝えようとした瞬間、大きな爆発音とともにパーシーの店は大きな揺れに見舞われる。


 照明から舞い落ちる埃にせき込むクレアと腰を抜かしたパーシーを抱えたギルダンは、急いで店を飛び出す。

 


「震源地が相当近いな」

「こんな大きい地震は初めてだわ。パーシーさん大丈夫?」

「えぇ、私は平気です」



 地面に落ちた眼鏡をパーシーに渡し、周りを見るため顔を上げるとクレアの目に悲惨な光景が映る。


 崩壊した工房や店舗、血を流して座り込む女性や心肺蘇生されている男性もいる。


 クレアは首に付けたスカーフを外しながら座り込む女性の元に走り寄ると、スカーフを幹部に巻き付ける。


 女性の処置を終え、次は瓦礫に挟まれた男性の救助に加わり瓦礫を引き上げようとする。


 しかし、クレア1人が助けに入ってもびくともしない。



「ギルダンッ! 瓦礫上げるの手伝って!」

「あぁ、わかった」



 加勢を頼まれたギルダンは、瓦礫の下に入り勢いよく持ち上げ、空いたスペースに飛び込んだクレアが男性を引っ張り出す。


 無事男性を助けた二人は怪我の手当ても終えると、東方面から疾走車に乗った男性の荒げた声に気が付く。


 その男は、ホーヴィルの兄弟子のジークであった。



「ジークさんどうしたの? そんな慌てて」

「発電塔が爆発したんだ!」

「えぇっ!?」



 発電塔――カニック国のシンボルで、国内のエネルギー供給源にもなっている国民にとって大事な建築物である。


 そんな大事な発電所が爆発されたらしい。


 しかし、ただ爆発されただけじゃない。



「発電塔の中に、ホーヴィルがいるんだ」



 この発電塔は通常自動発電しており、発電塔内は基本無人であるが、月に1度師匠から託された使命としてホーヴィルが発電塔の整備・点検をしている。


 建築されてから40年間1度も停止したことがなく、故障・不具合もなかった発電塔だが、今回爆発によって初めて発電塔が停止してしまったのだ。


 焦るジークの左肩にクレアが、右肩にギルダンが手を乗せ、軽くうなずく。



「ジークさん、私たちを発電塔まで連れてって」

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