第11話 それともレナードは戦わずして負けを認める臆病者ですか?

 フレアのお世話係に任命されてしまった俺はひとまず村の中を歩いて案内していた。


「そう言えば先程村の外で片手直剣を使ってモンスターと戦っていたようでしたが、レナードは剣士なのですか?」


「一応剣がメインですが魔法もそれなりに使えるので時と場合によってはそっちで戦います」


「なるほど、あなたは私と同じで幅広い攻撃手段を持っているんですね」


「まあ、中級以上の呪文を使えるフレアさんには流石に敵いませんけど」


 ちなみゲーム中盤で一時的に仲間に加入した時のフレアはかなりステータスが高い。もしレベル上げをサボった状態でフレアを仲間にしていたら彼女が一番パーティ内で強いという事も普通にあるくらいだ。

 そんな事を考えているとフレアが訝しんだような表情で見つめてくる。そこで俺はうっかり失言してしまった事に気付く。


「私が中級以上の呪文を使える事をレナードに話してましたっけ?」


「……ああ、聖騎士って武芸に優れていてなおかつ呪文も使いこなせないとなれないと噂で聞いた事があるので多分中級以上は使えると勝手に思っただけです」


 ゲーム知識のおかげで知っているとは流石に口が裂けても言えないためもっともらしい言葉を並べて誤魔化そうと試みる。


「そう言う事でしたか、私が思っていた以上に一般人の間にも聖騎士に関する情報は広まっているんですね」


「まあ、聖騎士は勇者と並ぶ子供達の憧れですから」


 フレアは納得したような表情になったため何とか切り抜けられたようだ。普通は知らないはずの情報を知っている事が誰かにバレてしまうと最悪命が危なくなる可能性が高いため発言には注意する必要があるだろう。


「今の実力がどれほどかは知りませんが剣を扱えて魔法も使えるのであれば将来聖騎士を目指せるかもしれませんよ」


「聖騎士は規律がめちゃくちゃ厳しいって噂で聞いた事があるのでもし運良くなれたとしても大変そうな気がします」


 ぶっちゃけ聖騎士になる気は一切無い俺だったがそこまではっきりとは答えなかった。ヴァンパイアに身を堕としたとは言えフレアは聖騎士に誇りを持っているため発言次第では機嫌を損ねかねないし。

 ちなみに聖騎士には純潔が求められるため童貞や処女で無ければ絶対になる事が出来ず、なった後もそれを例え何があっても守り続ける必要がある。

 つまり聖騎士になった時点で一生童貞を貫かなければならない。前世の俺は童貞のまま死んだため今世では絶対卒業したいのだ。そのため聖騎士になんて絶対なりたくない。

 ちなみに聖騎士が純潔を失うと罪人の刻印を刻まれた上に破門されて騎士団から追放されるという残酷な設定がある事もNPCとの会話で判明している。

 言うまでもなくそれは社会的な死を意味するためそうなれば終わりだ。そんな事を考えながら案内しているうちに一通り村の中を見終わった。広い村ではないので時間はそんなに掛かっていない。


「案内ありがとうございました」


「じゃあ俺はこれで」


「ちょっと待ってください、せっかくなので私と少しだけ手合わせをして貰えませんか?」


「いやいや、実力差があり過ぎて一方的にやられる未来しか見えないんですが」


 フレアからの誘いの言葉を聞いた俺は思わずそう声をあげた。この世界にはレベルやステータスが存在していないがゲーム通りなら人間に擬態している今のフレアはストーリー中盤適正レベルの主人公と同じくらい強い。

 それに対して今の俺は恐らく偽勇者レナードを撃破したばかりの主人公と同じくらいか、ほんの少し強いくらいでしかないはずだ。はっきり言ってまともな戦いにすらならないだろう。


「勿論私は手加減するので安心してください。それともレナードは戦わずして負けを認める臆病者ですか?」


「そこまで言われて逃げる選択肢なんてありません、俺で良ければ手合わせに付き合います」


 挑発的な表情を浮かべたフレアに対して俺はそうはっきりと答えた。ここで逃げてしまえば勇者になんて絶対なれない。

 実際にゲーム内でも勇気ある者こそが勇者であり、本当の勇気とは打算の無い純粋なものだと語られている。だから相手の強さによって勇気を出したりひっこめたりするようでは駄目なのだ。


「レナードならそう言ってくれると思っていました」


「万が一手加減し過ぎて俺に負けても文句言わないでくださいよ」


「ええ、それは約束します」


 フレアに対して威勢の良い事を言ってはみたものの、ぶっちゃけ俺が勝てる可能性はほぼゼロだ。だがフレアとの手合わせは今の実力を知るまたとないチャンスと言える。

 だから例えフレアに対して手も足も出ず無様にボロ負けをしたとしてもその経験は絶対無駄にはならないだろう。


「それで手合わせはどこでしますか?」


「村の中での手合わせは迷惑になりそうなので外に行きましょう」


「分かりました」


 俺とフレアはそのまま村の外に向かって歩き始めた。

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