第10話 いえ、それでも私はレナードに頼みたいのです
俺がメタンと一緒にルーラル村へ戻ると村の中はかなりの大騒ぎになっていた。一般人にとって聖騎士は王族や勇者などと同じ雲の上の存在であり崇拝する対象だ。
ルーラル村のような何の変哲もない村に聖騎士がやって来る事なんて普通はあり得ないため村中が大騒ぎになるのも仕方がない事だろう。人集りの中心にはフレアと村長がいた。
「……聖騎士様はどうしてこんな辺境にある村までわざわざやって来られたのですか?」
「数日以内にブラッドイクリプスが起こります」
「なっ、なんですと!?」
フレアと話していた村長や村人達はブラッドイクリプスという単語を聞いて激しく取り乱し始める。ブラッドイクリプスとはいわゆる皆既月食の事で現代の日本でもたびたび起きていた。
前世の記憶がある俺は皆既月食のメカニズムを知っているがこの世界ではまだ解明されていない。だから突然月が血のように赤くなれば人々が怖がるのも当然だろう。
実際に地球でも恐れられていた時代が過去にはあったと聞いた事があるし。この世界ではただでさえメカニズムが分からない上に皆既月食中モンスター達が凶暴化してパワーアップする現象が発生するため特に恐れられている。
「それだけではありません、ブラッドイクリプスの夜にこの地でスタンピードが発生する可能性が高いです」
「なっ!?」
その言葉を聞いて村長は完全に絶句してしまった。モンスターが大量発生するスタンピードと凶暴化してパワーアップするブラッドイクリプスが重なれば間違いなく大変な事になる。
村に張られた魔除けの結界を打ち破って侵入してくるモンスターが現れても全く不思議ではない。もしそんな事になったら戦闘力を持たない非戦闘員の村人達はなすすべなく一方的に蹂躙されるだろう。
話を聞いていた村人達は一人残らず蒼白な顔をしており完全にパニックを起こす寸前だった。そんな様子を見たフレアは手に持っていた槍をドンと勢いよく地面に突き立てる。
「落ち着いてください」
槍の音とフレアの大きな声で騒然としていた場は一瞬のうちに静まり返った。それを確認したフレアは辺りを見渡しながらゆっくりと口を開く。
「私は教皇様からの命令によりこの村の防衛をするためにやって来ました、この村とあなた達の命は私が必ず救うのでご安心を」
その言葉を聞いて村人達は何とか落ち着きを取り戻し始める。それに対して俺はゲームの設定通りフレアは嘘を吐くのがめちゃくちゃ上手いなというズレた事を考えていた。
ブラッドイクリプス中にスタンピードが起きる現象はゲームでも中盤に起きるイベントだ。まあ、スタンピードに関してはフレアを主人公達の仲間に加入させるために魔王軍が起こした自演自作だったわけだが。
そのイベントが終わった後実際に主人公はフレアを仲間に加入させるため魔王の思惑通りに事は進む。それと同じ事をルーラル村で起こそうとしているらしい。
その後はどうなるか分からないが監視が目的であれば恐らく何かしらの理由をつけて俺と行動をともにしたいと言い始めるはずだ。そんな事を考えているといつの間にかフレアが俺の目の前にやってきていた。
「先程は村の方向を教えて頂いてありがとうございました」
「いえいえ、まさか聖騎士様だとは思っていなかったので驚きました」
頭を下げてくるフレアに対して俺はとりあえずそう答えておいた。フレアの正体が聖騎士ではなく魔王軍に所属するヴァンパイアという事まで知っているくせにしらばっくれている俺も中々の嘘吐きだろう。
「そう言えば自己紹介がまだでしたね、私は聖騎士のフレアと申します。あなたは?」
「レナードです、こっちは相棒のメタン」
俺は自分の自己紹介をした後、頭上を飛んでいたメタンについても一応説明しておいた。するとフレアは柔らかな表情を浮かべる。
「ではレナードと呼ぶ事にします」
「俺はフレア様とお呼びした方がよろしいでしょうか?」
「いえ、私に様は不用ですよ」
「……聖騎士様を呼び捨てにするのは恐れ多すぎて流石に出来ないのでフレアさんとお呼びします」
フレアの事は推しなので聖騎士という身分など関係無く様付けが良かったのだが、様は要らないと言われてしまったため呼べなくなってしまった。余計な事をした少し前の俺を助走をつけて思いっきり殴り飛ばしたい。
「ところでフレアさんがわざわざ立ち止まって俺に話しかけてきた理由は何ですか?」
「レナードには私が村に滞在している間のお世話係をお願いします」
「それなら男の俺じゃなくて同性に頼んだ方が色々と都合が良くないですか?」
「いえ、それでも私はレナードに頼みたいのです」
フレアは一切の有無を言わせない勢いでそう言い切った。うん、この反応的に間違いない。どう考えてもフレアがわざわざこの村までやって来た目的はこの俺だ。
という事はジェノサイドマシンアンセスターを俺が破壊した事は確実にバレている。やはり俺は魔王軍にマークされてしまったようだ。
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