第1章

第9話 って事はフレアは俺の情報を収集するためにわざわざやって来たのか?

 ジェノサイドマシンアンセスターと死闘を繰り広げたあの日から早いもので一か月が経過していた。目覚めた俺は朝のルーティンを開始する。

 顔を洗って着替えメタンに餌を与えてから朝食を食べるというのがいつもの流れだ。ちなみにメタンは普通に村の中で暮らしている。

 村長に頼んで村に入れても良いという許可を貰ったのだ。当然良い顔をしない村人も最初はいたがメタンが無害と分かると何も言わなくなった。

 むしろ可愛らしい見た目もあって今では人気者になっており、そのうち村のマスコットキャラクターになるかもしれないほどだ。


「よし、今日も行くか」


 朝のルーティンを終えた俺は片手直剣と盾を装備してメタンとともに村の外へと向かい始める。ルーラル村周辺に出現するモンスターはゲーム内でも序盤の雑魚という事もあって複雑な動きはしてこない。

 複数体で出現しても連携や戦術も無いため撃破は容易だ。前世の記憶を思い出してからは戦闘に慣れるために村の外で戦ってはいたがこの辺りのモンスターから学べる事はもうほとんどなかった。

 だからそろそろもっと強いモンスターが出現するエリアに行きたいのだが、この世界では成人年齢である十六歳にならなければ旅立つ事は出来ない。


「来週の誕生日を迎えれば俺も十六歳だし、そしたら村長に旅立ちの許可を貰おう」


 それから俺はしばらく村から少し離れた場所でメタンと一緒にモンスター達と戦っていると遠くからこちらに向かって歩いてくる人影を目にする。


「あれは!?」


 赤い騎士鎧を身に付けた女性はモンクエに登場する超重要キャラの一人であるフレアだった。フレアは聖騎士として各地を旅しているキャラで一時期主人公の仲間にもなる。

 だがその正体は魔王軍に所属するヴァンパイアだ。人間に擬態している際は金髪碧眼という外見だが、解除すると銀髪赤眼に変化する。

 元々は人間だったため魔王ロブザードに対して一切忠誠心は無いが逆らえないため常に様々な葛藤を抱えており、最後は魔王軍を裏切るものの主人公達を庇って死亡するという報われない悲劇のヒロインとも言えるキャラだ。

 ゲーム発売後に行われた人気キャラ投票でフレアはダントツの一位となっており、俺も一番好きな推しキャラだったりする。

 ちなみに人気投票で偽勇者レナードは言うまでもなく圏外だった。まあ、序盤で主人公達に倒されて以降何一つ出番なんて無いのだから当然か。


「……何でこんなところにいるんだ?」


 フレアは魔王から命じられて駆け出し勇者である主人公の情報を収集するためのスパイとして仲間に加わるストーリーがある。

 だが主人公が勇者として魔王軍に認知され始めるのはまだかなり先の事であり、そもそもこの世界ではまだ旅立ってすらいない。

 だから何故こんなところにいるのかさっぱりわからなかった。魔王軍に所属しているフレアが意味無くウロウロしているとはとても思えないし。俺がそんな事を考えている間もどんどんフレアはこちらに近付いてくる。


「すみません、ちょっと聞きたいのですがルーラル村はどちらの方向にあるのでしょう?」


「……西です、このまままっすぐ進めば見えてきますよ」


「そうですか、助かりました。ありがとうございます」


 明らかに警戒モードに入ったメタンを宥めつつ質問に答えるとフレアは俺に感謝の言葉を述べそのままルーラル村方向に向かって歩き始めた。

 ルーラル村に用がある様子だが一体何が目的だろうか。魔王から見ればところ何の脅威もない村でしかないはずだが。そこまで考えた俺はとある可能性に気付く。


「……もしかして俺がジェノサイドマシンアンセスターを倒したのが魔王軍に知られた?」


 ゲーム内で魔王軍は主人公達の動向を気持ち悪いくらい把握していた。これは魔王軍が世界各地に張り巡らせている監視システムによって情報を得ていたという設定によるものだ。

 なぜ太古の遺跡にいたのかは分からないがジェノサイドマシンアンセスターは中盤ボスの一体なため魔王軍の監視下にあっても不思議ではない。


「もし俺が魔王ならジェノサイドマシンアンセスターを倒せるような人間は要注意人物として絶対監視対象にする」


 なぜなら物理攻撃もほとんど効かない上に電撃呪文以外は無効化する存在を倒した人間は間違いなく魔王軍の脅威となるからだ。


「って事はフレアは俺の情報を収集するためにわざわざやって来たのか?」


 他に理由が考えられないため恐らくその可能性が一番高いと思う。レナードは魔王軍に勇者の疑いがある人間として認知されてしまった可能性がかなり濃厚だ。

 勇者に近付けて嬉しい気持ちもありつつ、こんなに早いタイミングから魔王軍からマークされるのは流石にまずい。


「もっと早く強くならないと結構やばい事になるじゃん……」


 俺の体からはほんの少し嫌な汗が出ていた。

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