間話1 勇者が二人いれば魔王ロブザードにだって勝てるかもしれない

 太古の遺跡奥地に封印されていた古代魔族の生み出した殺戮マシンが動き出したという報告を受け私は魔王の命令で現地に訪れていた。

 魔王軍が開発中のジェノサイドマシンはその殺戮マシンをベースしているわけだが現段階での性能はイマイチらしい。

 まあ、スクラップ状態になった殺戮マシンの残骸を解析して何とか再現しようとしている状態でありデータや情報なども圧倒的に不足しているため仕方がないだろう。

 だから偶然封印が解けた殺戮マシンの鹵獲を命じられて私はここに来ている。恐らく封印が解けて動き出した殺戮マシンは周囲にいる動くものを無差別に殺し回っているはずだ。


「せめて人間の犠牲者だけは極力出さないようにしないと」


 魔王軍に所属している私が人間の犠牲を気にするなんて普通に考えればおかしいかもしれないが私は元々は人間のため魔王ロブザードに対して忠誠心など一切無い。

 かつて魔王ロブザードに仲間達と戦いを挑んで返り討ちにされた時に人間だった聖騎士フレアは死に、今の私はヴァンパイアとして魔王に隷属させられている。

 アンデットを滅ぼすための存在である聖騎士だった私が天敵であるヴァンパイアに身を堕とすなんて何という皮肉だろうか。

 そして今の私はヴァンパイアになった影響で魔王には絶対逆らえないため、せいぜい命令の実行にほんの少し手を抜く事くらいしか出来ない。


「殺戮マシンを鹵獲して帰るしかないなんて……」


 ジェノサイドマシンが完成すると多くの人間が死ぬ事になるのは目に見えている。それを分かっていながら私は命令を拒めない。私が憧れ続けた勇者ガルシアなら殺戮マシンにだってきっと勝てるだろう。

 しかしヘデルス大陸で死闘を繰り広げている最中なのでここに現れる事はあり得ない。その上勇者ガルシアはかなりの苦戦を強いられており状況が非常に悪い事をよく知っている。

 そんな事を思いながら一歩一歩進んでいたちょうどその時だった。空に凄まじい魔力反応が発生したかと思えば、次の瞬間激しい雷がまるで矢のように何かを狙って地面に降り注いだ。

 落雷した地点からは離れた場所にいた私だったが体に凄まじい衝撃を受けた。だがそれ以上に心理的な衝撃の方が遥かに大きい。


「……今のはまさか電撃呪文?」


 かつて勇者ガルシアが電撃呪文を使った姿を一度だけ間近で見た事があったがその時の光景とあまりにも酷似していた。

 私は落雷が落ちた場所へと急いで向かう。するとそこには黒焦げになって完全に停止した殺戮マシンとボロボロになって地面に倒れ込んでいる少年の姿があった。


「この銀髪の少年が電撃呪文を使ったのか……?」


 状況的にはそうとしか考えられない。電撃呪文は勇者にしか使えない呪文だ。という事は彼も勇者ガルシアと同じく女神から選ばれた勇者なのだろう。


「……とにかくこれで命令の遂行はできなくなった」


 魔王から私に下された命令は殺戮マシンを鹵獲しろというただそれだけだ。それが出来なくなった以上ここに用なんてないし、勿論少年にとどめを刺す必要もない。


「勇者が二人いれば魔王ロブザードにだって勝てるかもしれない」


  ヴァンパイアになってから辛く苦しい日々を過ごしてきた私にとってその事実は大きな希望だった。全てに絶望していた私だったがまだ諦める必要はないようだ。

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