第12話 ではどこからでも掛かってきてください

「早速手合わせを始めましょうか」


「はい、よろしくお願いします」


 俺とフレアはそれぞれ木刀と竹槍を構える。手合わせのためお互いに殺傷能力のない訓練用の武器を使用する事は言うまでもないだろう。

 そして今回は純粋な俺の実力を見る事が目的なためメタンは参加しない。だから村の中に置いてきた。きっと今頃子供達から餌でも貰ってご満悦な状態になっているはずだ。


「ここに来る道中にも話しましたがレナードは呪文を使用して頂いて構いません、私に関しては一切使いませんが」


「分かりました、全力で挑みます」


「ではどこからでも掛かってきてください」


 そう口にしたフレアは一瞬にしてガラッと気配が変わった。フレアはただ竹槍を構えているだけだというのに全身に凄まじいプレッシャーを感じる。

 はっきり言ってジェノサイドマシンアンセスターと戦った時以上だ。俺は足の震えを必死に押し殺しながら最初の攻撃を仕掛ける。


イグニ!初級火炎呪文


 片手直剣と槍ではリーチで負けているためひとまず遠距離から攻撃する事にしたのだ。しかし俺の放ったイグニは竹槍の薙ぎ払いによって一瞬でかき消されてしまう。

 だが今のイグニはダメージを与える事が目的ではなくフレアの隙を作るために放ったものなため問題無い。そのまま俺は一気に距離を詰めて懐に潜り込もうとするがそう上手くはいかない。


「ぐっ!?」


 竹槍にばかり意識が集中していたせいでフレアの前蹴りに全く対処できなかった。無防備な胴体に蹴りを受けてしまった俺は一旦バックステップで後退する。


「呪文で隙を作ろうとする作戦は悪くなかったと思いますが意識を一点に集中させるのはあまり良くなかったですね、実際にモンスターは複数攻撃手段を持っている事が多いので」


 フレアはそう口にしながら俺に向かって竹槍を振り下ろす。避けられないと判断した俺はひとまず盾でガードしつつ木刀で腕を狙う。それに対してフレアは後ろに大きく跳躍して回避行動を取った。


ルッシオ幻影呪文!」


 俺はフレアが着地する寸前にルッシオを唱え物理攻撃の命中率低下を狙う。フレアは一瞬不快感を覚えたような表情を浮かべたため恐らく成功したに違いない。

 これでフレアの動きを制限できたはずだ。そう思ったのも束の間、フレアの竹槍は先程と変わらず俺を正確に狙ってきている。


「まさか失敗したのか……?」


「いえ、ルッシオの効果はちゃんと現れてますよ、ただ私のように視覚を潰されても他で補えるような相手にはあまり効果は見込めませんが」


「そんなのありかよ」


 ゲームではルッシオで幻影状態になった相手はどれだけ強かったとしても問答無用で物理攻撃を外しまくっていたがこの世界ではそれが通用しないらしい。

 それからも色々な方法でフレアに対して攻撃を試みる俺だったが全て対処されてしまった。最終的に手に持っていた木刀を弾き飛ばされて首元に竹槍を突き付けられて決着だ。


「これで勝負ありです」


「……参りました」


 勝負は最初に予想していた通り俺のぼろ負けという結果で終わった。文字通り手も足も出なかったというのが戦った感想だ。


「今のレナードは動きが結構単純だったので攻撃を読みやすかったです、その辺りは今後改善しないといけませんね」


「正論過ぎてぐうの音も出ない……」


 しばらくフレアから今回の手合わせに関するフィードバックという名前の正論パンチを俺はひたすら喰らい続けた。


「色々言わせて貰いましたが最後まで諦めずに立ち向かってきた勇気は本当に素晴らしいです、それにレナードは間違いなく同年代の中ではトップクラスに強い方なのでそこに関しては自身を持ってください」


「ありがとうございます」


 一方的に俺をボコボコにした相手から強いと言われても正直信じられない気持ちの方が圧倒的に強いがひとまず褒め言葉として受け取っておこう。


「今の強さならブラッドイクリプス中に私の背中を任せてもギリギリ大丈夫そうですね」


「……えっ、どういう事ですか?」


「そのままの意味です、レナードにはルーラル村の防衛を手伝って貰います。一人だとどうしても限界があるので、私が倒しきれなかったモンスターの対処をお願いしたいのです」


 なんとフレアはそんな事を言い始めた。予想していた事だがルーラル村の防衛に俺を協力させたいようだ。


「俺がどれだけ役に立てるかは分かりませんが頼まれた以上はしっかりと頑張ります」


「ええ、頼りにしてますよ」


 今回の件はブラッドイクリプスという数年に一回起きる天文現象の最中にスタンピードを人為的に起こす魔王軍の自演自作である事は疑いようがないだろう。

 ゲーム通りであれば俺を殺す事が目的では無いはずだが決して油断は出来ない。言うまでもなく細心の注意を払う必要がある。


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人気RPGゲームに登場する最初のボスで主人公をかなり追い詰めるも最終的に倒される偽勇者に転生してしまった俺は闇堕ちを回避して本物の勇者を目指す 水島紗鳥@11/22コミカライズ開始 @Ash3104

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