第2話 分かってるって、命は一つしかないんだから
レナードを偽物ではなく本物の勇者にする事を決意した俺は前世の記憶を取り戻した日から早速行動を開始していた。
俺はここ一週間ほど村の外に出て毎日モンスターと戦っている。これは何のために行っているのかというととにかく戦闘になれるためだ。
「ゲームとは違ってレベルとかステータスなんて存在しないし、コマンドバトルでもターン制でもから自力で強くなるしかないんだよな……」
そのせいでゲームの戦闘テクニックなんて全くと言って良いほど役に立たなかった。ゲーム知識で役に立った事は今のところ敵の耐性が分かるくらいだ。
異世界転生あるあるネタのトラック転生が実在したんだからレベルやステータスだって存在してても良いはずなのにマジで解せない。
ちなみに前世を思い出す前の俺はモンスターとの実戦経験はほとんど無かった。剣や槍などの各種武器を扱える上に初級だが攻撃と補助、回復の魔法を一通り使える優秀な自分は何もしなくても強いと信じ切っていたのだ。
この世界の年間死亡率は現代の日本とは比べ物にならないくらい高いというのに俺はなんて能天気だったんだろう。
「……やっぱり何時間も戦い続けるのは無理か」
俺はこの周辺に出現する雑魚モンスターであるキラーラビットとヒュージフロッグの死体を見ながらそうつぶやいた。
ゲームをプレイしていた時は薬草を大量に買い込んで何時間も連戦してレベル上げに励んでいたがこの世界ではそうはいかない。
疲労のせいでだんだん動きも鈍ってくるし集中力も次第に無くなってしまうためずっと戦う事なんてどう考えても無理だ。
確かに俺が現在住んでいるルーラル村は魔王が支配するヘデルス大陸からは遠く離れているゲーム内では割と序盤に訪れる場所のためモンスター自体は弱い。
ゲーム基準で考えれば負ける可能性はまずないだろう。だがこの世界はゲームとは違う。例え格下のモンスターが相手でも攻撃されれば普通に痛いし、ちょっとでも判断を誤ればあっけなく殺されてしまう。
言うまでもなく教会で蘇生されるような事もないため死ねば全てが終わりだ。だから慎重に行動しなければならない。
「このくらいにして一回村に戻るか」
体力を結構消耗したためそろそろ休憩しないと危険だ。俺は鋼製の片手直剣を背中の鞘に収めて村に戻り始める。今は村のすぐそばにいるため戻るのは一瞬だ。
「レナード、剣を背負ってるけどひょっとして村の外に行ってたの?」
「ああ、今日も行ってきたぞ」
「また行ったんだ……」
村に戻った俺が自宅を目指して歩いていると幼馴染のセナから話しかけられた。金髪碧眼の外見をしたセナは非常に可愛らしいため実はちょっと気になっていたりする。
まあ、前世と今世を合わせると俺の実年齢は三十歳を超えているため万が一手を出した日には児童福祉法違反で捕まりかねない。
と言っても流石に異世界にまでは適応されないだろうし、そもそもこの世界では男性は十四歳、女性は十二歳から結婚出来る。
そのため外見十五歳で中身が三十三歳の俺と十五歳のセナが子作りをしても一応問題はない。勿論手を出すつもりなんてさらさらないが。
「いつも言ってるけど絶対無茶はしちゃ駄目だよ」
「分かってるって、命は一つしかないんだから」
セナは過剰なまでに俺を心配しているがこの世界にはモンスターという人類に敵対的な存在が身近にいるため同然の反応だろう。
街や村には結界が張られていてモンスターは基本的に侵入出来ないが一歩外に出れば死と隣り合わせの弱肉強食な世界が広がっている。
俺のように戦える人間ばかりではないため移動するだけでも命懸けだ。もしこの世界に銃があれば一般人の生存率は格段にあがるだろうが残念ながら存在していない。
恐らく剣と魔法で戦うRPGのモンクエに銃が存在すると世界観がぶち壊しになるため登場させなかったのだろう。
一応この世界は地球と変わらない物理法則で成り立っているようなので知識や材料があれば銃を作る事も多分出来るはずだ。
だが前世がただの大学生の俺が銃の作成方法なんて当然知っているはずもなく、もし仮に知っていたとしても材料や作成に必要な設備を準備出来るとは到底思えない。つまり現実的では無いと言える。
「いつになったら魔王ロブザードは倒されるんだろう?」
「ヘデルス大陸周辺はモンスターが桁違いに強い関係で勇者ガルシアも苦戦してるらしいしどうなるんだろうな」
「早く平和になって欲しいよね」
「そうだな」
ひとまずセナに話を合わせた俺だったが勇者ガルシアの魔王ロブザード討伐はこの世界がゲームのシナリオ通りに進むのであれば失敗するはずだ。
モンクエは亡き父の遺志を継いだ主人公が魔王ロブザードを倒す物語となっているため勇者ガルシアが勝つ事は恐らくないだろう。そんな事を考えていると何かを思い出したらしいセナが口を開く。
「そう言えば村長がレナードの事を探してたよ」
「一体何の用だ?」
そうつぶやきつつ俺はとりあえず村長の家に向かうことにした。
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