人気RPGゲームに登場する最初のボスで主人公をかなり追い詰めるも最終的に倒される偽勇者に転生してしまった俺は闇堕ちを回避して本物の勇者を目指す

水島紗鳥@2作品商業化決定

序章

第1話 どうせ転生するなら勇者の主人公が良かった

 人気RPGゲームであるモンスタークエストには勇者と呼ばれるキャラクターが三人存在する。一人目はプレイヤーが操作する主人公。

 二人目は主人公の父親である先代勇者のガルシア。そして三人目は主人公の前に立ちはだかる最初のボスのレナード。

 まあ、レナードは主人公やガルシアとは違い偽勇者だが。偽勇者レナードはRPG初心者のプレイヤー達をゲームオーバーにさせる事で有名なモンクエ最初の強敵だ。

 俺も初見の際ゲームオーバーとなってしまった事は未だに忘れられない。偽勇者レナードに苦戦させられる理由は単純なAボタン連打では勝てないためだ。

 適正レベルで挑んだ場合何も考えず適当に攻撃しているだけではまずパーティを壊滅させられる。今までの雑魚的と比べて遥かにAIが優秀な上にHPもかなり高いため本当に強い。

 実は状態異常耐性が最低クラスとなっているためそこを突けば撃破は容易なのだがそれに気付けなければまず勝てないレナード戦は最初の難関とも言える。

 これは頭を使わなければこの先勝てない敵がいるという開発者側からのメッセージらしい。俺は鏡に映った銀髪紫眼という日本人離れした自分の顔を見ながらそんな事を思い出していた。


「やっぱり俺って偽勇者のレナードだよな……」


 高熱に三日三晩苦しめられていた俺が前世の記憶を取り戻したのはちょうど先程の事だ。突然凄まじい頭痛とともに前世の記憶が頭に流れ込んできた。

 しばらく動けなかった俺だがようやく頭痛が治まったため前世の記憶を振り返り始めている。前世の俺は東京の難関私立大学に通う大学一年生だった。まあ、入学式初日に死んだため大学の思い出はほぼ無いに等しいが。

 大学デビューを目指して新歓コンパに参加した俺は先輩達から勧められるがまましこたま酒を飲み、二次会の会場に移動しようとしたタイミングで段差に躓いて車道に倒れ込みトラックに轢かれて死んだのだ。


「……トラック転生が実在するって知りたくなかったんだけど」


 せっかく高校三年間娯楽を我慢しながら一生懸命勉強して難関私立大学に現役合格までしたというのにキャンパスライフがわずか一日で終了するとか運悪過ぎるだろ。

 大学デビューして女の子からモテモテになって速攻で彼女を作り童貞卒業するという長年夢見ていた計画も完全にパーだ。


「どうせ転生するなら勇者の主人公が良かった」


 あっ、でも主人公が女って可能性もあるか。モンクエは主人公が男か女か選べるタイプのゲームだし。中身は男なのに体が女の子になるのは色々と問題しかない。


「てか結局レナードって主人公に倒された後は最終的にどうなったんだ?」


 悪事を暴かれて逆上したレナードは主人公に襲いかかるが敗北して衛兵に引き渡される。ゲーム内ではここまでが一連のイベントだったわけだがレナードのその後ついては一切説明されていない。

 中盤や終盤で再登場などもしないためプレイヤーがレナードの末路を知る手段は一切無いのだ。でも一つだけ確実に言える事がある。

 それはゲーム通りの人生になればレナードには破滅しか待っていないという事だ。現代の日本とは違って基本的人権の概念すらない文明が中世レベルなこの世界では罪人の扱いなんて全く期待できない。

 奴隷にされて死ぬまで劣悪な環境で強制労働をさせられるか、散々拷問された末に処刑されるかのどちらかだろう。


「いや、レナードは人間の中では割と強い方だから魔王軍との戦闘に投入されるって可能性もあるか」


 まあ、その場合も捨て駒同然の扱いを受けて使い潰される未来しか待っていないだろうが。モンクエには回復呪文はあるが他のRPGにはありがちな蘇生呪文が一切存在しないため死ねば全てが終わりだ。

 せっかく運良く二度目の人生を生きる機会が与えられたというのに将来が奴隷か処刑、捨て駒しかないというのはあまりにも悲惨過ぎではないだろうか。


「でも時間軸的にはゲーム開始前だから今から何とかすればワンチャンどうにかならないか……?」


 偽勇者として主人公の前に登場したレナードは十八歳であり、十六歳くらいから悪事に手を染めるようになったという設定がボス戦前の会話で判明している。

 現在の俺は十五歳でありまだ道を踏み外していないため軌道修正は出来るはずだ。てか出来ないと冗談抜きにマジで困る。


「そもそもレナードが偽勇者になった理由って最初は本物を目指していたけどやさぐれでだんだんダークサイドに堕ちていったのが原因だったよな?」


 レナードとして十五年間生きてきたから分かるが勇者として絶対に必要な素質である勇気が圧倒的に足りていない。

 だから格上の相手と戦う場面がやってきても立ち向かう事が出来ないのだ。それが原因でレナードは周りから失望されたり馬鹿にされたりするようになる。

 それが積もり積もって闇堕ちするというわけだ。ちなみにレナードが悪事に手を染めてもなお勇者を名乗っている理由は憧れを捨てきれなかったという裏設定があるらしい。


「中途半端に何とかしようとしても多分上手くいかないだろうし徹底的にやるしかないか」


 破滅の未来を潰すには本来のレナードとは真逆に生きる必要がある。それなら偽物ではなく本物の勇者になってやろう。俺はそう覚悟を決めた。

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