第3話 いやいや、こんなところまで忠実にゲームを再現しなくていいだろ

「村長こんにちは」


 目的地に到着した俺は家の裏にある畑で農作業をしていた村長に話しかけた。


「誰かと思ったらレナードか、わしに何かようかの?」


「セナから村長が俺の事を探してたって聞いたから来たんですけど」


「……おお、そうじゃったそうじゃった。レナードに頼みたい事があったんじゃ」


 村長は高齢で最近物忘れが激しいためこういう事が度々ある。だから特に気にしてはいないのだが村長が俺に頼みたい事とは一体何なのだろうか?


「実はアムカラに行って欲しくてな」


 アムカラはルーラル村の南に位置する近隣の街だ。この世界にはバスや電車などの公共交通機関なんて当然存在しないため基本的に移動は徒歩となる。

 距離的にはそんなに離れていないが道中モンスターとエンカウントする事を考えると大体一時間くらいはかかるだろう。


「大丈夫ですけど何か用事でもあるんですか?」


「明後日ある村祭りで使う女神のティアラを取りに行く必要があっての」


「あれ、女神のティアラって確か毎年職人の弟子が直接ルーラル村に持ってきてませんでしたっけ?」


「弟子が辞めたらしくてここまで持ってくる余裕がないとこの間アムカラから来た商人が言っておってな」


 なるほど、それで今年は直接取りに行く必要があるのか。


「村の外に出ても大丈夫そうでかつ頼めそうなのがレナードだけなんじゃ、頼まれてはくれんか?」


「分かりました、俺で良ければ行ってきます」


「本当に助かる、お金はこれで足りるはずじゃからよろしく頼んだぞ。余ったお金はお駄賃として好きに使ってくれて良いから」


 俺は村長からお金の入った袋を受け取る。この世界の通貨はコインという名称になっているが受け取った袋はかなり重かった。

 ゲームではステータス画面に表示されるだけのお金もこの世界では持ち歩いて管理する必要があるため地味に大変だ。

 まあでも装備をもう少し整えたいと思っていたのでこの臨時収入は本当に助かる。アムカラは序盤の街のため武具屋には強い装備は置いてないが、掘り出し物市に有用なアイテムが売られていたはずだ。

 とりあえず今は体力を消耗して疲れているため昼食を済ませて一休みしてから出発する事にしよう。それから俺は家に戻って昼食を済ませ少し休憩をしてからアムカラに向けて出発する。道中では特段大きな問題も起きていないため順調だ。


「それにしてもやっぱり出てくるモンスターはゲームの通りだな」


 エンカウントエリアはゲームと全く同じようでルーラル村やアムカラ周辺に出現するモンスターとしか遭遇していなかった。

 まあ、ヘデルス大陸に出現するジェノサイドマシンやドラゴンマスターなどに遭遇しても多分一方的に血祭りにあげられるだけなので助かってはいるが。

 死んだ仲間は生き返らず主人公が死ねば即ゲームオーバーなモンクエもセーブとロードが出来たから何とかクリアできたが、この世界にはそんなもの便利な機能は存在していないため本当に慎重に行動しなければならない。


「……あれっ、川なんてアムカラ周辺にあったっけ?」


 ルーラル村を出てひたすら南下していた俺だったが突然目の前に川が現れたため立ち止まってそうつぶやいた。もしかしたら少しずれたのかもしれない。

 この世界にはろくな道もなくゲームのように地図上に自分の位置が表示される事もないため簡単に道に迷ってしまう。

 俺が地図を広げようとしていると凄まじい殺気を感じて慌てて顔をあげる。するとそこには赤い体で棍棒を手にしたモンスターが立っていた。


「なんでレッサーオーガなんているんだよ!?」


 レッサーオーガは中盤に出現する攻撃力がかなり高いプレイヤー泣かせのモンスターだ。装備が貧弱だったりレベルが低いとHPや防御力の高い前衛キャラすら一撃で瀕死寸前になる。


「そういう事か……」


 何故明らかに場違いなレッサーオーガがこんなところに出現したのか謎だったがゲーム知識のおかげでその理由に気付いた。

 これはエンカウントエリア漏れというゲームの仕様が関係している。モンクエのエンカウントエリアは大きな正方形で設定されており、それが原因で岩山や海の向こう側のモンスターが出現してしまうエリアが一部存在するのだ。

 そのせいで場違いに強いモンスターと運悪くエンカウントしてしまいゲームオーバーになったプレイヤーは数知れない。


「いやいや、こんなところまで忠実にゲームを再現しなくていいだろ」


 俺はこの世界を生み出した神に対してそう毒づいた。言うまでもなく今の俺が絶対に戦ってはならない存在であり逃げるしかない。勇気と無謀を履き違えてはならないのだ。


「……すんなり逃げられれば良いんだけど」


 恐らくそれは難しいため万が一の時の覚悟もしなければならないだろう。まだ死にたくないな。

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