第5話 よし、お前は今日からメタンだ

「ゲームだとテイムイベントって最後に名前を付けて終わりだったけど、とりあえず名前を付ければ良いのか?」


 俺はそう呟きながら目の前で首を傾げているベビーメタルドラゴンを見る。こいつが仲間になるのは完全に予想外だった。

 そもそもモンスターのテイムは主人公にしか出来ないと思っていたし。あっ、でもそう言えば偽勇者レナードのアジトにいたモンスターとは敵対していなかったよな。

 って事はあのモンスター達は偽勇者レナードにテイムされていたのかもしれない。そう考えればベビーメタルドラゴンが仲間になったのも一応納得できる。


「名前どうしよう……」


 ネーミングセンスが全くない俺はいつも仲間モンスターの名付けに苦労していた。ゲームをしていた時はベビーメタルドラゴンを仲間にした事が無かったため本当に悩む。


「メタドラとかは安直だし、ドランは他と被るし……」


 ドランという名前はヘデルス大陸で仲間になるモンクエ最強モンスターの一匹であるドラゴンエンペラーに付けていたためどうしてもそっちのイメージが強い。


「メタゴンはなんか微妙なんだよな」


 しばらく考える俺だったが良さそうな名前が思い浮かんでくる。


「あっ、そうだ。メタンなら呼びやすいし響きとかも良いじゃん」


 メタンは確か天然ガスの主成分で炭化水素の一種だったはずだが、ベビーメタルドラゴンはブレスも吐くためちょうど良いなではないだろうか。心なしかベビーメタルドラゴンも嬉しそうに見えるしこれで決定にしよう。


「よし、お前は今日からメタンだ」


「グォアアアァァ!」


 ベビーメタルドラゴン改めメタンはめちゃくちゃ機嫌が良さそうに鳴き声を上げた。それから俺と一匹はアムカラを目指して歩き始める。目視で捉えられるほど近くにいるためもうすぐ到着するはずだ。


「……そう言えばメタンは街の中には入れるのかな?」


 ゲームではテイムモンスターは結界を通り抜けて普通に街の中に入れていたがこの世界ではどうなのだろう。


「ゲームだと普通にドラゴンエンペラーとかヘルマシンみたいな明らかに見た目がヤバくて凶悪そうなモンスターも街に連れて入れるけどこの世界なら絶対大騒ぎになるよな」


 もしそうなったら勇者になる前に魔王軍のスパイとして捕らえられて処刑されそうな気しかしない。リスクを回避するために俺の用が済むまで街の外で待機して貰う事にしよう。

 ゲームと同じ能力であればこの辺りの雑魚モンスターの攻撃は全て無効化できるためメタンに危険はまず無いはずだ。


「てか、メタンがゲームと同じ能力ならかなりのチートモンスターだよな」


 ベビーメタルドラゴンは一応ゲーム開始直後から仲間にする事が出来るモンスターの一匹で、もし運良くテイムできたなら完全に序盤のゲームバランスが崩壊する存在だった。

 序盤どころか中盤に入るくらいまでまともにダメージを与えられるモンスターやボスなどが出現しないため当然だろう。

 まあ、序盤ではまず倒せないベビーメタルドラゴンのエンカウント率が1パーセントという低確率な上にテイム率も256分の1なため開始直後に仲間にする事はほぼ不可能だが。

 だから序盤で頑張ってベビーメタルドラゴンを仲間にしようと思うと想像を絶するほど凄まじい苦行を強いられる事になる。

 実際にゲーム実況者が何ヶ月も挑戦してようやくストーリー序盤の状態でテイムを成功させていたが、仲間になった頃にはモンクエのラスボス戦の適正レベルになっていたほどだ。

 ちなみにそのゲーム実況者はやつれた顔でもう二度と挑戦したくないと語っていた。序盤でベビーメタルドラゴンをテイムするのはそれくらい大変なのだ。


「でも物理攻撃以外は全部無効ってのは俺とは相性が良いな、レナードって状態異常耐性が最低レベルだし」


 状態異常を全て無効化してくれるメタンは完全に俺の弱点を補完できるため俺の生存率が大きく上がる事は間違いない。

 ルーラル村やアムカラ周辺には状態異常攻撃をしてくるモンスターほとんどいないが、ゲームと同じであればこの世界には数多く存在しているはずだ。

 そう考えるとメタンをテイム出来た事は本当に幸運だと言えるだろう。人生の運を今日で全て使い果たしたかもしれない。


「これからよろしくな」


「グォアアアァァ!」


 俺が隣を飛行するメタンにそう語りかけると相変わらず嬉しそうに鳴き声をあげた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る