第6話 何だ、少年は私を探していたのか

 アムカラに到着した俺は女神のティアラを受け取るために職人の工房へと向かったわけだが問題が発生していた。


「レインが二日前から戻ってきてないのよ」


 どうやら職人のレインが素材の調達でアムカラを出て行ったっきり帰ってきていないらしい。だから女神のティアラも最後の仕上げがまだ終わっていないとの事だ。

 今まではその辺の素材調達も弟子がやっていたようだが人手不足になったせいで自ら動く必要があるとか。そんな情報を工房にいた女性から聞いた俺は探しに行く事にした。

 レインはアムカラからさらに南に行ったところにある太古の遺跡にいるらしい。太古の遺跡はモンクエ本編では特に訪れる必要が無い場所だった。

 本当は何かしらのイベントを用意するはずだったがそれが没になってしまい、特に消される事もなく存在するだけの場所になってしまったと噂で聞いた事がある。


「てか、メタンのおかげで戦闘が一気に楽になったよな」


 俺はこの周辺に出現するモンスターであるデスキャタピラーやメイジゴブリン、レッサーゴボルトをメタンが炎のブレスで攻撃している姿を見てそうつぶやいた。

 メタンの炎ブレスで弱った奴らを片手直剣でとどめを刺すだけで無力化できているため特に危ない場面は無かった。ただ一歩間違えれば死ぬ危険がある事には変わりないため気は一切ぬいてないが。

 それからしばらくして太古の遺跡に到着した俺はレインを探し始める。太古の遺跡内には有用な鉱石が生成されるという設定があるためレインは来ているのだろうそこそこ広いため探すには時間がかかりそうだ。


「……雨も降ってきそうだしさっさと見つけて帰ろう」


 雨が降ると視界も悪くなるし体温も奪われ、さらにメタンの炎ブレスも威力が半減するため良い事は何も無い。しばらく進んだところで赤髪の女性と遭遇した。


「これは品質がイマイチでこっちは小さいし……」


 赤髪の女性は地面にしゃがみ込んでカラフルな鉱石を両手にぶつぶつと独り言をつぶやいていた。ここにいるという事はレインの居場所を知っているかもしれない。


「……あの、すみません」


「!?」


 俺から突然話しかけられた女性はかなり驚いたように飛び上がった。


「き、急に後ろから話しかけるのは辞めてくれ。驚いたじゃないか」


「ごめんなさい……」


「それでどうしたんだ?」


「実はアムカラで職人をやってるレインさんという方を探してまして」


 俺がそう話しかけると女性は意外そうな表情になる。


「何だ、少年は私を探していたのか」


「えっ、あなたがレインさん!?」


「そうだが」


 俺は思わずそう声をあげた。職人と聞いた俺はてっきりレインが髭を生やした体格の良い中年男性だと思い込んでいた。

 だから実はレインの正体が色白で細身の若い女性とは思ってすらいなかったのだ。ひとまず俺はレインを探していた理由を話し始める。


「ルーラル村の祭りで使う女神のティアラを納品でアムカラに行ったらレインさんがまだ戻っていないと聞いたので頼まれてここまで探しにきたんですよ」


「確か女神のティアラの納品日は明後日だったはずだが……」


「レインさんがアムカラを出てから二日経っているって聞いたので今日がその明後日です」


「何、もうそんなに時間が経ってたのか!?」


 なるほど、どうやらレインは自分の世界に入ると周りが見えなくなるタイプらしい。レインは血相を変えた表情で荷物をまとめて立ち上がった。


「すまない、すぐにアムカラに戻って準備をする」


「お願いします」


 俺とレインは並んで歩き始める。隣を歩くレインはかなり身長が高かった。現在百七十センチほどの俺よりも十センチ以上は上だ。

 ちなみにこの世界は魔法が存在しているおかげか食料事情は中世ヨーロッパよりも格段に良い。だから平均身長が男性ですら百六十センチくらいだった中世ヨーロッパより遥かに高いのだ。

 レナードも最終的には百八十センチくらいまで伸びるため現代日本基準で身長を考えると勝ち組だ。前世では平均身長の百七十センチしかなかったし。

 そんな事を考えながら歩いていると突然どこからともなく凄まじい殺気を感じる。それと同時にメタンが突然俺を庇うように飛び出してきた。メタンは俺の体に直撃するはずだった矢から守ってくれたらしい。


「な、何が起きたんだ!?」


「分かりませんがまずい事に俺達は何かに狙われてるみたいです……」


 俺とレイン、メタンが臨戦体制を取っているとメカメカしい音とともに四本足のボウガンと槍を持ったロボットのような見た目のモンスターが現れる。


「まさか!?」


 そのモンスターに俺は見覚えがあった。目の前にいるジェノサイドマシンアンセスターは中盤終わりに戦う事になるボスだ。こいつは物理攻撃をほとんど受け付けない上に魔法もただ一つの系統を除いて一切効果が無い。

 ただ一つ効く系統というのが勇者しか使えない電撃呪文であり、このボスとの戦いを通して習得するイベントがある。

 電撃呪文は勇者専用のためゲームではガルシアと主人公しか使用者がいなかった。言うまでもなく偽勇者レナードでは使えない。今の状況はまさに絶対絶命だった。

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