第7話 何もしなかったらどうせ死ぬだけなんだから試してやる

「メタン、お前はレインさんを守れ」


「グォアアアァァ!」


 俺は突き出される槍を避けながらメタンにそう命じた。 幸いメタンの防御力であればジェノサイドマシンアンセスターでもほとんどダメージは与えられないだろう。

 レインが一人でここまで来れている事を考えるとある程度戦闘力はあると思うが、明らかに後衛タイプな見た目をしているため攻撃を食らうのはまずい。

 だがそれは俺も同じだ。今の装備であれば一撃食らっただけでも致命傷は免れない。相手にはダメージを与えられず、逆にこちらが攻撃を受ければ瀕死になるため逃げる以外無いのだ。


「……でもこいつからどうやって逃げれば良いんだよ」


 レッサーオーガとは違い状態異常に完全耐性を持っているため幻影呪文のルッシオで目潰しする作戦は通用しない。

 初級氷雪呪文のスティーで地面を凍らせて移動を妨害する方法もこいつには無意味だ。ジェノサイドマシンアンセスターはゲーム知識でどんな地形でも問題なく移動出来る事が分かっている。

 そんなを考えている間もジェノサイドマシンアンセスターは容赦なく俺達に対して攻撃を仕掛けてくる。槍で俺に攻撃を仕掛けると同時に離れた場所にいるメタンとレインに向かって次々にボウガンで矢を発射してくるため本当に隙がない。

 今は激しく振り回される槍を何とか回避出来ているがいつまでも体力は続かないため何とかして状況を打破出来なければ俺達はここで死ぬ事になる。運が悪い事に雨まで降り始めてしまったため俺達はとことんついていない。


「レインさんはメタンと一緒に逃げてください、俺が時間を稼ぎます」


「待て、そんな事をすれば君が危険だ」


「今のままだと二人とも死ぬだけです、それなら最悪レインさんだけでも生き残った方が良いに決まってます」


「しかし……」


「良いからさっさと逃げてください」


 納得出来ない様子のレインだったが俺の意図を正確に理解してくれたらしいメタンは彼女の背中を強引に押し始めた。

 そんな一人と一匹に矢を放とうとするジェノサイドマシンアンセスターのボウガンに対して俺は初級真空呪文をぶつける。


「させるか、ウェン!初級真空呪文


 ウェンによって発生した強風によって矢は逸れた。そこまでやってようやく諦めてくれたレインはメタンに守られながら全力で逃げ始めてくれた。

 それに対して怒りを覚えたらしいジェノサイドマシンアンセスターは槍で俺を激しく突いてくる。明らかに機械っぽい見た目をしてるくせに感情あるのかよ。

 突き出された槍を直撃寸前でギリギリ交わし続けるがついに限界が訪れる。槍を避けられなかった俺は盾で防ごうとするがそのまま凄まじい力で吹き飛ばされる。


「うぐっ!?」


 激しく壁に叩きつけられた俺は全身に凄まじい痛みを感じた。体のあちこちから出血し始めており盾を持っていた左腕に関しては変な方向に曲がっている。その上先程の衝撃で盾が壊れてしまった。

 今の俺はまともに立てず盾で攻撃も防ぐ事すら出来ない状況だ。一応まだ魔法は使えるがこれ以上出来そうな事は無いだろう。

 ちなみに回復魔法もかけてはみたものの少し楽になったような気がするだけであまり状況は変わらなかった。初級回復魔法で回復出来るレベルではないのだろう。

 でもレインが逃げる時間だけはなんとか稼げた。多分俺はここで死ぬがもうそれだけで満足だ。勿論俺だって本音を言えばまだ死にたくは無い。

 もしレインを生贄にしてメタンにボウガンの矢を対処させながら逃げていれば俺は助かったかもしれない。しかしそんな事をするような人間なんて絶対に勇者とは言えないだろう。

 そうなれば偽勇者レナードと何も変わらない。これはあくまで俺の予測に過ぎないが多分レナードはこういう場面になった時に逃げてしまったのではないだろうか。

 それなら俺は間違いなくレナードの運命を変えられたはずだ。少なくてもこの世界では命を犠牲にして他人を守った男として称えられ、レナードが偽勇者と呼ばれる事は無いのだから。


「……三回目とかってあるのかな?」


 もし三回目の人生があるのなら今度こそ長生きしたい。不気味な音を立てながらゆっくりと近づいてくるジェノサイドマシンアンセスターを見ながらぼんやりとそんな事を考えていた。

 雨は激しさを増していて雷も鳴っているため多分このまま放置されていれば勝手に死ぬと思うがあいつはとどめを刺す気満々らしい。


「ん、雷……?」


 全てを諦めかけていた俺だったがその前に一つだけ試したい事が出来た。ジェノサイドマシンアンセスターは電撃呪文が弱点だが雷雲の雷を何とかして直撃させられないだろうか。


「何もしなかったらどうせ死ぬだけなんだから試してやる」


 俺は片手直剣を杖代わりにして無理矢理立ち上がり空に向かって右手をかかげた。そして空に浮かぶ雷雲に向かって一気に魔力を流し始める。

 すると確かな手応えを感じた。こんな事絶対に出来るとは思っていなかったが最後の最後で神は微笑んでくれたようだ。ジェノサイドマシンアンセスターも俺がやろうとしている事に気付いたようだがもう遅い。


「逃すか、トゥルス!初級電撃呪文


 激しい雷がジェノサイドマシンアンセスターに直撃し、黒焦げになって完全に動きを停止させた。俺は勝ったようだ。


「……ざまぁみやがれ」


 そうつぶやいた瞬間意識を失った。

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