バカ野郎、変態具足の授業を受ける
記憶にも残らないような他愛のない会話をしながらコーヒーを丁寧に淹れていると、愛凛澄がシャワーから上がって来た。またセーラー服を着ている。いや、これから登校であることを考えると制服なのかもしれない。
「それ、学校の制服?」
「ええ、そうですよ。セーラー服なんです」
学校指定の制服がセーラー服だったから学校を選んだのだろうな……とレンは推測した。
「愛凛澄さんはコーヒーは?」
「あ、いただきます。昨日のコーヒーですよね。普段はあまり飲まないので楽しみです」
「カップはどれ使えばいいかな?」
「ではこれを」
愛凛澄が適当にマグカップを選んで差し出した。レンは受け取って淹れたコーヒーを注ぐ。天堂地獄のカップにも注いでやり、二人にはコーヒーブレイクを楽しんでもらう。その間、レンは自分も汗を流しに向かった。
「よ、よし、体の洗い方はちゃんと学んだし……覚悟を決めて……」
えいや、とレンが服を脱ぐ。朝に身に着けたブラジャーが鏡に映り、めまいを感じる。慣れたくはないが、装着感にはもう慣れてしまった。鏡に映る姿に慣れるのはいつになるだろう。きっと慣れるべきではないのだろうが……。
下着も脱ぎ捨て、レンが風呂場に入る。微かに湯気が立ち込め、シャンプーとボディーソープの香りがする。愛凛澄が使ったのだろう。ここでついさっきまで愛凛澄が裸で汗を流していたと思うと、ドキドキしてしまう。
「し、しんとーめっきゃくすれば、ひもまたすずし……」
冷たい水で煩悩を払う。この調子ではレンの神経が衰弱する日もそう遠くないだろう。
その前に心頭滅却のために水を被り過ぎて風邪を引くかもしれない。
レンの肉体的健康、精神的健康、どちらを崩すかのチキンレースの始まりだ。
さておいて、レンは軽く体と髪を洗う。ボディソープとシャンプーは愛凛澄と同じものを使っている。どのボディソープが肌に合うとか、どのシャンプーが好きとか全然わからないので、愛凛澄おすすめの品をそのまま使ってみることにしたのだ。
そうして汚れを洗い落し、上がると髪をドライヤーで乾かす。すごく面倒だが、そうしないといけないらしい。なんでそうしないといけないのかレンは知らないが。
「ふぅ。天堂地獄はお風呂使う?」
「椿油で手入れしてくれればそれでよい」
「あとでね……」
リビングに戻ってくると、食卓には朝食が準備されていた。
「レンさんは雑穀ごはんって大丈夫ですか?」
「ぜんぜん平気。わー、アスリートごはんって感じだね」
雑穀米に味噌汁、ハムエッグにひじきの煮物、ヨーグルト、バナナと言った取り合わせだ。
朝からボリュームもたっぷりだ。愛凛澄は細身の体躯だが、細く絞り込んだ筋肉と、体脂肪のバランスが整った理想的な体型と言える。それを作るため、食事には結構な気を使っているのだろう。
「昨日、好き勝手に食べちゃってたけど大丈夫だったの?」
「夕飯は好きなものを食べるようにしてるんです。朝とお昼は整えますけど。整えた食事ばっかりだと気が滅入っちゃいますから」
「そうなんだ。じゃあ、夕飯とか準備してても大丈夫かな?」
「レンさん、お料理出来るんですか?」
「うん。俺も栄養バランスとかは考えてたし……お金なくて無理だった時も多いけど」
言いながら食卓に着く。コーヒーよりもお茶の方がよかったかなー、などと思いつつ。
「それではいただきましょう」
「うん、いただきます」
天堂地獄は食べないらしく、コーヒーを飲んでいる。というか、レンが自分の分と思って淹れていた分まで飲んでいる。二杯目、あるいは三杯目のようだ。
食事は静かに進んでいく。愛凛澄は食事中は喋らない性質のようだ。レンも食事中はあまり喋らないので苦にはならないが。天堂地獄は気を遣ってか、喋りかけることもない。
食事を終えると愛凛澄は弁当の用意をする。雑穀米のおにぎりに、おかずを詰めた弁当箱、そしてプロテイン。女子高生らしさがプロテインで消し飛ぶ。
「では、行って来ます。冷蔵庫の中の食材は好きに使ってください。帰りは四時過ぎくらいになります」
「うん、分かった。気をつけてね。いってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
愛凛澄はセーラー服のスカートを颯爽と翻して家を出て行った。
学校ではどんなふうに過ごしているのか、まるで予想がつかないな……などと思いつつ、レンは中に戻った。
「それにしても、ヤツカハギのエージェントにうんぬん……って話だったけど、今のところそう言う話、ぜんぜんないなぁ」
「仕方あるまい。裏界隈の仕事は実地でなくてはならん場合の方が多い」
「そうなの?」
「うむ。特に、愛凛澄は見たところ異能者ではないからな」
「え? じゃあ、なんなの?」
「見たままよ。あれは純粋に剣士よな。異能関連と言っても、相手は幽霊と言うわけではない。実体化した妖魔の類は刀で応じることも可能よ。ヤツカハギのエージェントとしての仕事は、そう言った妖魔の退治になるであろうな」
「妖怪退治かぁ……」
「術士の類であれば、鎮魂であるとか地鎮と言ったような仕事もあるのであろうがな。日ノ本の術士はその手のものは得手であるから、おそらくは荒事の方の人員が求められていよう」
「ふーん。じゃあ、そう言う仕事が回って来たら、愛凛澄さんについて行って教えてもらうってことになるのかな?」
「おそらくは」
「なるほど……戦いか……あんまり得意じゃないけど……でも、頑張らないと」
「ふふん、それにあたって、吾の力を説明しなくてはなるまいな!」
ふんす、と天堂地獄が胸を張って言う。
「えーと?」
「ええい! そなたは吾を纏って戦うのだぞ! 吾の力を知らずしてどうする!」
「ああ、そっか」
そう言えば天堂地獄は鎧だったとレンが空っとぼけたことを思う。鎧だと自己主張してはいるが、鳥だったり人間の姿をしていたりで鎧姿を殆ど見ていないのだ。
「じゃあ、話を聞かせてもらえる?」
「ふふん、よいぞ!」
鼻高々な調子で天堂地獄は語り出す。
「まず、基本中の基本よ。吾は空中戦にも当然対応している」
「へー」
「なんだその気のない返事は! 吾を褒め称えぬか! 天堂地獄可愛いって言え!」
「天堂地獄かわいい!」
「よし!」
めんどくさいことこの上ない。
「さて、空中戦に対応しているとは言ったが、そもそもそなたに空中戦をさせようというつもりがそもない。あれはかなり難しい」
「そうなの?」
「うむ。練習必須であろうな。一朝一夕でどうこうなるものではない。なので、吾が十分に技能を得たと判断するまでは使用制限を加える」
「うん、分かった」
「加えて言えば、吾の航行主機は燃料を必要とせぬが、その分だけ熱量を使う。使い過ぎれば枯死するであろうな」
「うう、おっかない」
「そして、それは吾を纏うことそのものがそうよ。吾を稼働させるだけでも熱量を浪費するのだ。それを思えば、出来得る限りは吾に頼らぬがそなたにとっては吉であろう?」
「それはまぁ、そうだね」
消費する熱量。これに関しては天堂地獄は何ひとつ嘘を言っていない。
天堂地獄を纏うだけでもおよそ一時間当たり八千キロカロリーもの熱量を消費する。
天堂地獄には倍力機構、パワーアシスト機構が備わっている。備わっていなければ装備しただけで動けなくなる。天堂地獄は自重だけでおよそ八十キロほどあり、完全装備状態では百十キロもの重量となる。そんなものを纏って動き回るのは至難の業だ。
直立状態を維持するだけでも倍力機構は作動しており、それが一時間当たり八千キロカロリーの消費となるのだ。
そして、最も燃費のいい第七航行主機を用いての経済航行でも一時間当たり四万キロカロリーは必要であり、第二、第四航行主機を用いた戦闘機動を行えば五分で三百万キロカロリーもの莫大な熱量を消費することとなるのだ。
「ちなみにだが、そなたに渡した聖遺物は熱量を使わぬ」
「え? そうなの?」
「うむ。そもそも、熱量を消費するのは吾くらいであろうからな」
「へー。そうなんだ。なんで?」
「他の奴らは魔力だの生命力を使うからだ」
「あ、なるほど……って言うか、魔力なんてあるんだ」
「ある。魔法使いも無論いるぞ?」
「いるんだ……」
知らなかった世界の裏側がぽんぽん暴露されている。
「ちなみに吾は生命力も消費できる。流行りのハイブリットよ」
「生命力とカロリーのハイブリットって聞いた事ない」
「当然、吾がパイオニアよ」
「そう……」
「ぬぅ! なんだその返事は! 吾を崇めぬか! 天堂地獄すごいって言え!」
「天堂地獄すごい!」
「よし!」
ほんとうにめんどくさい。
「さて、そんなわけであるから、吾を纏うのは非常事態。そなたは吾に搭載されておる聖遺物を使うがよい。それならば熱量消費はないからな」
「うん、わかった。あれ、でも、火事を鎮めた時に熱量を消費したのは?」
「機能限定状態であれば使わぬのだ。あれほどの超広域高密度利用は搭載聖遺物単体では不可能。吾による管制と熱量消費によって為し得る奇跡なのだ」
「なるほど」
「さて、吾には七十七の聖遺物が搭載されておる。全て教えるのでよく聞け」
「ノート買っておけばよかったかな……」
「頭に叩き込め。よいか、まずは二尾針よ。これは付け爪型の聖遺物でな。爪そのものが毒素の塊よ。刺されれば一時間と保たずに死に至る。解毒は不可能よ」
「うっかり自分に刺したりしたらどうするのそれ」
「解毒用の解毒丸が……」
「解毒は不可能ってなんだったの」
「やかましい! くだらん茶々を入れるな! 解毒丸以外では出来んのだ! わかれ! わかったか! わかったなら天堂地獄かわいいって言え!」
「天堂地獄かわいい」
「よし!」
色んな意味でめんどくさい授業は始まったばかりだ。
昼食をはさみ、授業は続く。七十七とか言っていたが、どう考えてもそれ以上にある。
突っ込んでみると、搭載されているのは七十七だが、単に積載しているものもあるし、消耗品型は新しくも作れると言われてしまった。解毒丸なる代物も聖遺物であるらしい。いわく、どんな毒でも解毒できるので聖遺物と言っても過言ではないとか。
「して、黒渦星は常に吾の航行を支えているが、本来は攻撃用の聖遺物ゆえ、臨界出力で使えば負の空間を創り出し、光すらも脱出不能な……」
そこまで言ったところで、天堂地獄がふと窓の方を見やった。
その先にはベランダがあり、ひらひらと風に揺れる洗濯物の隙間から夕陽が見えた。愛凛澄の下着が目に入って非常に申し訳ない気分になってレンが目を逸らす。
「なにかおかしい」
「なにかって、なにが?」
「しばし待て。吾の金打波探信で探る」
言って、天堂地獄がベランダの方角を凝視する。
「……愛凛澄だな。襲われておる。銃火器で武装した男が二十人ばかり……他にもいるようだが、周囲に人が多過ぎて探り切れぬ。遠過ぎるのだ、そもそも」
「えっ、それってまずくない!?」
「まぁ、まずい。距離は四里と言ったところか。走っても二十分はかかるな」
四里、キロメートルに直せばおよそ十六キロメートル。天堂地獄の言葉通り、どれほど急いでも二十分はかかる。移動手段があれば別だが、そんなものの持ち合わせはなかった。
しかし、レンにはそんなものを遥かに超越する移動手段が存在する。
「……天堂地獄! いこう!」
「いこうとは、どうやってだ?」
「天堂地獄は飛翔できるんだよね。空中戦はしない。一直線に水平飛行をするだけ! それなら出来る! 違う?」
「まぁ、推力で吹き飛ぶだけであるから出来はしようが……しかし、吾の航行主機による航行は莫大な熱量を消費する。そなたが蓄えた熱量は少ない。全て消費し尽くしてしまうぞ?」
「そんなの関係ないね」
レンは断言した。
そう、そんなものは関係ない。
いま、愛凛澄が危機に陥っている。
それを助けるために、何が必要だとか、何を失うだとか、そんなものは論ずるにも値しない。助けたいから助ける。ただそれだけの単純な話だ。レンがそうしたいからそうするのだ。そこに生じる一切の不利益は最初から全て勘定済みなのだ。たとえそれが、レンの死と言う結果であったとしても、だ。
「俺は昔からそう言う馬鹿だった。大馬鹿野郎だってずっと言われてた。でも、俺はそれでいいと思う。いや、それがいい」
馬鹿だ莫迦だと好き放題言われようと、そう言う馬鹿である自分が好きなのだ。好きでたまらないのだ。だからこうやって今も生きている。
たとえどれだけ無様であったとしても、生きたくて生きている。だからきっと、生きている人間は自分が大好きなのだとレンは信じている。であるからして、必然的に自分も自分のことが大好きなのだ。
「むかし、近所の柔道を教えてるところに通うようになった」
「ほう?」
唐突な昔を回顧する言葉に天堂地獄が眉根を上げて興味を示す。
「先生は俺に弟子としての礼儀を教えると同時に、新入りとしての仕事を与えた。道場に来たら、真っ先に打ち水をしておくこと。夏は涼しくなるし、冬は土埃が舞わなくなるから」
「古式ゆかしいやり方よな」
「俺は毎日水を撒いたよ。暑い日も、寒い日も、雨の日も、雪の日も」
「いや、雨の日はいらんであろう」
「でも、先生は毎日打ち水をしろって言ったんだ。だから、俺は毎日水を撒いた」
あまりにも馬鹿正直な真似に、兄弟子たちはみなレンを嘲った。その程度のことも分からんのかと。そして兄弟子たちは先生に滾々と説教をされた。
その姿こそが、その愚直に毎日水を撒き続ける姿こそが、最も正しいのだと。ただ愚直に一直線に、どう状況が変わろうとも貫き通すことこそが、最も大切なのだと、先生はそう言ったのだ。手前勝手にやめようなどとはせず、言われたことを貫き通し続ける姿勢こそが、武において最も大切なのだと。
「自分でも馬鹿なことやってるとは思ってたんだ。でも、先生は毎日やれって言ったから毎日やった。そうしたら、そう言う馬鹿でいいんだって先生は教えてくれた」
正しいと褒められたから馬鹿でいようとしたのではない。レンはただ、そう言うやり方もあるのだと教えられたから馬鹿を貫き通そうと思ったのだ。
馬鹿正直に言われたことをやり続けることも、自分で考えてよりよい方法を模索することも、全ては自分で決めてよいのだと言われた。兄弟子たちも、新入りだった時に打ち水を毎日しろと言われてきた。そしてみな雨の日は撒かなかった。先生はそれを咎めたことはなかった。レンが雨の日でも打ち水をする馬鹿をやって、それが嘲られて初めて兄弟子たちを叱った。
そう言う馬鹿でもいいし、そうでなくてもいい。雨の日には打ち水をしない賢い奴がいてもいいし、雨の日に打ち水をする馬鹿がいてもいい。レンはそっちの方がいいと思った。ただやると決めたことを一直線につらぬく馬鹿でいたいと。
「俺は俺がやると決めたことをやる。だから愛凛澄さんを助けたい」
燃え盛る直球馬鹿の瞳が天堂地獄を射抜いた。
天堂地獄はその視線を受けて笑った。
「何ゆえにそうまでして愛凛澄に肩入れをする? 惚れたか?」
にやにやとした笑みを浮かべ、しかし、その瞳に冷笑を乗せ、天堂地獄が問う。
問われて、レンがきょとんとした顔をすると、首を振った。
「いや、だって、助けられるなら助けるでしょ、普通」
その返答に天堂地獄はさすがにあっけに取られた。
まさか、出来るからやるというだけの理由だとは思いもしなかったのだ。
それほどまでの……底抜けの馬鹿など、いるわけがないと思っていたのだ。
こみ上げる笑いに逆らえず、いや、逆らうつもりにもなれず、天堂地獄は呵々大笑した。
腹がよじ切れそうだった。底抜けかつ天まで届く大馬鹿野郎がいると知って、笑いを堪えることなど不可能だったし、とにかく笑い飛ばしたかった。こんな大馬鹿野郎がいる。そして、その大馬鹿野郎が今の自分の使い手なのだ。
「はっはっはっは……ははははは! ば、ば、馬鹿だ……! こ、こやつ、本物の馬鹿よの……ば、馬鹿で、底抜けよな……! ぶふっ、くっ、くくぅ……!」
「……そんな笑わなくてもいいじゃん」
目の前で爆笑されたレンはさすがに憮然とする。
そして、天堂地獄は一通り笑うと、表情を引き締めて再度問いかけた。
「レンよ。もし、吾がそなたに危険があるゆえ、吾は手伝わぬと言えばどうする?」
「愛凛澄さんを助けるのが間に合わないかもしれない」
問いへの即答は一段飛ばしたもので、しかし、そうであるが故によく分かった。
「助けに往くことは規定事項か。よい、よいぞ。そなたの大馬鹿っぷりに免じよう。参るぞ」
天堂地獄が手を差し伸べ、レンがその手を取る。
そして、天堂地獄がほどけた。
宙を舞う鉄片。二度目のその光景を感じながら、レンは装甲されて行く純白の鎧を感じる。
不思議な感触だった。まるで、装甲にまで血が通い、神経が通っているかのように思える。
鎧を纏っているのではなく、体が大きくなったのではないかと錯覚しそうだ。
純白の鎧武者が瞬く間に作り上げられていく。
生ける鎧、天堂地獄。天才鍛冶師にして魔道具師であった美濃慎吾郎貞好作、天堂地獄。それはこの天堂と地獄の狭間に凛然たる立ち姿を示した。
『レンよ。そなたに出来るのは水平飛行のみ。一直線に目的地点まで飛翔し、そのまま強行降下を行う。その後の戦闘はそなた次第よ。しかし、熱量を使い過ぎれば死ぬ。それはゆめ忘れるな。佩刀を用いよ。それは極めて頑健なだけの刀よ。熱量の浪費はない。吾の倍力機構は使うことになるがな』
「うん。剣術は習ったことないなんて言ってられない。行こう!」
『参るぞ! 気を張れ!』
天堂地獄の背に装備された航行主機が激しい吸気音を鳴らす。
天堂地獄の八連装航行主機は速度域によって使い分けが為される。そのうち、第二、第四航行主機が激しいうなりを上げる。そして、航行主機にて焔が煮え爆ぜた。瞬間、レンは背中を殴りつけられたかのような凄まじい衝撃を感じて前方へと飛翔する。
砕けたガラス片が舞い散り、きらきらと光が散乱した。
音の壁へと迫るほどの速度。びりびりとビルのガラスが震動した。第二、第四航行主機の激しい吸気、そして排気。世界に響き渡るその音は、天堂地獄の歓喜の声であるかのように。
十六キロメートルにも及ぶ距離を天堂地獄は瞬く間に喰らい尽す。一分に届くかどうか。それほどの速度で以って天堂地獄は探知した地点へと到達し、その勢いのままに強行着陸を行った。
砕け散るアスファルトの舗装。舞う砂埃。その中にあって、なおも美しく在るのは純白の鋼。
美濃慎吾郎貞好が遺作、天堂地獄。ここに推参せり。
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