第9話 たぬき、里に下りる。
こりゃええわい!
たぬきはもう、絶好調です。
「きゅう~♪」
「おおおお……たぬき、もしや飛ぶの上手くなってない?」
コタツのあとについて、どんどん空を飛びます。
かなり飛ぶのも上達してきて、もうコタツの故郷である山まではあとわずか!
というところで、たぬきに異変がおきました。
「……あら?」
なんだか、どんどん高度が下がっておりますが。
っていうか、しゅっとしていた身体が、もこもこムニムニに戻って……いるような……あわわわわ!
「きゅい?」
「わー、たぬきはもうだめですー!」
おっこちる、おっこちる。
毛皮からしゅーんと力が抜けていくのをかんじます。
竜に化けていた(ぶかっこうでも、竜は竜です)はずが、みるみるたぬきの姿にもどってしまいました。もう飛べません。たぬきは、空を飛ばないからです。
化けぢからを、使い切ってしまったのかも。
いつもならば、どこからともなく現れる大きな葉っぱも見当たりません。
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。
たぬきの活躍はここまでのようです──。
「きゅ~いっ!」
あらま?
たぬきの落下が止まりました。何事かしら。
お尻の下が、ひんやりと気持ちいい気がします。
「わ、コタツ!」
なんと、ちょっと大きく成長して空を飛べるようになったコタツが、たぬきを背中で受け止めてくれたのです。ないすきゃっち、です。
コタツはどんどん速度をあげて、コタツの故郷の山へと飛んでいきます。【御神酒徳利】から出てくる酒を飲んでから、コタツはすっかり立派になりました。
あ、そういえば。
たぬきが【御神酒徳利】から出てくる酒でへべれけになってから、それなりに時間が経っています。すっかり酔いも醒めちゃったし。
もしかして、酔っている間はたぬきの化けぢからが上がっているということでしょうか。なるほど、
コタツはもともと
やがて目下に、なにやら大きな街が見えてきました。おお、あれはまさしく人里。
コタツの背中にのって、すいすい飛びます。
なんて爽快! なんて絶景!
……たぬきは、どうやら飛ぶのが下手だったみたいです。
「ひょっとしてコタツ、たぬきに飛ぶ調子を合わせてくれてたのね?」
「きゅうっ」
ああ、なんたる心遣いでしょう。
たぬきはたいへん、感心しております。
「あ。たぬきは、あのへんに降りようとおもいます」
「きゅう……」
人里からほどよく遠い場所を指差すと、コタツが切なそうに喉を鳴らしながら高度を下げていきます。
降り立った場所は、小高い里山でした。
たぬきはこういう場所が、住むには最適だと思っています。ここには住まないですけどね。
「コタツ、ありがとうございますよ。達者でね」
「きゅう~」
「もう風に飛ばされたりしないようにね」
「きゅううう~」
名残惜しげにじゃれついてくるコタツを撫でてあげます。
短い旅路でしたが、旅は道連れ世は情け……なんだか昔からのお友達だったような気がしてしまいます。たぬきのほうを振り返り振り返り、山に飛んでいくコタツの背を見送ります。
あんなに弱っていたのに、堂々たる飛び姿。よきかな、よきかな。
「ふわ~」
安心したら、あくびがでてきました。
たぬきは、手近な木のうろを探して、ころんと横になります。何も匂いがしないので、先住のけものはいないみたいです。
……そういえば、この世界にきてからゆっくりぐっすり眠るのは初めてかもしれません。空には、やっぱり二つのお月様。どの世界に居ても、眠くなるし腹は減るのだなぁ。
──……ぐう。ぐう。
たぬきが寝ていると、何やら騒がしい声が聞こえてきました。
こりゃ、人間です。しかも、人間の群です。
たぬきは、寝床から顔をだしました。
わ、人間だ。こっち見てる。なにしてるんでしょう。
たぬきは、じーーーーっと人間をみつめます。興味津々なので。
あ、もちろん、この興味津々のせいで、一つ目のオートバイに跳ね飛ばされてしまったことは忘れていませんけれども仕方がないのです。
たぬきは、いちど興味がわいたら、じーっと見つめて動けなくなってしまう生き物なのです。
人間の数は、いち、に、さん……四人です。
ひとりは身なりが良くて、見てくれもいい。他の人間は彼の手下かしら。
「っ、いたぞ!」
たぬきを見つけた、めざとい人間が叫びます。
わあ、こっちを指差してる! 大きい声!
びくっ! とたぬきは驚いて、木のうろからコロコロりんと転げてしまいました。
「見ろ。どの動物にも似ていないぞ」
「ああ、古代から伝わる図鑑にも載っていない」
「ではやはりあれが……神域の森に降臨するという……伝説の神獣!」
伝説の、神獣?
それ、たぬきのことですか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます