第7話 たぬき、酔っ払う

 山の中を、狼の群れが駆けていきます。

 すんすんと鼻をひくつかせて、獲物を探している飢えた狼──。

 でも、今のたぬきは、肉食の皆様に怯えるだけのたぬきではありません。


「がおっ!!」


 たぬきは、隠れていた茂みから飛び出しました。

 ──とっても強そうな、巨大な獅子の姿で。


 大きくて、鋭い牙、ムキムキの身体!

 しっぽだけ、なんだかたぬきのままのような気がしますが。


 森の中には、危険で強そうな生き物がたくさんいるのです。

 そのたびに、たぬきは「化け」で対抗してきたわけですが……もしかして、たぬき、変化へんげの才能あるのかしら。どんどん、色々なものに上手に化けられるようになってきたわけです。


 犬、トラ、獅子……とにかく、たぬきが怖いものに化けて化けて、化けまくり。

 というわけで、狼たちもなんのその。

 強くて大きな獅子に化けて、たぬきは「グルルゥ……」と精一杯低く唸りました。


「きゃんっ!?」


 その甲斐あって。

 狼たちが、たぬきの姿を見て一目散に逃げ出します。

 わはは。やったね、たぬきの勝ち。勝利の遠吠え。


「コタツ、もう大丈夫です」


 木陰に隠れていたコタツに声をかけて、ぼふぅん!と煙をあげて、姿をもどします。不思議なことに、変化の間は背中の瓢箪徳利も姿を消してくれるみたい。


「んきゅうぅぅ~!」


 コタツは、つぶらな瞳をキラキラさせています。

 この数日で、かなりコタツからの尊敬をえているたぬきです。えっへん。




 引き続き、たぬきは、コタツを連れて山道をゆきます。

 ぽててて、とちょっと早足で歩いては、やれやれ……と休憩。この繰り返しで、ずんずん進んでいきます。


 コタツは、たいへんな腹減らしのようです。

 三時間も歩くと、お腹が空いてしまうのです。

 そのたびに、たぬきは食べられる木の実を探して、コタツと分け合いました。

 朗報ですが、この世界の木の実もかなり美味しいです。


 そりゃあ、人間たちの食べかけのマクドナルドやケンタッキーのほうがおいしいけど、人里に降りるまで、しばしの我慢です。

 たぬきの住んでいた小田急沿線は、人間の出すゴミすらちょっと高級でおいしいと、関東狸連合でも話題になることがしばしばでした。

 ところで、この世界にも、マクドナルドやケンタッキーはあるのでしょうか。

 あったらいいなぁ。ナゲットだいすき。


「きゅ、きゅう~!」

「またお酒が飲みたいんですか?」


 コタツが、たぬきの背負っている【御神酒徳利】にじゃれついてきます。

 よいしょ、と瓢箪を降ろして、栓を抜きます。


「盃があれば、一緒にわけあえるのに……」


 ふと、たぬきは思いつきました。

 そのへんに落ちている葉っぱを二枚拾ってきます。

 ──たぬきは「むむん!」と念じました。


 どろん!!


「おおっ」


 二枚の木の葉が、かわいい盃になりました。

 どうやら、たぬきってば自分が変化へんげするだけではなく、モノを化けさせることもできるようになってしまったみたいです。


「さあ、どうぞ」

「きゅいっきゅいっ」


 【御神酒徳利】から盃に、お酌をしてさしあげます。

 なるほど、ほんのり黄色みのあるいい色です。

 黄金色というか……光り輝いているというか……。

 コタツは、うまそうに酒を飲んで……あら、なんだか出会った頃よりも一回り大きくなっているような?


 竜の子は成長が早いのかしら?

 喜んで、かぱかぱと盃をあけるコタツにつられて、たぬきのペースもあがっていきます。


 ふぁ~、たぬきは気分がよくなってきました。



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