第6話 たぬき、ちっちゃい竜を助ける
「食べますか?」
たぬきは
もちろん、たぬきもお腹が空いていますけれど、さすがに独り占めしてやるような気持ちにはなれませんでした。
「きゅうっ!」
竜──というには、小さい空を、たぬきは「コタツ」と名付けることにしました。何故って、たぬきとほとんど同じ大きさなのです。
頭にぴょこんと生えた小さなシカのような角が、とっても特徴的です。
長さはだいたい、そうですね、人間が使っている尺でいえば、体長60センチくらいでしょうか。細長いですが小さな手足が生えていますし、蛇ではなさそう。
よかったです。たぬきは、ちょっと蛇はこわいので。
コタツは、たぬきの差し出した柿もどきを丸呑みしました。
ガッパァと口を大きく開いて、丸呑みです。
信じられないくらいに大きく口が開きました。そのまま割けちゃうんじゃないかしら、とたぬきはちょっとハラハラします。
ゆっくりと丸呑みされた柿もどきは、実の形を保ったままでコタツの細長い身体の中に入っていきます。
わあ。どうなってるのかしら、これ。
以前、蛇が森に落ちていた何かのタマゴを丸呑みにしているのを見たことがありますが、何度見てもふしぎです。
「きゅ……ぅ~……」
食べ終わってもなお、なんだか元気がなさそうなコタツです。
口を開けて、ぱくぱくと何か物欲しそうなご様子。
たぬきが、前足の先でちょいちょいと頭を触ってみても、コタツはしょんぼり
「まだお腹がすいてる?」
「きゅう~」
コタツが首を横に振ります。
違ったみたいです。
「じゃあ、のどがかわいている?」
「きゅう!」
的中です。
とはいえ、周囲に湧き水もないし、川なんかもありません。困りました。
「……あっ!」
そうだった。
たぬきは閃きました。
よいしょ、よいしょ、と背中の【神器:御神酒徳利】を地面に降ろして、栓をぬきました。たぬきの前足は、あまり器用ではないのだけれど、どうにかなりました!
「どうぞ、どうぞ」
ひょうたんの中には、たっぷりと飲み水が入っていました。
これならばコタツの喉の渇きを潤すくらい、わけないでしょう。
飲んでも飲んでもなくならない、不思議なひょうたん徳利。これはいいものを神様から賜りました。さすがのエネルギー効率がよいたぬきも、飲まず食わずはきびしいのです。
徳利から流れ出る甘露をコタツも喜んで飲んでいます。
「きゅうぅ~い♪」
「それにしても、竜ともなれば、たぬきの喋っていることがわかるかもと思いましたけれど……」
「きゅう?」
「まだ子どもなのかしら」
たぬきの想像している竜よりも、だいぶ小さいですし。
「でも、たぬきが言っていることは、コタツに通じてますよね」
「きゅ~う」
こくこく、とコタツが頷きました。
あ、通じてる、通じてる。
「コタツは、どうしてここに? 迷子になってしまったのですか?」
「きゅいぅ……」
コタツとお話をするに、どうやら迷子というよりは行き倒れのような状況のようでした。にょろにょろと空をお散歩していたコタツは、強く吹いた大風に煽られて、この森まで吹き飛ばされてしまったのだとか。
ずいぶん遠くまで飛ばされてしまったコタツは、帰るに帰れずに行き倒れ寸前だったらしいのです。かわいそうに……。
「あっちに見える山ですか?」
「きゅい!」
遠くに見える、高い山。
コタツはそこから飛ばされてきたのだとか。
わあ、この子が帰るのは無理がありそうです。
「ちなみに、コタツの帰るほに、人間が住む里はあります?」
「きゅい!」
コタツが、にょろにょろの身体を駆使して、「たくさんいる!」みたいな動きをします。
「おお!」
たぬきは、たいへん喜びました。
なんでって、たぬきはたしかに森の生き物ですが、人間のいる里の近くの山で長いこと暮らしてきました。お父ちゃんの、お父ちゃんの、そのまたお父ちゃんの……とにかく、ずーっと昔からです。
たぬきは、人間がちょっとはいるところのほうが過ごしやすいのです。
というわけで、たぬきはコタツと話し合いました。
「では、コタツさん! たぬきと一緒に、おうちに帰りましょう!」
「きゅーい!」
すっかり元気を取り戻したコタツが、ふわりと浮き上がりました。さっきまで地面を這っていたのに、とても元気になったようです。たぬきの柿とお酒をわけてあげた甲斐があるというものです。
たぬきは、ちょっとくらいだったらお腹が空いたのを我慢できますので。
ちょっとくらいだったら……!
コタツは、まるでお魚が泳ぐように、たぬきのまわりをニョロニョロと飛び回ります。さっきのたぬきの、かっこ悪いぷかぷか飛行とはえらい違いです。
うーん、つぎに化けるときには、もっと上手にできるといいなぁ。
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