第2話 たぬき、神様に会う
「はわっ!」
たぬきは、飛び起きました。
さっきオートバイに吹っ飛ばされたと思ったけれど、もしかしたら悪い夢かしら?
「おお、目覚めたかえ」
「どなた?」
いきなり声をかけられて、たぬきはびっくりしてしまいました。
これは女の人の声です。
声のしたほうを見ると、なんとも神々しいお姿が。
立派な冠に、しゃんと糊のきいた袴。引きずるほどに長ぁい羽衣をお召しです。
「おほほ、可愛い可愛い。これが最近のたぬきか。見た目はほとんど変わらんの」
「あわわわ」
「わしは……そうじゃな、神様じゃ。くるしゅうないぞ、こっちへおいで」
抱き上げられて、たぬきは困ってしまいました。
それにしても、さすが神様。
不思議なことに、たぬきの言葉が通じます。
周りの様子をうかがうと、地面が真っ白くてふわふわで、まるで雲みたいだということに気がつきました。これは尋常ではありません。
神様のうしろには見たこともないほど大きなお月様が輝いています。
たぬきは、にわかに怖くなってきてしまいました。
「神様が、たぬきをどうするつもりですか」
「悪いようにはせんよ、おぬしを轢いた男が感心な男でな『神様仏様、やっちゃいました。たぬきさんごめんなさい』と手厚く供養しておってな」
「いいひとだ」
「わしも近頃はヌッコやイッヌに夢中での。ひさしくタッヌをモフっていなかったゆえ、神様代表としておぬしを寄せてみたのじゃよ」
なんということ。
ねこさんやいぬさんは、神様とも人間ともなかよしですごいなぁ。
「ほれ、ちょいと吸わせておくれ」
「きゃー!」
神様が、たぬきのお腹に顔を埋めます。
きゃあ、くすぐったい。
「んっふふ、獣くちゃいのぅ~」
「えーん、おへんたいっ!」
たぬきはこういうの慣れていないので、じたばた暴れざるをえません。
ねこさんやいぬさんは、こういうのに慣れっこなのでしょうか。
やっとこ解放されたときには、たぬきはもうぐったりでした。
「ふふふ、屋島太三郎たぬき以来のタッヌであった」
「ええっ、太三郎!」
たぬきは、とってもびっくりしました。
屋島太三郎さまといえば、遠く四国にいらっしゃった、とっても偉い大狸様です。とっても長生きをされ、たくさんのイタズラと、たくさんの徳をつまれて、すえにはなんと大明神になられた、すごいご先祖様です。
「今では同僚になってしもうたが、あれに神通力を与えたのはわしじゃよ」
「なんと。すごい神様だ」
「うむうむ。あがめ奉れよ」
「ははー!」
たぬきがナムナムと神様をおがむと、「うはー、可愛いのう可愛いのう」と神様は大喜びです。わるい神様ではなさそうで、たぬきは安心しました。たぬきの短いしっぽをモフモフしてくるのは、ちょっとやだですけど。
「んっふふ。ということで、おぬしはラッキーたぬきじゃ」
「ラッキーたぬき」
「おぬしには、ワクワク転生ライフをおくってもらう」
「転生。それはあれですか、ほとけ様の教えですか」
「いや、そっちじゃなくてな」
神様が、たぬきにご説明くださいます。
たぬきはこれから別の世界で生きていくそうです。そして、その世界でたくさん可愛がられて、たくさん活躍する姿を神様にお見せするのがたぬきのお仕事だそうです……たぬきに、できるのかしら。そんなすごいことが。
「心配することはないぞよ、たぬきや。欲しいものはなんでもあげよう」
「ドングリもですか?」
「は、ドングリ?」
「たぬきは、ドングリが欲しいです」
たぬきが聞くと、神様は大笑いして手を叩きました。
そうすると、たくさんのどんぐりがたぬきの前に落ちてきます。おいしそう。
ポリポリ、カリカリ。
どんぐりを山ほど食べてお腹いっぱいになったころ、神様にぽんぽんと頭を撫でられました。
「んふふ、ほんに可愛いのう……よしよし。お前が困らぬようにしておいてやるから、安心しなさい」
なにがなにやら、たぬきにはよくわかりません。
よくわかりませんが、神様がそうおっしゃるのなら大丈夫そうかも。
……ああ、なんだか眠くなってきました。
たぬきはお腹いっぱいなので。
「おぬし、”化け”はできるかえ?」
「ふわ……すこぉしだけ……」
ご先祖様ほど、上手に化けることはできませんけど。
「そうか、そうか。では、あちらでも達者でな」
神様が何かおまじないをしていらっしゃるようですが、たぬきはもう眠いので、ごろんと横になりました。
「おや、もう寝ておるのかえ。たぬき寝入りか?」
「ぷぅ……ぷぅ……」
「あ、本格的に寝ておるのね。自由で可愛いのう」
何か聞こえる気がしますが、どっこい、たぬきは夢の中です。
……あれ、もしかして、いま見ているのが夢なのかしら?
ふと、そんなことを考えましたが、気にせずに眠ることにしました。
たぬきにはむつかしいことはよくわかりませんので。
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