第4話 たぬき、森をぶらつく

 ぽてぽて、ぽてぽて。

 たぬきは周囲を見て回りながら歩きます。

 空に白いお月様がふたつ浮かんでいるのを見るにつけ、「ああ、たぬきは知らない土地に来てしまった」と空恐ろしい気持ちになります。


 でも、月のほかは、たぬきの知っている森とあまり変わらないみたいです。

 森のどこかから、聞いたことのない動物の鳴き声が聞こえてくるほかは、何か危険そうなこともありません。


 背中の御神酒徳利は、驚くほどに軽いです。

 というよりも、「本当に背負っているのかしら?」と疑ってしまうほどです。神器だというから、不思議なこと起きるでしょうが。


 喉が渇いたので、御神酒徳利を降ろして栓をきゅぽんと抜いてみます。

 すると、中からお酒みたいに甘露で冷たくて美味しいお水が出てきました。

 しかも、お水はあとからあとから沸いてくるようで、好きなだけ飲んでも徳利が空になることがないようです。なんて嬉しいことでしょう。

 

ごくごくとお水をいただいて満足すると、たぬきはご機嫌に歩きだします。


 さて、すこし歩いていると、困ったことが起きました。

 今度は、お腹がへってきてしまったのです。


 どんぐりをお腹いっぱいに食べたのは、やっぱり夢の世界のことでした。

 たぬきはちょっぴりの食べ物で長いこと動くことができますが、お腹が空かないわけではないのです。


 一本の木を、たぬきは見つけました。

 夕焼けみたいなだいだい色の木の実が、たわわに実っています。


 困ったことがあるとすれば、柿にそっくりな美味しそうな果物が、ひとつも地べたに落ちていないことです。

 ああ、どうしましょう。

 たぬきは、木登りが得意ではないのです。


 いえいえ。

 もちろん、たぬきだって山に暮らす者。

 木に登るくらい、ちょちょいのちょいです。

 ただ、なんといいますか……木から降りられなくなることが、時折あるのです。ほんとに、ときどきなのです。


「うーん、我慢するしかないのかしら」


 小鳥がちゅんちゅんと飛んできて、柿っぽい実を突いています。

 いいなあ、おいしそう。

 そのまま落ちてきたら、たぬきもご相伴にあずかれるのに……。


 あーあ、たぬきに羽根が生えていたらなあ。

 なんて。羨ましい気持ちで眺めていると。


 はらりはらり、と小鳥がたわむれに千切った木の葉が舞い落ちてきます。

 さっき、御神酒徳利がたぬきの頭をゴツンと直撃したときのように。


「そういえば……あのおっきな木の葉はどこだったかしら?」


 たぬきがそう思った、そのときです。

 ぽん、と音がして、中空にあの大きな葉っぱが現れました。


 表面には、やっぱり文字が書いてあります。


【スキル・狸の八化け】

 ──あたまにのせろ。「化け学」を極めろ。


 葉っぱを頭に乗せるということかしら。

 たしかに、お父ちゃんに習った「化け学」では頭に葉っぱを乗っけて集中するようにと言われましたけれど……。

 というか、スキルってなに?

 たぬきは、とりあえず言われたとおりにちょいっと葉っぱを頭にのっけます。


 すると、どうでしょう。

 たぬきの身体に、力がみなぎってきました!


「おぉおぉぉ~~! たぬきは、つよくなりました!!」


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