第12話 たぬき、神獣認定される
たぬきはみこどのに、ひとつめのオートバイに跳ね飛ばされてこの世界にやってきたことをお話ししました。一生懸命、お喋りしました。
「左様でございますか……やはり、かの地からいらっしゃったのですね」
たぬきの話を聞きながら、みこどのは目を閉じてしみじみと呟きます。
話が通じるのが嬉しくて、たぬきは思わずもふぅっと毛皮を逆立てます。
「そう。たぬきは違う土地から来ました。たぬきの知ってるお空には、月はひとつしかないので。あと、たぬきのいた山の近くには、おいしいものは火曜日にニンゲンが置いていきます!」
「置いていく、ですか? 捧げ物ということでしょうか」
「ごみのひなので」
「はあ? ごみのひ?」
あんまり話が通じない瞬間もあるのは、ごあいきょーかしら。
たぬきがひとしきり話し終わると、みこどのは大きく頷きました。
「……話はわかりました。皆様、神獣の巫女スセリの名において宣言いたします。このたぬき様は──伝説にある神獣に間違いありません!」
みこどのは、スセリというお名前みたいです。
凜とした、うっとりするような声で宣言すると、エルネストたちが「おおおおっ!」と沸き立ちます。人間たちがみんな、とっても嬉しそう。
「その神獣、聖なる森に神の雫をともないて降臨せん──」
スセリが歌うように言います。
「この背にあるのが、神の
たぬきが背負った瓢箪【御神酒徳利】を見せると、さらに人間たちが沸き立ちました。
「おおおお~!!」
よくわからないけれど、たぬきも拍手しておきます。ぱちぱち。
感極まって、瞳をうるうるとさせている人もいるみたい。
「やはり、あなたが神域の森に降臨するという神獣さま──では、我々はついに悪神に対抗する手段を手に入れたということですか!」
エルネストが拳を固めた。
たぬきは、うーん?と首を傾げます。
「あくしん」
なんじゃ、そりゃ。
たぬきの戸惑いを察したのか、エルネストが喋り始めました。
ずっと思っていたけれど、この人間は身振り手振りが大きいな~とたぬきは思いました。たぬきの手足は短いので、こうはいかんのです。
「……我が一族が守るこの街は、古くから山に守られておりました」
山というのは、街の向こうにあった山脈でしょうか。
たしかに。たぬきの住んでいた里山とは、ひと味もふた味も違う雄大な山でした。
「山向こうからの侵略者を拒む、高く険しい峰々のおかげで街は栄えていたのです──それは街の建立神話まで遡るのです、偉大なる始祖は山の狼に育てられ!!」
エルネストが、ぶんぶん長い手足を振り回しながら演説しています。
なんだか、のってきたみたいです。
たぬきはスセリに抱っこされながら、ふんふんと耳を傾けます。
スセリがそっと、たぬきにスナックを手渡してくれました。どうやら、捧げ物のナッツみたいです。ぽりぽり。
「ですが。この街を守ってくれていたのは、山だけではないのです。そう、これは我々の苦々しい記憶。罪の記録──!」
ナッツを食べながら、エルネストさんの演説を楽しみます。
なんだか、シリアスになってきました。
「……山に棲む悪神に、我らの街エランドは……生贄を捧げておりました」
「いけにえ!」
これは物騒です!
「険しい山と、その山に棲まう悪神。それが外敵を退けてくれることを知っているがために、我々は……無数の、罪なき乙女を……!」
エルネストは、まっすぐにスセリを見つめます。
「そして……今年の生贄は、そのスセリ殿です」
「なんとぉっ!!」
たぬきは、ぴゃっと飛び上がりました。
ゆるすまじ、悪神!!
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