第4話 女の子の望み
家にランドセルを置きに帰ると、渉は先に帰っていたのか、既に部屋にいた。何かを真剣に考えているような、そんな表情だった。
「おう帰ったか……」
「……なに?」
巳継に対して何か言いたそうな渉だったが、「まあいい」とお茶を濁した。
「それより、女の子襲うんじゃねえぞ」
「襲うかぁ!」
おいおっさん。小四に何言ってやがる。
「おいちょっと待て。どこから見てやがった。今日居なかったはずだろ!」
「うるせえ! 帰るときちらっと見えたんだよ! おれが子供の時なんてなあ……」
「なんだよ……」
また小うるさい昔話か。好きだねえ大人は。子供の脳みそには一文字も記憶されないのにクドクドと。
「……そんな思い、したことなかった!」
目頭を押さえながらそんなことを叫ぶ幽霊。
「
「お前なんて学校でオカルト話だけしてればいいんだよ!」
「お前のせいで既にそうなってんだよ!」
巳継はランドセルと置いて部屋を出ようとすると、渉がついてくる。
「ついてくんなよ!」
「なんだよ! 俺も連れてけこの野郎! 暇なんだよ!」
こうやって言い争っても、結局根負けして毎回連れていく事になるのだ。
やはり、幽霊はゴキブリよりもタチが悪い。
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家の前で待ってくれていた佐和と合流し、一緒に佐和の家へと向かう。家がどこにあるのかも知らないからどれだけ歩くかも分からない。校区は結構広いらしいから少し心配だ。
「そういえば加野川くんって、もう怪談には参加しないの?」
「当分しないよ……。先生に怒られたでしょ」
気遣っているのか、佐和が「あはは」と乾いた笑みを浮かべた。
「あれはほら、時間が時間だったからねぇ」
昨日、新体育館に忍び込んだあの日、帰ろうとして体育館を離れたところを豊田先生に見つかったのだ。
結局あの後は豊田先生から個別の事情聴取と説教を食らい、親にも怒られ、今日の全校集会でもやり玉に挙げられてと散々な目に遭った。
もうあんな目に遭ってたまるか。少なくとも今年中は怪談話をしているだけで先生達から嫌みを言われそうだ。
渉の目を盗んで参加したのが良くなかった。渉さえいれば見つかることなんてなかったはずなのに……。悔やんでも悔やみ切れない。
「怪談話以外にも遊びはあるんだから、違う事して遊ぼう」
「よっぽど堪えたんだね」
「……うん、素直に懲りた」
佐和の家は、巳継の家から見て校区の反対側にあった。
もはや隣町まで歩いたのと変わらない。長い距離を歩いて若干疲れたが、佐和の家についたということで疲れが吹き飛んだ。
玄関の前にある小さめの庭は綺麗に手入れされている。雑草もなく、足跡がくっきりと見えた。昨晩も雨が降ったため、土がかなり濡れているのだ。
「入って」
そう言いながら佐和が玄関の扉を開けてくれる。
「お邪魔しまーす」
「お邪魔します」
巳継以外には聞こえないが、挨拶は欠かさない渉と一緒に、佐和の部屋で少し待っていると、佐和が幾つかのアルバムを抱えて部屋に入ってきた。
「お待たせ」
「ううん。なにそれ」
佐和がどさどさと床にそれらを置いて並べた。
「ちょっと見てもらいたくて」
「うん……?」
答えになっていない返答の後、佐和が黙り込んだ。俯いている。
しばらくの間、そのまま佐和は俯いていた。
「……えっとね」
「どうしたの?」
「あのね、お願いがあるの」
そういえば、全校集会の前も何かを言いかけていた。
「何のお願い?」
「……お父さんが居なくなっちゃったの」
佐和が僅かに顔を上げた。その目には大粒の涙が浮かんでいる。
「お父さんね、昨日から居なくなっちゃったの」
「どこかへ出かけているんじゃ……」
「だって仕事にも行ってないし、もう警察に届けようかってお母さんが……」
「そう……」
嗚咽を漏らす佐和は、耐えきれなくなったのか巳継の肩に額を押しつけて泣き始めた。
肩でも抱いて「大丈夫だよ」と言えれば良いのだが、そんなことはできない。
どうしようもないほどアルバムを見たくなかった。今も涙を流し続ける佐和に、
「さっきからあなたの後ろに立っている人はお父さんですか?」
などと聞けるわけがない。
霊は別に怖い存在ではない。たかが幽霊だ。余程強い恨みでもない限り、人に影響など与えられない。
そうは言っても、今日、佐和が体育館で言ったとおり、後ろの霊が父親だった場合、既に死んでいることになる。巳継にだけわかる、確固たる証拠だ。
軽はずみな発言はできない。
渉はというと、ずっとその霊のことを凝視していた。何をするでもなく、暫くただ凝視していたかと思えば、その霊に向かって、「聞きたいことは山ほどあるんだが、ちょっと良いか?」と部屋の外を指さして連れ出してしまった。
まあ幽霊同士も互いに影響を与え合うことは出来ないので、何も起こらないだろう。
二人が出て行ったので、佐和と二人きりになった。
しかし、そのあとも沈黙が続いた。
どう言ったらいいんだろう。「僕が何とかするよ」とでも言えば良いのか。いや、できるわけがない。自分に何ができる。警察に任せるべきだ。ならば「僕には何もできないよ」と言うべきか。駄目だ。さすがにそれも言えない。泣いてる女子相手にそんな突き放すようなことを言えるわけがない。
巳継はほんの少し経った後、こう言った。
「泣かないで……。一緒に探すから」
「ほんとう?」
できるのは、もう寄り添うことだけだ。
「……うん、ほんとう」
探すよ。絶対に。あなたが納得するまで、ずっと。
暫くして泣き止んだ佐和にアルバムを見せてもらうと、そこには先ほどの幽霊――篠原
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