第九話 合コン
「ラララ―ララララー!」
私は自作の歌を歌い、ステップしながら、出勤しました。
周りから変な目で見られている気がしますが、そんなことはどうでもいいのです!
所詮は有象無象の輩たち、ぶっちゃけ、いてもいなくても変わらない奴らです。
私は今日こそ、素敵な男性と出会うのです。
イケメンで高身長で、お金持ちで、やさしくて、掃除も料理も育児もすべてやってくれて、
私が1日中ぐーたらしていても、何も言わず、愛情を向けてくれる、そんな男性を今日こそゲットしてやる!
そして、仕事をやめるのです!
「ラーラーラーラーラー!」
歌を歌っていると、あっという間に職場に着いてしまいました。
「おっはようございまーす!」
職場に入り、今日も元気に挨拶。
課長とレイフ君は何か作業しながら「おはよう」と返事をしてきた。
忙しそうですね、何やら。
自分のデスクに向かうと、隣りの机で作業しているメリンダさんはゾンビの絵を描く手を止めて、私の方を見ました。
「おはよう、リシアちゃん」
「おはようございます、メリンダさん」
「なんかリシアちゃん、楽しそうね」
「ええ、今日、合コンをするので、フフフフ、楽しみで仕方ないのです」
「え、リシアちゃん、合コンするの!」
「ええ、だからそう言ってるじゃないですか」
「リシアちゃんが悪い男に騙されたらどうしましょう……」
「大丈夫ですよ、私はだます側ですから」
「なめていたら駄目よ、生きている男はいやらしいことばかり考えているうえに、狡猾なんだから」
とメリンダさんはちらっとレイフ君を見た。
彼は「いや、なんでそこで俺を見る。おれはそんなんじゃねぇぞ」と抗議の声を上げたが、
メリンダさんは無視して私に視線を戻した。
「とにかく、リシアちゃんが心配だわ、私も行くわ」
「え、ええ、いいですよ、べつにそこまでしなくても」
「私も行くわ!」
とメリンダさんがしつこいのでしぶしぶ承諾することにした。
でも、ほんとにべつにこなくていいんですよねー、ぶっちゃけありがためいわくなんですよねー。
そして定時になると、まだ仕事が残っていたし、課長もレイフ君も残っていたが、無視して退勤した。
課長から「おい、まだ仕事が残っているぞ」と言われたが無視した。
レイフ君からも「おい、俺がまだ残っているのに帰るつもりか」と言われたが、これももちろん無視した。
さて、合コンの開催場所である酒場へ行く前に、広場で女子メンバーたちと待ち合わせしてるので、まずはそこへ行く。
私とメリンダさんは広場の噴水の前で待っていると、合コンの参加メンバーが来た。
「ごめーん、待ったー?」
そこに来る女の子たちは、自分よりもワンランク以下のルックスの者たちばかりだった。
それを見て、メリンダさんが「リシアちゃん……」とジトっとした目を向けてくる。
わるいですか? 私の魅力を引き立たせるために、自分以下の容姿の連中を呼び寄せませたけどなにか?
これも作戦ですよ、作戦。
でも、私のその作戦はすでに狂ってしまっているんですよね。
それもこれもメリンダさんが合コンに来ると言ってきたせいです。
メリンダさんは私と同じくらいの美人ですし、彼女が来ちゃうと私が一番モテないじゃないですか。
私が一番ちやほやされたかったのに―。
そして私が男子たちからお姫様のように扱われるのを見て、嫉妬で歯ぎしりをする醜い女たちの顔が見たかったのにー、ちぇー。
参加者全員が集まったので、私たちは広場を離れ、酒場へと向かった。
店の中へ入ると、幹事の女性があるテーブルに向かいました。
そこにはすでに緊張した面持ちの男の子が四人いました。
「ごめんなさい、待ちましたか?」
と幹事の子が言うと、
「い、いや、全然待ってないよ」
「う、うわぁ、み、みんな、かわいいね、デュフフ」
「き、緊張するなぁ」
「今日はよろしくね」
一番左から順に、フツメン、変態っぽさそうなフツメン、内気そうなフツメン、肉食系のフツメンが口々に声を上げた。
全員、フツメンしかいないじゃない、
ということは、あとは性格とかどれくらいの収入があるかにかかっていますね……。
女子たちが全員、席に座ると、とりあえず自己紹介することになった。
まずは女子の方から。
「私はエマ・オルコット。武器屋の一人娘です。普段は家の手伝いをしていて、趣味はガーデニングかな」
「マリアンヌ・アップショーです。料亭のウェイトレスをしています。趣味はカフェ巡りです」
「エミーリア・チップチェイスよ、研究所で魔法の研究をしているわ、休日は……休日も魔法の研究をしているかな」
左端の席に座っている人から順番に、自己紹介していく。
次はメリンダさんだ。
「メリンダ・ハンティントンよ、回復ポイントを設置する仕事をしているわ、趣味は、絵を描くことね、好みのタイプは死んでいる人、かな」
メリンダさんがそう言った瞬間、私以外の全員が「え?」困惑した表情になったが、冗談と思ったらしく、男たちはあははと苦笑いした。
そして、次はいよいよ私の番
「リシア・アーネットです、メリンダさんと同じ会社で働いています、休日はお菓子を作ったり、編み物をしたりして過ごしています」
実際は休日なんて寝たり、だらだらして過ごすことが多いが、当然ありのままを伝えず、家庭的な女の子であることをアピールしておいた。
私が自己紹介した後、今までで一番大きな拍手が起きる。
ふふん、上々な反応。まぁ、当然ですがね。
そして、次は女子たちの向かい側の席に座る、男子たちの自己紹介になった。
男子たちも左端から順番に話しだしていく。
「メイナード・チャンシー、冒険者だ、趣味は釣りかな」
冒険者か、危険な仕事でkがが多いし、一部のトップ層を除いて、冒険者の収入は微妙なんですよね。
顔もフツメンですし、この人はありかなしかでいえば、ぶっちゃけないですね。
まわりの女子たちも悪くはないけど微妙……という感じの反応だ。
「イルデブランド・ボーウェン、八百屋で働いているよ、趣味はギャンブル、でゅふふ、好みのタイプは小さい女の子、かな」
と言って、私の方を見る。
こいつはないな、うん。
私以外の全員も同じことを思っていそうな顔をしている。
「ぶ、ブラッドリー・ブレイズ、です、宿屋で働いています、趣味は読書です」
うーん、なにもかもふつうですね、おどおどしているし、ぶっちゃけ一緒にいてもつまらなさそう。
「バージル・ベックウィズだ、王国騎士団で働いているよ」
その瞬間、私のメリンダさん以外の女子の目がか輝く。
騎士団は彼氏にしたい職業ナンバーワンですしね。
「へぇ、騎士団、すごいですねー」
幹事のエマさんが少し身を乗り出して、バージルさんに上ずった声をかける。
「騎士団と言っても、下っ端の騎士だけどね」
「いえいえ、それでもすごいですよー」
とマリアンヌさんが甘い声をだす。
私とメリンダさん以外は彼に夢中なかんじだ。
バージルさんか。騎士団っていうのは悪くないんですけど、ただのモブ団員じゃなぁ、顔も普通だし、私が付き合ってもいいと思える人はこの場には正直いませんね……
バージルさん以外の男子は全然女子たちに話しかけられなくて、面白くなさそうな顔をしている。
料理が運ばれてくると、バージルさん以外の男は肩身が狭そうにちまちまと料理を食べてばかりいます。
少し気の毒ですが、競争社会ですからね、しかたありません。
メリンダさんも男子からちょくちょく話しかけられているが、すべて無視して、料理を食べることに熱中していた。
相変わらずマイペースな人ですね、彼女は。
「あれ、今気づいたけど、男子一人いなくない?」
と幹事のエマさんが言う。
言われてみれば、女子が五人いるのに対して、男子は四人しかいませんね。
「ああ、一人、残業で遅くなるかもって連絡を受けてる、お、噂をすれば、来た来た」
とバージルさんが店の入り口の方を見る。
私もそこへ顔を向けると、さわやかな銀髪のイケメンがこちらに来た。
て、あれ、レイフ君じゃないですか!
「ごめん、仕事で遅れた……て、なんでリシアとメリンダがいるんだよ」
「それはこっちのセリフです」
私が言うと、メリンダさんもうんうんと頷きました。
「なになに、このイケメンと知り合いなの、リシアちゃん?」
エマさんがうきうきした感じで私に訊いくる。
マリアンヌさんとエミーリアさんもポートした顔でレイフ君を見つめている。
「会社の同僚なんですよ」
「へー、そうなんだ、ねぇねぇ。レイフ君は好みのタイプとかいる?」
「え、好みのタイプ? うーん、わかんねぇな」
「好きな食べ物は?」
「初恋の人は?」
「趣味は?」
私とメリンダさん以外の女子から、レイフ君は質問攻めになっていた。
先程までちやほやされていたバージル君は不満そうに顔を歪めている。
競争社会ですからね、しかたありません。
結局、イケメンが勝つ世界なんですよねー。
それからは終始、レイフ君が女子三人からちやほやされるだけだった。
合コンが終わり、店を出ると、すっかり暗くなっていました。
みんな帰っていったので、私も帰ろうとすると、レイフ君が声をかけてきました。
「ちょっと待てよ」
「なんですか?」
「少し話しながら帰ろうぜ、俺とお前、途中まで帰り道一緒だろ?」
「まぁ、いいですけど、襲わないでくださいね?」
「襲うか! たくっ……」
私たち二人は隣り合って歩き出しました。
「それにしても、仕事を早退してどこに行くかと思ったら、合コンかよ」
「レイフ君だって、合コンに来てるじゃないですか」
「どうしてもって頼まれたんだよ。それに、俺はちゃんと仕事を終えてここへきた」
「さすが社畜ですね」
「誰が社畜だ、たく……」
「そういえば、けがは大丈夫ですか?」
「ああ、もう痛みはない」
「そうですか、ならよかったです」
「で、あの中の誰かと付き合うのか?」
「うーん、微妙ですね」
「ハー、どこかにいい男性いないですかねー」
「いるだろ、ここに」
「え、どこ?」
「ほら、ここだよ、ここ」
「あー、あなたですか、まぁ確かに顔はいいですけど、年収とか、ねぇ……」
「望みの高い奴だな、えり好みしてると婚期逃すぞ」
「うぐ、痛いとこついてきますねー、ハァ、そろそろ私も妥協するべきなのでしょうか」
「そうだ、もうあきらめて身近な男にしとけ」
「あはは、なんですか、レイフ君、もしかして俺と結婚しろとでもいうつもりですか?」
「ああ」
「まぁそんなわけないですよねー、て、え?」
「そんなわけあるよ」
「え、わ、わたしのこと、好きなんですか?」
「ああ、好きだよ」
「うそ、ですよね」
「嘘じゃねえよ」
「……私のどこが好きなんですか?」
「まぁ、見た目も嫌いじゃないし、まぁ、あと性格、だな」
「エ、性格? 自分で言うのもなんですか、私、そんな性格良くないと思いますよ?」
「自覚してたのか……わかってるよ、お前の性格がくそだってことは十分に」
「ひどいですねぇ、でもならなんで私のことが好きなんですか」
「まぁそんな性格含めて好きというか、お前といると、なんだかんだ言って楽しいからな」
「なんですか、それ、なんだか腑に落ちないです」
「で、どうなんだ、俺と結婚したいか?」
「うーん」
え、どうしましょう、本気で。顔はいいし、ここで断って、これ以上の人とであえるのでしょうか?
「俺と結婚するの、嫌なのか?」
「嫌では、ないですけど」
「なら、いいじゃねぇか」
「……そうですね」
ていうことで、なんだかなし崩し的に、私たちは結婚することになりました。
「ていうことで、結婚しましたし、仕事やめていいですよね?」
結婚式の二日後、同居を開始した初日に、彼に言いました。
「いやいや、なに言ってんだ、俺の収入だけじゃ、今はとても二人で生活できないだろ」
「え、まじですか」
「まじだ、だからしばらくはお前も働いてくれ」
「ええー」
やっぱりこんな男と結婚するべきじゃなかったかもしれません。
「今週は休日も出勤らしいぞ」
「マジですかー、もうやだー、はやく離婚して、もっと高収入の男と結婚して、こんな会社やめてやるー!」
なんて言いながらも、結局、私はなんだかんだレイフ君と結婚生活を末永く続け、この会社でも働き続けるのでした。
私、回復ポイントを設置する仕事をしています! 桜森よなが @yoshinosomei
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