第七話 レイフ・シールバー

 私は現在、倉庫の整理整頓と片づけと掃除をしています。

 魔道具とか薬草が入った袋とかが項目別とかではなく、同じ箱にごっちゃにして入ってたりするので、きちんと用途別に分けています。


 例えば、回復用という項目の箱の中には、薬草とか携帯食料とか解毒薬とかを入れて、攻撃用という項目の中にはナイフとかブーメランとかパチンコとかサンダーボルトとかの攻撃魔法が込められた魔道具を入れたり、危険物という項目の中には爆弾とかを入れたり、そういうふうにアイテム類を整理します。


 あとは使わない、あるいは使えないアイテムをごみ袋に入れたり、ほこりがかぶってるアイテムを掃除したりしています。

 この倉庫の床とか棚とかもところどころ汚れているので、あとで掃除しないといけませんね、はぁ……しんど。


 ニコラハム君が辞めてからというもの、彼がやるはずだった雑用を私たちがやる羽目になっています。

 ああ、はやくまた新人来てくれないかな……。

その新人が金持ちの家の子でイケメンで性格もよくて、私だけを愛してくれて、結婚したら、仕事なんてしなくていいって私に言ってくれて、家事も育児も全部やってくれる、そういう人だったらいいな、

 そんな新人来ないかな……。


「この会社に来るわけねぇだろ、そんな新人」


 隣りでアイテムについているほこりを布巾で拭いていたレイフ君が、冷たく言い放ちました。

 その一言で、私の美しい妄想が、ガラスが割れるように崩壊していきました。

 パリィィーン、ガラガラガシャーン……


「私の心が読めるんですか、レイフ君?」

「読めねぇよ、お前が口に出してたんだよ」

「あらやだ、私ったら」


 おほほと笑うと、「その口調、似合わねえからやめろ」と作業する手を緩めずに彼は言ってきた。



 掃除を終えて、ワークスペースに戻ってくると、課長にレイフ君とともに呼び出された。


「明日は、アーネットとレイフ君に、一緒にダンジョンに行ってもらう」

「レイフ君と? 久しぶりですね」


 いつ以来だろう、もう数か月は前な気がする。

 でも、二人での仕事って一人だと難しい案件ってことを意味するんですよね。

 どこのダンジョンに行かされるのでしょう……。


「エシャータの森に行ってほしい」


 エシャータの森ですか……。

 問題はどこのエリアまで行くかです。

 基本的にダンジョンは奥の方へ行けば行くほど、強力なモンスターと遭遇する可能性が高くなります。

 レイフ君が質問する。


「どこのエリアまでですか?」

「エリア5までだ、そこの回復ポイントを新しいものに変えてきてほしい」


 エリア5、私やレイフ君にとっては強力なモンスターが出てくる箇所だ。

 熟練の冒険者なら、大した脅威じゃないでしょうが、

 まぁ倒さないでやり過ごすという前提なら、私とレイフ君の二人なら問題ないかなという難易度。

 レイフ君はゆっくりと頷いた。


「わかりました」

「レイフ君、足引っ張らないでくださいね」

「それは俺のセリフだ」

「おまえら、ちゃんと協力し合うんだぞ?」


 と課長が不安そうに私たちを見る。

 まぁ、レイフ君とは付き合いが長いし、一緒に仕事したことも何度かあるので、その点は大丈夫だ、たぶん。



 さて、翌朝、

 私とレイフ君は会社につくと、すぐに倉庫に行き、必要なアイテムをお互いにバッグに入れた後、

 道具屋に向かった。

 店先にいたおばさんが私たちを見て、「あら」という。


「何々、デート?」

「「ちがいます」」

「あらあら、息ぴったりじゃない、相性いいんじゃないの?」

「いや、そんなことはないと思います」「それはないかと」


 私もレイフ君もほぼ同時に似たような内容の発言をした。

 お互い,ムッとにらみ合う。

 おばさんはあらあら仲がいいのね、とにやにやしている。

 おばさんは何か誤解しているようですね、私とレイフ君はそういうんじゃないですから、全然。

 あくまで仕事だけの関係ですから。


「それにしても、美男美女ね」

「いえ、そんなことないかと。特にリシアは」

「私はともかく、レイフ君はそうでもないと思いますね」

「そんなことないわよ」

「いいえ、あります。それよりもおばさんのほうが若々しく美しいと思います」

「あらやだ、リシアちゃんはまたお世辞を言って、今日も安くしとくわね」


 と上機嫌に店の中へ消えていくおばさん。

 レイフ君は中身はもっと醜いな、と私を蔑んだ目で見てきた。

 なんですか、その目は。

 賢いと言ってください、賢いと。いいじゃないですか、安くなるとレイフ君の懐的にも優しいですし。

 おばさんと入れ替わりで、シェリサがほうきを持って店から出てきた。

 おっはーと挨拶をしてきたので、私も「おっはー」と返す。


「珍しいね、レイフとリシアが一緒に来るなんて」

「今までもあっただろ」

「まぁ、あったけど、結構前のことじゃない、今日は二人で仕事に行くの」

「はい、まぁ、そんなところです」


 と私が答えると、彼女は私とレイフ君を交互に見て、ふーんとなにやら意味深に呟きます。


「なんですか、シェリサちゃん、私とレイフ君の顔に何か変なものでもついていますか?」

「いや、そういうわけじゃないの、ただ二人ともとってもお似合いだなって思って」

「「はぁ?」」


 不本意にも、私とレイフ君の言葉が重なった。


「二人、付き合わないの?」

「いやいや、リシアと? ないない」

「レイフ君にそういわれるのは癪に障りますが、まぁありえないですね」

「ふーん、そっかー」


 とシェリサちゃんは私たちをにやにやしてみている。

 まったく、この子は。すぐこうやって恋愛と結びつけようとする。


「早く足りないアイテム買うぞ」


 とレイフ君は店の奥へ消えた。

 私も店の奥へ行き、割り引きされたアイテムを買った後、店を出た。

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