さかさまになったのは、いつ

 良く練り上げられたプロットでありミステリーであった。

 現実でも、なかなか犯人が捕まらない事件において捜査本部の誰かが自殺したり過労死したりすることはある。やっと容疑者確定かと思いきや、冤罪であることも。

 陳腐ながら、一つの嘘は百の嘘を生む。みんなが『解決』と思いこみたい、それでいて漠然と『解決』になど至ってないのを理解している事態(決して事件ではない)は次から次に犠牲者を呼び寄せていく。

 そんなとき、人間に……とりわけその事態に該当する組織人として……できることはごくわずかだ。

 自責の念にいくらかられたところで、しょせんは自己満足だろう。自己満足を打ち破るべく行動した前半の主人公が、過去に失った貴重な自他の幸せを思い返しつつも結局は作中にある通りの結末となったのは皮肉である。

 左様な皮肉を踏まえたうえでなお、彼はようやくにも自分が完璧に納得できる結果にたどりつけた。

 後半の主人公は、前半の彼が掴んだものを検証し語っていく役割を担った。一連の事態が家族愛を基礎にしているのは明白だが、容疑者の妹と主人公は写真のネガとポジであろう。

 注目本作。

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