一面が集まり多面となる。事件と人間を暴く、胸をつくミステリー

読み進めながらタイトルの「責」が幾度も思い出されました。
物語は、同一人物に複数の視線を向けることで、その人自身の本心や、周囲からどう捉えられているかといったことを明らかにしていきます。本人の心こそがその人物の真実ではありますが、他人の目に映っているその人物もまた、たとえ本人の心と違っていても、周囲にとっては紛れもない真実です。また、理性や客観的な事実等があっても、人間とは時に、自分の心・主観からは逃れられない存在なのだと思いました。そして、その心も入り組んでいるのだと思いました。
いくつもの主観的・客観的現実が絡み合い、広がっていく物語は見事でした。事件は加害者、被害者といった当事者だけでなく、無責任、或いは無関心な傍観者たちにまで及んでいたように思います。物語を越えて、読者である私たちも今一度、事件や事故、加害や被害といったものを自分事として考えるべきだ、と思わされました。

苦しみ、悩みと共にある物語に、心が何度もさざ波立ちました。そういった衝撃とは別に、ミステリーな衝撃も魅力的でした。
主人公がアッと何かに気づく瞬間に、私の中でもそれまでに散りばめられた描写と得たばかりのピースが繋がるということが何度もありました。数々の描写が意味を持つ瞬間はとても衝撃で、爽快でした。

泣きそうになったり、溜め息が出たり、遣る瀬無さが込み上げてきたり。胸に迫るもののある、考えさせられる作品でした。
「責」とは何か? 事件の真相は?
ぜひ、ご自分で読んで確かめていただきたいです。

その他のおすすめレビュー

きみどりさんの他のおすすめレビュー603