凶悪な強盗事件を起こした挙句に、5人の命が奪われることになった自動車事故を引き起こした、藤池光彦。
彼の墓を訪れた徹の前に、藤池の父、稔が現れる。
藤池光彦が起こした事故は、当時警官だった徹が追跡中に起きた出来事で、2人は法廷で顔を合わせていた。そのことがきっかけで藤池家に呼ばれた徹は、事件をもう一度調べ直してほしいと懇願される。
断りきれずに、ひとりで再捜査を始めた徹は、思いもよらない真実を知ることになる——。
徹は、間違ったことはしていないと思っていても、自分が追跡をしたことで事故が起きてしまったのではないかと、自分を責め続けています。
そんな徹に、事件をもう一度調べ直してほしい、と言った藤池光彦の両親も、息子の無実を証明できなかったことを悔やんでいます。
登場人物たちが苦しんでいる中で、警察という大きな組織の闇が、本当にあった出来事なのではないかと思うほどに、リアルに描かれているのが印象的でした。真実が明らかになっても、全ての人が救われるわけではないのですが、腹立たしさを覚えます。
徹や藤池家族だけでなく、登場人物たちは全員が主役のように感じました。本当に悪事を働いた人間は平然と変わらない日々を送り、何も悪いことをしていない人たちはみんな自分を責めている。
物語が進んで救われたように見えた人も、実はまだ苦しんでいて、全ての真相が明らかになっても、やるせない気持ちが残りました。
本格ミステリーが読みたい方にオススメです。
読み進めながらタイトルの「責」が幾度も思い出されました。
物語は、同一人物に複数の視線を向けることで、その人自身の本心や、周囲からどう捉えられているかといったことを明らかにしていきます。本人の心こそがその人物の真実ではありますが、他人の目に映っているその人物もまた、たとえ本人の心と違っていても、周囲にとっては紛れもない真実です。また、理性や客観的な事実等があっても、人間とは時に、自分の心・主観からは逃れられない存在なのだと思いました。そして、その心も入り組んでいるのだと思いました。
いくつもの主観的・客観的現実が絡み合い、広がっていく物語は見事でした。事件は加害者、被害者といった当事者だけでなく、無責任、或いは無関心な傍観者たちにまで及んでいたように思います。物語を越えて、読者である私たちも今一度、事件や事故、加害や被害といったものを自分事として考えるべきだ、と思わされました。
苦しみ、悩みと共にある物語に、心が何度もさざ波立ちました。そういった衝撃とは別に、ミステリーな衝撃も魅力的でした。
主人公がアッと何かに気づく瞬間に、私の中でもそれまでに散りばめられた描写と得たばかりのピースが繋がるということが何度もありました。数々の描写が意味を持つ瞬間はとても衝撃で、爽快でした。
泣きそうになったり、溜め息が出たり、遣る瀬無さが込み上げてきたり。胸に迫るもののある、考えさせられる作品でした。
「責」とは何か? 事件の真相は?
ぜひ、ご自分で読んで確かめていただきたいです。