SFとヒューマンドラマが融合したスケールの大きな物語です。

「水縹草は雪が降る日にだけ咲く花で、その花弁は作り物のように鮮やかな水色を放っている」

第一話で描写される、神秘的な花、水縹草。その摩訶不思議なイメージだけで、あなたはもう、この物語に引き込まれるでしょう。

特筆すべきは、まず、繊細な風景描写です。タイトル『雪忘花』から察せられるように、この物語の中ではしばしば雪が降りしきります。それは物語を読み進めていくうちに、静謐、清浄なイメージから、孤独、狂気のイメージに変わっていきます。

呪いのように舞い落ちる雪により連綿と綴られるのは主人公新奈の心理です。彼女には、ほかの村人たちとは違う大きな秘密があり、その鍵となるのがこの雪です。戸惑わせ、憂鬱にさせ、打ちのめし、死をも願わせるほどの雪の魔力。新奈は雪を憎悪しますが、それをあざ笑うかのように、雪は美しく舞い踊ります。

物語のあらすじを述べてしまうのは止めておきます。ぜひ、ゆっくりと読みながら、驚き、憤り、悲しみ、新奈や沙羅、湊たちと、宇宙のどこかに展開されているかもしれない別世界を生きてみてください。

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