主人公の少女は、雪が降ると周りの人々が記憶を失ってしまう不思議な村で暮らしています。幼い頃から、自分だけが忘れられる孤独に苦しんできました。それでも、親友で恋人の沙羅の存在が、少女の心の支えになっているのが伝わってきます。
二人の柔らかな会話やスキンシップを通して、少女の沙羅への愛情が感じられ、読んでいてほっこりします。一方で、雪への恐怖心や周囲の偏見に悩まされる様子もリアルに描かれています。
冬の白い景色や、少女の儚くも美しい心情が繊細に表現されており、これから先の展開が気になる作品です。雪解けとともに、二人の恋も実を結んでいってほしいですね。
この村には、冬にだけ咲く白い可憐な花があった。そして、この村の人々は冬になり、雪が降ると記憶をなくしてしまう。例えそれが自分の子どもであっても、雪が降れば忘れてしまうのだ。村人たちはその記憶障害を、妖精の悪戯だと信じていた。そして、存在を否定された子供たちのために、ある施設があった。
その施設に預けられた主人公の少女は、例外的に雪が降っても記憶をなくすことはなかった。そんな主人公の恋人でありルームメイトである少女は、皆と同じように記憶をなくしてしまう。主人公は忘れられていく記憶と共に置き去りにされ、深い孤独と戦っていた。しかし、そんな生活の中、ある青年が記憶に関わる告白をしたことから、主人公たちの運命は動き出す。
暴かれる施設の歪んだ構造、そして本当の目的。
主人公の記憶の秘密に隠された、恐ろしくも悲しい真実。
序盤は少し不思議な物語をさすSFと思いきや、事件をきっかけに本格SF作品へと変貌するという構造を持っています。
また、雪や記憶といった繊細なものを扱っているこの作品は、文章自体も美しくも繊細で、ハッとする比喩表現に満ちています。
本当に素晴らしい作品でした。
是非、御一読下さい!