冬にだけ咲く花の、戦慄の正体。

 この村には、冬にだけ咲く白い可憐な花があった。そして、この村の人々は冬になり、雪が降ると記憶をなくしてしまう。例えそれが自分の子どもであっても、雪が降れば忘れてしまうのだ。村人たちはその記憶障害を、妖精の悪戯だと信じていた。そして、存在を否定された子供たちのために、ある施設があった。
 その施設に預けられた主人公の少女は、例外的に雪が降っても記憶をなくすことはなかった。そんな主人公の恋人でありルームメイトである少女は、皆と同じように記憶をなくしてしまう。主人公は忘れられていく記憶と共に置き去りにされ、深い孤独と戦っていた。しかし、そんな生活の中、ある青年が記憶に関わる告白をしたことから、主人公たちの運命は動き出す。

 暴かれる施設の歪んだ構造、そして本当の目的。
 主人公の記憶の秘密に隠された、恐ろしくも悲しい真実。

 序盤は少し不思議な物語をさすSFと思いきや、事件をきっかけに本格SF作品へと変貌するという構造を持っています。
 また、雪や記憶といった繊細なものを扱っているこの作品は、文章自体も美しくも繊細で、ハッとする比喩表現に満ちています。
 
 本当に素晴らしい作品でした。

 是非、御一読下さい!

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